第188話 雪崩式の魔法攻撃

「――《真空破弾エアインパクト》×3! 《土砂塵嵐サウンドストーム》×3! 《雹塊洪水ヘイルフラッド》×3!!!」


「なんじゃ、こいつぅぅぅゲスゥゥゥ――……!!!」


 ヤッスが『闇夜月型の魔杖ダークムーン・スタッフ』を掲げて《最速唱》スキルと《三重魔法》スキルを駆使し、怒涛の如く攻撃魔法を連続して打ち放っている。

 どれも風・土・水魔法の中級に属する割と強力な魔法ばかりだ。


 小人妖精リトルフ族の魔法士ソーサラーチョリスは魔法で障壁を展開しようと呪文を詠唱していたが、《最速唱》の前では魔法の完成が間に合わず直撃を受けていた。

 まるでマシンガンやガトリングガンで撃たれるかのように滅多打ちにされている。


「トドメだ――《火炎嵐ファイアストーム》×3!」


「うぎゃぁぁぁぁ、最悪ゲスゥゥゥゥゥ!!!」


 ヤッスは間髪入れず三連続で魔法を繰り出した。

 当然、チョリスは防御する間もなく吹き飛ばされ炎に焼かれて上空を舞う。

 そのまま地面へと落下し大の字に倒れた。

 魔道服ローブがボロボロで凄惨さが目立っている。


「ぐぅぅぅ……こんなの嘘でゲスゥ」


「まだ生きているのか、このとっつぁん坊や!? 腐っても流石はレベル45――いいだろう! 今度は《屍鬼名匠アンデッドマスター》でレベル50のデュラハン君を召喚してやる! 確実にトドメを刺してやるぞぉぉぉぉ!!!」


 ヤッスは《アイテムボックス》から『MP回復薬エーテル』を出し、ガブ飲みして魔力を回復させている。

 きっとあんな感じで不足分の魔力を補いながら戦っていたのだろう。

 にしてもやたらと鼻息が荒く目が血走り興奮しているぞ。

 どうやらヤッスも俺と同様に「冒険者スイッチ」を持っていたようだ。


「ひぃっ! お助け~~~ゲスゥ!!!」


 チョリスは大ダメージのあまり立ち上がれず、地面を這いつくばっていた。

 まるでボロ雑巾のように見える。

 そして、レベル25の明らかに格下の魔法士ソーサラーを相手に、すっかり怯え戦意喪失してしまったようだ。


 ありゃ最早リンチだな……。


 どうやら、チョリスという魔法士ソーサラーは、ヤッスのような《速唱》系のスキルは持っていなかったらしい。

 いくら高レベルで強力な魔法を誇示しようと、呪文が完成しなければどんな魔法でも使用が不可能である。


 ヤッスも相手が呪文の詠唱中にもかかわらず、怒涛のカウンターで雪崩式の魔法攻撃を連発して撃つもんだから、チョリスは成す術がなくノーガードでボコ殴り状態になってしまったのだろう。


 例えるなら、こっちが大振りの最強ストレートパンチを打つ前に、相手側から数十発の連打ジャブを浴びせられるようなものだ。


 ああなったら、もうレベル差は関係ないよな……。

 ヤッスの奴、実は魔法士ソーサラー同士の魔法戦タイマンに強かったのか。

 流石は『最速攻詠唱使いファーテスト・アリア』だ。

 もうやべぇくらい半端ない……。

 

「ヤッス、もういい! それ以上やったらキルしちまうぞ!」


 見兼ねた俺が制止を呼びかけると、ヤッスはこちらに気づき振り向いた。


「おおっ、ユッキ! あの腐れ外道勇者に勝ったのか!?」


「ああ、みんなが導いてくれたおかげでな。カズヤの野郎を九.九割殺しにしてやったぞ」


「そうか、やっぱり我が親友は強いな……僕は信じていたぞ!」


「ありがと。話を戻すが、そのとっつぁん坊やも『零課』に引き渡すからキルするなよ」


 このチョリスにも聞き出せる情報があるかもしれない。

 粛正の云々はゼファーの采配に委ねよう。


「わかった、ユッキがそこまで言うのなら攻撃を止めよう。せっかくデュラハン君と究極合体攻撃とか試してみたかったんだけどな」


 こいつ、またとんでもないことを考えているぞ。

 てか《屍鬼名匠アンデッドマスター》スキルってデュラハン以外でも屍鬼アンデット系と幽霊ゴースト系モンスターを召喚できるよね?

 妙にデュラハン君にこだわるところを見ると、前回のジーラナウ戦で気に入ってしまったようだ。


 俺はヤッスを無視し、瀕死のチョリスに近づく。


「ひぃい! お前は盾役タンクの……まさかカズヤさんがやられちまったゲスか!?」


「今言った通りだ、とっつぁん坊や。結構、元気そうだからこのまま拘束するからな。命までは奪わないから安心しろ」


「わ、わかったっす……従うゲスぅ」


 キルされないと思い安心したのか、素直に頷き屈服するチョリス。

 見た目は可愛らしい顔した妖精族の少年だが、実年齢は35歳でそこそこのオッさんだ。

 だから俺は心を鬼にするぜ。


「安心するのは早いぞ。そのままロープでぐるぐる巻きにして、その辺で吊るして放置だからな」


「へ?」


「へ、じゃない。俺とヤッスは戦っている仲間達の支援に向かう。その間、他所のモンスターがお前を襲っても自業自得。密猟なんかに加担した自己責任だ。運が良かったら回収してやる」


「ち、ちょい、待ってくださいゲスよぉ! せめてお一人護衛をつけてくださいゲス!」


「ゲスゲスうっせーっ。俺達にとってゲスの命より仲間の安全が優先だ。ヤッス、猿ぐつわでこいつの口も縛ろうぜ。万一、呪文を唱えられても厄介だ」


「流石はユッキ、見事なまでに徹底しているぞ。覚悟しろ、とっつあん坊や!」


「うぐわぁ! やめ、やめてくれゲスゥぅぅ……うぶぅ!!!?」


 俺とヤッスは、チョリスの手と足をロープで縛り、口には布で猿ぐつわをして喋れなくする。ついでに目隠しもしてやった。

 そのまま、その辺の崖に吊るして放置する。


 たっぷり恐怖を味わいながら懺悔しろ。


 けどガチでモンスターに食われても後味が悪いので、ヤッスに頼みデュラハン君を召喚してもらい待機させた。


「悪いな、ヤッス。ほら」


 俺は移動しながら自分が所持する『MP回復薬エーテル』を渡した。

 ヤッスは瓶を開けて飲み消費した分を回復させる。


「構わないよ、やはりユッキは優しいな……野咲さんが惹かれるのも頷ける」


 珍しく俺を持ち上げてくる親友につい面映ゆくなる。


「そ、そうかな……て、杏奈が俺に惹かれているって誰の情報?」


「ギリC(秋月)だ。最近、何かと嬉しそうに話してくるぞ。『杏奈って幼馴染はクズだったけど、男を見る目だけはある』とな」


 うん、まさしく秋月の言う通りだ。流石、彼女の親友って感じ。

 ってことは、やっぱり杏奈も俺のことを……やべぇ超嬉しい!

 最近、ますますいい感じの仲だけに希望が溢れてきたわ!


 こりゃ近日中に告白するしかないぞ。

 今時期のタイミングなら……ロマン溢れる恋人達の聖夜ことクリスマス・イブとか?


 などとハッピープランを考えていると、何者かが必死でこっちに向かって走って来る。

 頭頂部以外は全身真っ白な毛に覆われた白熊族ホワイトベアで巨漢の重戦士ファランクス


「テメェはサンブー!?」


「ひぇぇぇ! こっちにも敵がいるんだなぁ!? てか盾役タンク魔法士ソーサラー!? えっ、てことは……カズヤさんとチョリスがやられちまったのかぁぁぁぁ!!!?」


 サンブーは俺達の姿を見るや立ち止まり後退りしていく。

 よく見ると、鎧は至る箇所が砕かれてボロボロであり、肉体にも結構な深手を負っているようだ。


 その後方から、美夜琵とガンさんが走ってきた。


「待てぇ、卑怯者め! 逃げるなぁぁぁぁ!!!」


「それでもレベル55か!? 俺よりもヘタレ野郎だな!」


 おお、二人とも無事だったのか。

 そこそこのダメージは見られるけど元気そうだ。

 とにかく良かった。


「美夜琵! ガンさん!」


「おっ、真乙殿にヤッス殿ッ! 其方ら無事であったか!?」


「ユッキ、ヤッス、本当に良かった……まさか、あの高レベルの勇者と魔法士ソーサラーにタイマン戦で勝ったのか?」


「ああ見ての通りだ! カズヤは全身大火傷で瀕死! チョリスは崖で吊るしてやったぜ! あとはテメェだけだぞ、サンブー!」


「う、嘘だぁ! あのカズヤさんとチョリスが低レベルの連中にタイマンで負けるわけがねぇんだなぁ! オデは信じねぇぞぉぉぉぉ!!!」


「信じるも何も、こうして僕とユッキが駆けつけているじゃないか? 信じられないのなら見てくればいいぞ」


「んじゃ、そうするんだなぁ――」


 挑発するヤッスに、サンブーは乗っかるようにしれっと逃走を図ろうとする。


「待てぇぇぇい、白熊ァ! 逃がさんぞぉぉぉ!」


 美夜琵は飛び跳ね、巨体の背中に飛び蹴りを放つ。

 サンブーはゴムボールのように軽々と吹き飛ばされ転がっていく。


「ぶほっ痛でぇ! ぼ、暴力反対なんだなぁ!!!」


 むくりと起き上がったと思うと、四つん這いで再び逃げだそうとする、サンブー。

 なんとも情けない姿だ。

 

 あれ? こいつ確か【覇道のキメラ】のサブリーダーでレベル55だよな?

 ぶっちゃけ超弱くね?

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