第75話 闇側のグループチャット

 とある闇側のグループチャットにて



>レイヤ

 こんにちわ

 皆さん上手く逃れました?



>ジーラナウ

 こちらは問題ないわ


 あの【氷帝の国】から逃げ切れたのも、全てアンジェリカのおかげね

 空間転送のユニークスキル、《異次元の輪ディメンション・リング

 とても支援役サポーター探索者シーカーとは思えないわ……


 貴女が転生した災厄周期シーズンの連中は、ろくな評価もできない無能ばかりだったようね?



>アンジェリカ

 いえいえ

 お言葉ありがとうです

 ずっとソロでしたし、人見知りの性格なのでスキルを明かす機会がなかっただけです


 しかし吾田さんを見捨ちゃって良かったのでしょうか?

 


>ドックス

 あの場合しゃーねえだろ?

 相手も【氷帝の国】の幹部ばかりだったからな


 問題は

 ①仲間にヒーラーがいなくなったこと

 ②『零課』に俺達のことを喋らないかだ



>レイヤ

 ①は問題ですね

 ボクらのような闇派閥の“帰還者”は多い筈なのでなんとかしますよ


 ②の件は問題ありません

 吾田さんには、ボクのスキル《想起破滅リコールベイン》を施しておりますので

 本来ならボクの人格と経験を相手に再現させる能力ですが、応用としてボクにとって都合の悪い部分を削除するなど記憶改竄も可能です

 したがって吾田さんから、アナタ方の記憶は抹消されていますよ


 まぁ『彼』へのメッセージとして、ボクの記憶だけはあえて残してますが……



>ジーラナウ

 彼って?

 幸城 真乙?



>レイヤ

 そうです



>ジーラナウ

 ?

 勇者ミオタイム・ブレイヴの弟とはいえ、貴方ほどの“帰還者”がそこまでこだわる相手なの?


 確かにメネーラ復活の生贄とする、「野咲 杏奈」に近づく目障りな奴ではあるけど

 だったら遊びはなしで早々に始末した方がいいんじゃない?

 格下とはいえ油断大敵よ



>レイヤ

 テンプレっぽい台詞になりますが、半分ゲームってところでしょうか?

 幸城君もゲーム感覚で異世界の力を得て眷属となり冒険者となったわけですからね


 自ら神々に利用される道を選ぶとは……

 まったくおめでたい限りですw



>ドックス

 そう呑気なこと言っている場合か?

 あの幸城はレベル10かそこらでレベル34の「名倉」を倒しているんだぞ



>レイヤ

 名倉大介ですか?

 幸城君に敗れた後、『零課』に抹消されたという

 ドックスさんの元お仲間でしたね?



>ドックス

 そうだ

 異世界の災厄周期シーズンじゃ、俺は魔人に転生した魔王の幹部だった

 だが人類との最終決戦で狂戦士バーサーカーと化したガルジェルドのアホに殺されちまったんだ

 けど俺も吾田と同様に転生の際、邪神に不死の加護を与えられた身だ

 間もなくして復活したが、既に災厄周期シーズンが終了し、女神アイリスによって現実世界へ強制帰還されちまった


 帰還後は『零課』に目を付けられないようにするため、死亡したフリをして存在を消し浮浪者となり、その時に似たような事情を持つ名倉と出会い意気投合したってわけさ


 本当なら今頃は奴と銀行を襲い、大金を手に面白可笑しく過ごしていたってのによぉ……



>ジーラナウ

 その盗賊シーフなら知っているわ

 わざわざ『キカンシャ・フォーラム』に侵入して、幸城の情報を手入れ利用するため接触したものの、返り討ちにされたって話


 幸城はレベルの割には防御力VITがバカ高い

 反面、他は平均レベルよりちょい高い程度だから脅威なのはそこだけね

 事前に情報があるなら、決して対応できない相手じゃないわ

 それこそ油断ね



>ドックス

 どちらにせよ、幸城 真乙には怨みがある

 だからレイヤ、俺はあんたと組むことにしたんだぜ


 ジーラナウじゃねえが、今の奴なら俺の『魔槍』で屠ることができる

 呪詛という苦痛を与えた上でな



>レイヤ

 まだその時期じゃない

 幸城君と戦いたいなら、ボクがシチュエーションを用意いたしますよ


 ――絶望という名のね


 彼に関しては、決行日近くまでお預けということでお願いします



>アンジェリカ

 レイヤさん

 決行日までまだ時間がありますよね?


 その間、私達は何をしたら良いですか?



>レイヤ

 ボクはテイムした悪魔デーモン達を育成するよ

 魔王に匹敵する最上級クラスの

 したがって飼い馴らすのに相当な時間が必要となるね



>ドックス

 そのまま『零課』ごと現実世界を滅ぼしてしまえばいんじゃね?

 邪神メネーラ様の復活条件も満たせそうだしな



>レイヤ

 あの連中はそんなに甘くないですよ

 特にゼファーはね……

 それにミオやフレイアも自分のレベルとステータスを偽装している筈

 現実世界の均衡を壊さないためにね


 その証拠に、あの連中は自分らの意志で『奈落アビス』ダンジョンに潜ることはないでしょ?



>アンジェリカ

 レイヤ様の仰る通りです

 

 その気になればソロでも「深淵層」に入れる奴らです

 あえてそうしないのは、現実世界と異世界のバランスを保つためでしょう


 ですが、幸城 真乙も『奈落アビス』に魅入られている傾向がありますよね?



>レイヤ

 まぁ、あのダンジョンは生きているからね

 ギルド、いや日本政府も真相を隠すことで精一杯だろうさ


 それはそうと

 決行日までの準備期間の話に戻りましょう

 アンジェリカはボクの育成が終えたら、また悪魔デーモンの空間転送を頼むよ

 


>アンジェリカ

 わかりました

 バフォメットと同様、レイヤ様がお望みのまま、《異次元の輪ディメンション・リング》を繋げていきましょう



>レイヤ

 ジーラナウさんは地ならし・ ・ ・ ・をお願いします

 決行日までに、大切な「生贄」を育成させるための土台造りの件です


 多少、生徒・ ・達を巻き込んでも構いませんので早々にお願いします

 幸城君を含む【聖刻の盾】を挑発してもOKです



>ジーラナウ

 わかったわ


 それと約束の件、忘れないでね

 事を成し遂げた暁には、もう一度私を異世界に転生・ ・させること

 私達の主神メネーラ様に頼んだ上でね……


 その為の協力よ

 キミの要望通りの悪魔デーモンを召喚したのは私

 逃走先を手配した上で別クラス・ ・ ・のアンジェリカと引き合わせたのも、全て私のおかげなんだからね



>レイヤ

 わかってますよ、

 有能な『闇召喚士ダークサモナー』である貴女には心から感謝です



>ドックス

 それで決行日まで俺は何をしていたらいい?



>レイヤ

 ドックスさんは戦闘力に期待しているので、ボクの指示があるまで待機をお願いします


 それまで大人しくパチンコでもしていてください



>ドックス

 なんじゃそりゃ?

 まあいい、普段通り資金さえくれれば俺に文句はないぜ


 そういや、決行日っていつだっけ?



>レイヤ

 決行日の再確認です

 〇12月24日:クリスマス・イヴ


 決行日の前夜に『生贄』の肉体を持って受肉が完遂され、25日の聖夜に邪神メネーラ様が異世界に再誕されることでしょう



>ドックス

 了解



>レイヤ

 それでは皆さん

 偉大なる邪神メネーラ様の復活に向けて頑張りましょう!




**********



 あれから俺達【聖刻の盾】は、予定通り連休を利用してひたすら『奈落アビス』ダンジョンを探索してレベリングを続けている。

 その甲斐あって、ヤッスはレベル13となり、ガンさんもレベル32に上昇した。


 ただ俺だけはレベル25のままだ。

 冒険者として中間地点に位置する俺は『停滞期』となっているらしく、いくら経験値を重ねても上昇しづらい傾向にあるらしい。


 姉の美桜より、


「――『停滞期』の壁を突破する最も手っ取り早い方法として、偉業を成し遂げることね」


「偉業だって?」


「そっ。要するに自分の身の丈以上のことをやってのけることよ。例えば高レベルのモンスターを斃すこととかね」


「これまで散々もやってきたんだけど……」


「それはレベル25になる前の話でしょ? その分、SBPとか多く獲得している筈よ。それ以降はバフォメット戦くらいかしら……偉業ではあるけど【聖刻の盾パーティ】として斃しているからね。だから獲得する経験値がパーティ分に振り分けられるってわけ」


「なるほどね。早い話、ソロで強敵と戦う必要があるってわけか?」


「そういうことになるわ。異世界じゃその機会に恵まれていたけど、現実世界だと『奈落アビス』しか強敵がないから難しいかもね。ギルドのクエストに挑むしかないわ」


 さらに俺の場合、防御力VITが異常に高すぎるため、階層のボス級モンスターでない限り難しいかもしれないと言われた。

 極振りが仇にもなっているってわけか……。




「なら次の探索では、ユッキのレベリングのため『中界層』の階層ボスを目指すってのはどうだろう?」


 早朝、学校の教室でガンさんが提案してきた。


「階層ボスか……連休中は28階層までだったな。ボス級だと45階層か……俺とガンさんはいいけど、ヤッスは無理じゃね?」


 レベル13で『中界層』の最奥チャレンジは瞬殺されるレベルだと思う。


「そこはパーティだからな。ソロじゃ話にならないけど皆でフォローすれば行くことくらいはできるだろ? 高レベルのサッちゃんと香帆さんもいることだし、何よりヤッス自身のレベリングにもなる。ユッキは温存した状態でボスに挑めばいい」


 ガンさんも連休中の探索で自身がついたのか、以前より前向きに積極的になってくれた。

 そして前回は俺が散々気を遣った分、次回は俺のためにパーティが協力してくれると言う。

 

 ガチでありがたい限りだ。

 みんなとパーティを組んで良かったと思う。


 そう感謝の念に浸っている中。


「――ユッキ、なんだかクラスの様子が可笑しくないか?」


 ヤッスが周囲を見渡しながら俺の耳元で囁いてきた。

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