第74話 零課との協力体制
氷帝の魔女フレイアが統率する【氷帝の国】。
パーティと呼ぶには所属する冒険者は総数約100名以上となる、エリュシオン屈指の組織力を誇る
組織構成はフレイアを中心に団長と副団長が指揮し、眷属であり高レベルの幹部5名が主要メンバーとなり、その配下の団員達となっている。
ダンジョン探索は勿論、情報収集能力に卓越した組織であり、掲示板サイト『キカンシャ・フォーラム』もその一環とされ特殊公安警察から定評があり厚遇を受けている(反面、“帰還者”の情報漏洩や犯罪に利用されるケースもあり、ゼファーより厳重注意を受けシステム改善に至る背景もあった)。
闇の勇者レイヤが逃亡してからも、【氷帝の国】はギルド(零課)の依頼により情報収集を継続していた。
そして先日、『キカンシャ・フォーラム』の雑談にてある情報を入手したのだ。
ゼファーが説明した内容どおり――ここ最近の伊能市で、家出した少女を中心に浮浪者や借金苦の男女が姿を消している実態あるということ。
また背景には必ず『吾田 無造』の存在が浮上し、嘗て異世界において『暗黒神ヴァルサム』を崇め闇堕ちした“帰還者”であったことが判明した。
確証を得るため、フレイアの指示により主要メンバーの幹部
隠密パーティの活躍により、吾田はレイヤらしき学生風の男と結託し寺院内で
そこで犯行現場を押さえるため、副団長のディアリンドと4名の主要メンバーは寺院に突入し襲撃を仕掛けたのだ。
暗黒司祭の吾田と激しい戦闘になるも難なく勝利を収め捕縛に成功した、ディアリンド達。
それから一般人を解放したが、肝心のレイヤの姿はどこにもなかったと言う。
「――我らが突入したと同時に、吾田がレイヤを逃がしたようだ。おそらく他の協力者が匿っているのだろう。その後は『零課』に吾田を引き渡し委ねている」
「ディアリンドが話した通り、現在は俺達の方で奴を尋問中だ」
「それで何かわかったの?」
美桜の問いに、鬼のお面を被ったゼファーは素直に頷く。
「色々とな……まずレイヤは、お前達【聖刻の盾】が遭遇したバフォメット以外にも数体ほど、
「災厄級ってことは魔王に匹敵する
「あるいは邪神級かもしれん。どちらにせよ、現実世界では存在してはいけないバケモノだと言える。伊能市だけじゃなく、日本いや世界の秩序が崩れてしまい兼ねないからだ」
「尋問によると、吾田もどのような
ゼファーに続き、彼の部下であるインディが補足してきた。
魔王に匹敵する
まさか渡瀬の奴……この現実世界で、異世界の
「わかんない連中だねぇ……吾田って坊さんといい、闇堕ちした繋がりがあるとはいえ、どうしてそこまでレイヤに協力するわけぇ? そいつらなんか弱味でも握られてたのぅ?」
香帆の疑問に、ディアリンドは「うむ」と頷き口を開いた。
「戦闘の際、我もリエンと同様の疑問を吾田に投げかけている。奴の場合、弱味を握ら得たとかではなく、『邪神メネーラが再誕した暁に、自分を異世界に召喚させる』と約束していたようだ」
「吾田が異世界に召喚すれば、信仰する『暗黒身ヴァルサム』の恩恵で再び不死の体を得られるからな。不満だらけの窮屈な現実世界よりマシだと思い甘言に乗ったようだ。まったく身勝手極まりない、坊主の風上にも置けない男だな」
「ゼファー殿の仰る通りだ。それと『キカンシャ・フォーラム』の情報網によると、レイヤに協力する者の中に、奴と同じ高校に在籍している者がいるらしい」
「レイヤと同じ? ディアリンドさん、それってまさか黄昏高校?」
「かもな、マオたん」
「いえ、俺のことは真乙と呼んでください……」
「あいわかった、マオト殿。それがどうした?」
「はい。
「その通り、所詮は雑談スレの情報だからな。煽りや釣り目的で好き勝手なレスもあるだろう。しかしあり得る話でもある。主フレイア様の意向もあり、我ら【氷帝の国】は引き続き『闇勇者レイヤ』の捜索を継続していくが範囲も限られるだろう。ましてや他校となると尚更だ。聞くところによると、黄昏高校はお主ら【聖刻の盾】が深く関与しているらしいな? であれば『零課』と共にお主らに一任したいと思っている所存なのだが?」
「当然ね、わかったわ。それで『零課』様の方は何をしてくれるの? まさか民間人の私達だけが働けってわけじゃないでしょ? 貴方達、国家公務員よね? 国民の税金で成り立っている組織でしょ?」
美桜は嫌味くさい口調で訊いている。
きっと何かと使い走りにされているので、ここぞとばかりの仕返しだと思う。
俺の姉ちゃんはそういうところがあるからな。
ゼファーは「やれやれ」と溜息を吐いた。
「相変わらずネチっこく刺々しい女だ。安心しろ、俺達もちゃんと動いているよ。今は詳しく言えんが、そのうちわかるだろう」
「……あのぅ、ゼファーさん」
「どうした、マオト君?」
「はい、『零課』黄昏高の協力者って目星ついているんですか? 俺達の同級生の中とか、まさかクラスの誰かとか?」
「いや、まだわからん。だが学校内でレイヤと容易に接触できた人物に違いない。生徒達の中にいるかもしれないし、教師達かもしれない。一人ではなく複数いるとも考えられる……吾田のようなギルド登録できない訳ありか、『零課』さえ把握していないモグリの“帰還者”なのか。その線で当たるつもりだ」
「……モグリの“帰還者”か――あっ」
ふとガンさんと目が合ってしまう。
「なんだ、ユッキ? 何故、俺の方を見る? おい、ヤッスもだぞ! ああ、香帆さんに美桜さんまで……やめてくれ! みんな、そんな目で俺を見るなよ! そういうの、お前達にとってはイジリのつもりでも、本人にとってはイジメ同然で酷く傷つくんだからな! やっていいのはプロの芸人同士だけだぞ!」
俺だけじゃなく、アゼイリア以外のパーティメンバーから白い目で見られてしまう、ガンさん。
人知れず9年間も自宅で引き籠っていた経過があるだけに、もろ“モグリ帰還者”の条件に当てはまってしまっていたからな。
もっとも豆腐メンタルのガンさんが、そんなことする筈ないのだけど。
「ごめんよ、ガンさん。前例(逮捕歴)あったからついね……」
以前、渡瀬の自宅前で動けないヤッスを背負って待機していたガンさんは、通報を受けた『零課』の作業班に尋問されてしまった。
その際、厳つい見た目と日頃から見せている挙動不審ぶりから、渡瀬の仲間だと勘違いされてしまい拘束され連行されてしまった経過がある。
「あんなの誤認逮捕じゃないか……俺より10歳も若いくせにいつまでも過去を引きずるんじゃないよ。サッちゃんも教師なんだから、生徒達に何かビシっと言ってくれ」
「王聡くんが一番過去を引きずっているんじゃないの? そもそもキミがはっきり潔白だと言わないから『零課』に疑われたのよ。毅然とした態度で調べてもらえば済んだ話じゃない」
助け船を要求したアゼイリアからの最もな言葉に、ガンさんは「いや、そうだけどさ……」と自分の素行と非を見つめ直し始める。
この男の場合、想いを寄せる幼馴染の言葉が一番心に刺さるようだ。
するとインディは何を思ったのか、不意にソファーから立ち上がった。
「そういえばガルシュルドさんには、まだあの時の謝罪はしておりませんでしたね……その節は大変申し訳ありませんでした。ほら警部からも彼に謝ってください! 貴方が指示したんですからね!」
「チッ……悪かったな、ガルシュルド。だがお前も、あまり紛らわしい真似すんなよ」
当事者であるインディこと『零課』の作業班であり『宮脇 藍沙』という本名である彼女は真摯に頭を下げているのに、上司であるゼファーは長い足を組んだまま渋々と謝罪している。
挙句の果てに舌打ちまでして悪態さえつく始末。
とても謝罪している態度ではない。
俺がガンさんならフラストレーションが溜まりそうだ。
「とにかく私達【聖刻の盾】は、連休明けからでも黄昏高校に潜むとされる『レイヤの協力者』を探すことにするわ……だから『零課』もしっかりとバックアップするのよ! それと無償じゃやらないからね! 正式なクエストとして報酬はしっかりと頂くわ! いいこと、ゼファー!?」
最後に美桜がパーティのリーダーとして場を締めくくる。
名指しされたゼファーはお面越しで再度舌打ちし、「……善処する」と呟いた。
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