第27話 中学卒業
「確か姉ちゃん……他の冒険者から『七大聖勇者』の一人って呼ばれていたっけ。香帆さんの話だと、その
二人ほど足りないと思った。
「四バカ勇者の何名かは色々な事情で途中退場したけど、後の方でウチらと合流し仲間になったのが二人いたんだよぉ。本人達は別に『勇者』と名乗っていたわけじゃないけど、その強さとカリスマ性、さらに頭のキレ具合から美桜と同等と見られ、美桜も認めていたわ。他の四バカなんか比べるまでもなくね……」
「どんな人達なの?」
「一人は『ゼファー』というイケメン兄さんよ。ここでは『特殊公安警察』の『零課』だっけ? 元魔王の右腕で将軍の地位にいた暗黒騎士だってぇ。邪神メネーラも惚れこんで気に入られていたそうよん」
「も、もろ敵じゃん! そんな人が魔王と邪神を裏切って、姉ちゃんの味方になり共に戦ったってのか? それで“帰還者”となり現実世界で俺達を監視する立場になっている……なんで?」
「美桜と何度か戦っているうちに現実世界の記憶を取り戻したと言ってたっけ。元々正義感の強い兄さんだったからねぇ。犯罪者を憎むあまり、その『負の念』で邪神メネーラに導かれたみたいだよぉ」
「それでもう一人は誰?」
「フレイアと名乗っていた魔法剣士だよ。『氷帝の魔女』と呼ばれていたわ……一番何を考えているかわからない奴だったけど、実力はかなりヤバかったし頼りにもなったねぇ」
「氷帝の魔女? 確か“帰還者”用の掲示板サイトだかの管理者か?」
キカンシャ・フォーラムってサイトだ。
俺の個人情報が漏洩され、名倉っていう
「そっだよ。あたしも会員に入って利用しているけどね~。そういや、またマオッチのこと書き込まれていたから今度閲覧してみぃ~」
「なんだって!? 俺、それで犯罪に巻き込まれそうになったんですけど!」
「ゼファーから厳重注意を受けたアレだよねぇ? 今は個人情報が控えられているよぉ。けどフレイアにしては、マオッチのこと相当気に入っているみたいだねぇ。ありゃぞっこんだねぇ」
ぞっこん? なんでそーなる?
俺、そのフレイアって人に会ったことないんだけど……。
姉ちゃんからも一生関わらないようにと言われているし、意味がわからん。
今度、会員に入って覗いてみるべきか?
話の続きでは、『勇者ミオ』を筆頭に異世界中の魔王を全て討伐し一掃した。
最後は肉体を得て降臨した邪神メネーラと美桜達の戦いとなり、激闘の末に勝利を収めたとのこと。
「……
香帆さんが言うと微妙に緊張感が伝わらないのは何故だろう。
「異世界でも死んでしまったら、そこで終わりなのかい?」
「そっだよぉ。そこは現実世界と変わらないねぇ……そういや、四人のクズは美桜の盾となってみんな死んじゃったねぇ。結局生きていた勇者は、美桜とゼファーとフレイアの三人だけだったわ~」
まさか姉ちゃん……意図的?
いや流石にそこまで非道じゃないだろう……っと思いたい。
けど、香帆のおかげでこれまで謎だった、美桜が勇者として異世界で過ごしてきた様子がよくわかった。
出だしが最悪だっただけに相当苦労したんだなぁ。
小休憩後、ダンジョン探索を再開させる。
この日は25階層まで降りて終わった。
香帆の
今後も俺と一緒に『
俺にとって初めての冒険者仲間だ。
それからも中学生活を送りながら、冒険者としてレベリングを繰り返す日々が続く。
念願だった《隠密》スキルを習得することで、以前ほどクラスの女子達に騒がれなくなったが、「マオト親衛隊」は健在で三ギャルが度々ちょっかいをかけに来ていた。
俺を虐めてきた、「井上 秀吾」も三学期から復帰している。
奴は頭が悪いので高校に進学できず就職するらしい。
ちなみに元仲間達にヤキが入った後、更生して頭を丸坊主にして真面目になっていた。
俺を見ては、酷く怯えびくつくので「もうチャラだ。気にすんな」と言ってやった。
そういえば新しく結成した自警団組織『
月1回は100人規模のメンバーが招集し、各々の慈善活動を自慢し合っていた。
「真乙さん! 俺ぇ、信号待ちで困っているお婆さんの手を引いてあげました!」
「こないだ別チームに絡まれている小学生を助けたっす!」
「見ていてください! 伊能市の平和は俺ら『
うん。皆、実にいい心がけだ。
伊能市は警察がアレな分、自分達の町は若者達で守らなければならない。
彼らが手に負えない事案が発生した際は、リーダーである俺も参加するようにしている。
一応、『零課』に認められている範囲でね。
そんなこんなんで、あっという間に高校受験となり、俺は当然『黄昏高等学校』を選択し見事合格を果たした。
まぁ、一回受かっているから当たり前だけどね。
三学期が終り、卒業式当日――。
「マオト~、寂しいよぉ」
「黄昏高でも、あたし達のこと忘れないでねぇ」
「たまに連絡していい?」
明美、祥子、夏希の『マオト親衛隊』の三ギャルが俺との別れを惜しみ泣いてくれている。
「勿論いいよ。俺も三人に構ってもらって退屈しなかったよ、ありがとう」
これ本当の感想。
前周じゃ暗黒時代を送っていただけに華やかな中学生活だったと思う。
振り返ってみれば結構いい子達だった。
三人も密かに勉強を頑張って、ワンランク上の高校に受かったようだし、こうして出会えて良かったかもしれない。
こうして『マオト親衛隊』は笑顔で解散し、お互いに新たな一歩を踏み出すことになる。
「後は……」
俺はスマホ画面を確認する。
ある女の子からメールが届いていたからだ。
>幸城君。
卒業式が終わったら屋上にきてもらっていいですか?
そう送ってくれたのは、クラスメイトの「久住 涼音」さん。
彼女も未来通り、伊能市屈指のエリート校『白雪学園』を受験し見事に受かっている。
にしても、あの学年の女神様が俺に折り入って話があるとは……。
俺は緊張を隠せず屋上へと赴く。
高々と設置されたフェンスを背に、久住さんは一人で待っていた。
「幸城君、来てくれてありがとう」
「うん、久住さん……俺に話って何?」
「……うん、率直に言うね。好きです、幸城君。私とお付き合いしてください」
ま、まさかの告白。
いや少しだけ、そんな予感がしていた。
度々、久住さんから俺に対する好意というか……そんな言動が聞かれていたから。
ぶっちゃけ凄ぇ嬉しい。
本当なら屋上から飛び降りたくなるほどだ。
だって、あの久住さんだよ?
誰もが憧れ敬う学年のアイドルであり高値の花。
俺よりイケメンな同級生や先輩達が、彼女に告白して完膚なきまでに振られていることを知っている。
そんな子が、卒業式の日に……告白してくれるなんて。
けど、
「……ごめん。俺には好きな子がいるんだ。その子のために、『黄昏高』に進学すると決めているから」
「そう、ごめんね……無理に付き合わせちゃって……高校でも頑張ってね」
久住さんは理解を示し笑顔を向けてくれる。
けど瞳を潤ませ雫が幾つも頬を伝って落ちていく。
その健気な様子に胸の奥がぎゅっと強く絞られるも、こればっかりは仕方ないことだと割り切り堪えた。
「ありがとう。久住さんも『白雪学園』、頑張ってね」
「うん」
かくして切ない余韻を残し、二度目の中学生活が幕を閉じた。
だけど死ぬ気になって必死で頑張った甲斐もあり、確実な成果も得られたと実感している。
少なくても前周のトラウマだった暗黒時代は完全に払拭できた。
これで自信を持って二度目の青春をリベンジできるだろう。
――準備は整った。
いよいよ、待ち望んだ高校生活だ。
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