第24話 ぼっち冒険者と訪問者JK

「なんだって? 兄ちゃん、俺達のパーティに入りたいだと? 確かにギルドに求人を依頼していたが……って、レベル15か? 悪いが、せめてレベル20になったら声を掛けてくれ」


「駄目駄目駄目ぇ。初級冒険者は対象外だって言ってんだろ。他を当たれよな」


「てか少年……お前、盾役タンクだろ? なんで『盾』持ってないんだよ? そっからして駆け出し以下ってもんだろ? 鎧とか他の装備は随分と良さそうだが……まずは盾役タンクとしての装備を整えろよ」



 あれから、さらに一ヶ月が経過した。

 

 ――今、俺は心が折れかけている。


 別にレベルアップの話じゃない。


 新しい装備になって、『奈落アビスダンジョン』に探索し、頑張ってレベル15まで上げた。

 新しい魔法、《点火加速イグナイトアクセルLv.1》も覚えた。

 名前通り火属性の補助魔法で、一瞬だけ移動速度が激的に上昇する。

 他の魔法やスキルと併用も可能で組み合わせれば強力な魔法となる筈だ。


 さらにソロなら「初界層」の20階まで降りて良いと、受付担当のインディさんと姉の美桜にも許可が出ている。


 ――そう、ソロ・ ・ならだ。


 俺にはパーティが、仲間がいない。

 冒険者としても、ぼっち野郎だった。


 それに今のレベルだと、それからの下層に降りては駄目だと言われている。

 スキルや能力数値アビリティの問題じゃなく、単独で探索する熟練度の問題だと言う。


 つまり一人で下層に降りた際、体力や魔力、あるいは回復薬ポーションなどアイテムが底を付いた場合どうするんだよ? っという理由だそうだ。

 また以前のように『モンスター行軍マーチ』が発生した時、一人で対応するには限界があるだろうと言われた。


 だからこそのパーティ。

 仲間が多ければ、それだけ長い時間探索することが可能であり、より下層にも行ける。


 正直、「初界層」には大したモンスターはいない。

 それイコール、高額の報酬金は得られないということだ。

 いや中学生としてお小遣い稼ぎ程度なら、別に「初界層」で十分だと思う。


 けど俺には100万円の借金がある。


 毎月、鍛冶師スミスのアゼイリアに、新調した「剣」と「鎧」のローンを支払わなければならないのだ。

 現在は手元にあった40万円で、なんとか支払いローンのやりくりしている。

 だけど回復薬ポーションやアイテム、装備類のメンテナンスなどダンジョンに潜る際の必要経費なんかもあり、おまけに学生なので週末しかダンジョン探索ができない事情もあって正直かつかつ状態だ。


 ミノタウロスのような高額な『魔核石コア』を持つモンスターほど、「中界層」に潜伏している。

 だから、せめて「中界層」に行きたいと、ギルドで「パーティ募集」広告を見ては手当たり次第に声を掛けているのだが……さっきの通り、まるで相手にされない。


 能力数値アビリティには自信があるのにな……。

 ああ、そうか……《隠蔽Lv.5》に上がって、中級冒険者じゃ正確な数値が見えないのか?

 姉の美桜から「真乙は規格外すぎて、また掲示板に個人情報を書かれるから、中級以上の冒険者に本当の能力数値アビリティを見せるな」と言われているし……。


「――マオト君、ここは焦らず似たようなレベルの人達に声を掛けたら?」


 インディがアドバイスをしてくれる。

 なるほどと、俺は早速声を掛けることにした。


 ギルドで見かけた、如何にも同年代風で「駆け出し冒険者風」の女子パーティ達。

 どうせパーティを組むなら、むさ苦しいおっさん達よりラノベばりの華やかさを選んでみた。


 しかし――。


防御力VIT600以上!? おまけにユニークスキル持ちって……貴方、ガチ・ ・の人ですね。すみません、無理です」


「ごめんね~、うちら異世界でもモブとして過ごしてきた“帰還者”だからさぁ。ダンジョンには、あくまでお小遣い稼ぎ目的なんだぁ」


「特に危険を冒すような冒険がしたいわけじゃないから……今のままでも十分に満足なの、ごめんなさい」


 正直に能力数値アビリティを打ち明けた途端、ドン引かれてしまう。

 どうやら「初界層」でもたついている冒険者達は、異世界に転生しても本気を出せなかった“帰還者”達が多いようだ。

 他人に無関心なのは結構だが、はっきり言うとやる気がなく向上心がない。


 じゃあ逆にと似たような同年代風の男子にも声を掛けたが、どいつも「ナンパ目的」「ゲーム感覚」とかチャラく舐めたことを抜かしていた。

 とても背中を預けていい連中じゃない。


 こうなれば、いっそ姉ちゃんに同行を頼みたいところだが、流石にそこまで甘えるわけにはいかないと思った。

 それに、美桜も自分から『奈落アビス』に近づくことはない。

 カンストした勇者だからか、何か自分から遠ざけている雰囲気がある。




 期末テストが終わった、二学期末頃。

 

 突如、俺ん家に見知らぬ女子高生が訪れた。

 

 毛先が跳ねたショートヘアの金髪、スレンダーで華奢な体つき。

とてもラフな感じに制服を着こなしている。

 色白で、まるで西洋人形のように整った顔立ちの美少女だ。

 だけど、やたらと目つきが悪い。てか死んでいるような虚ろな目だ。

 やる気というか、生気がない瞳。


 少し怖そうな、ヤンキーJKって感じ。


『……ねぇ、美桜いるぅ?』


 口調にも覇気がない。

 テスト明けで早々に帰宅した、俺はたまたまインターホンに出て応答している最中だ。


「いますけど……誰ですか?」


『同じ黄昏高の『水越みずこし』って言えばわかるよ……』


「わかりました……ちょっとまって下さい」


 一端インターホンを切り、俺は美桜に水越と名乗ったJKの存在を伝えた。



「水越? そう……ついに帰還したのね」


「帰還した? ってことは、あの金髪JKは“帰還者”だってのか?」


 俺の問いに、美桜は「そうよ」と返答しながら玄関のドアを開けた。


「ちぃす、美桜……出てくんの、おせぇっての」


「香帆、あんたこそ……よく好き好んで戻ってきたわ」


 二人が言葉を交わしたと思った否や、抱擁を交わした。

 いきなりの百合展開に、俺は驚きつつドキっとしてしまう。


 しばしの抱き合った後、美桜と水越という金髪JKは離れて互いに笑みを浮かべている。


「真乙、紹介するね。彼女は『水越みずこし 香帆かほ』。私と同じ災厄周期シーズンで共に戦ったパーティの仲間よ」


 なんだって!?

 このヤンキーそうなJKが!?

 姉ちゃんと仲間ってことは……勇者パーティだと?


「よろしく、弟くん」


「はぁ、真乙です。よろしく……」


 ぶっちゃけ、知的美人の優等生として知られる美桜とのギャップに戸惑ってしまう、俺。

 基本、ヤンキー系は苦手なんだよな……トラウマがあるから。

 特に太っていた未来で学生から社会人になっても、この手のタイプによく因縁つけらえていたんだ。

 何見てやがるんだ、きめぇ糞デブって感じ……二度と思い出したくもない。

 

 しかし、


「――どうして俺の部屋に入り込むの、二人とも?」


「いいじゃない。どうせ真乙も関わる子なんだから」


「弟くん、真乙だっけ? なんて呼べばいい? マオッチでいい?」


「好きに呼んでください。水越さんも“帰還者”ってことは、姉ちゃんと同じ転移ですか?」


「香帆でいいよぉ、敬語もいらないからぁ。あたしは転生……ぼけ~っと歩いていたらトラックに轢かれてね。丁度、昨日の夜だよ」


「昨日? 姉ちゃんは夏休みで転移したのに?」


「真乙、前に話したでしょ? 全て女神アイリスの裁量だとね。特に『転移者』と『転生者』は時系列に差が出てしまうのよ」


「だから美桜とは昨日まで赤の他人だったよ……寧ろ鼻持ちならない優等生って感じで大嫌いだった。けど今は大好き……てかガチ愛している、ラブラブ♡」


 これぞ昨日の敵は今日の友。いやなんか違う……。

 てかさっきの抱擁もあり、香帆の百合発言が生々しく聞こえて内心ドキっとしてしまう。


「私にとっても香帆は、唯一背中を預けることができた仲間だからね……彼女がいなかったら今頃は――」


 美桜は何か言いかけたが、ふと形の良い唇を押え黙り込んだ。

 姉ちゃんは異世界の出来事をあまり話したがらない。

 自分にとって黒歴史だとよく口にしている。


「今頃って?」


「なんでもない……あっ、そうだ! 真乙、仲間欲しがっていたわよね? 香帆なんてどう?」


「どうって?」


「二人でパーティ組んでみたら? ついでに以前、相談していた《隠密》スキルを教えてもらいなさいよ。その子、カンストしているから伝授できるわよ」


 ということは、香帆って子は《隠密Lv.10》を習得しているってのか?

 技能系スキルが「Lv.10」と“帰還者”は、習得していない者にスキルを教え与えることができるらしい。

 それで受付嬢のインディさんも《隠蔽》スキルを俺に与えてくれた経緯がある。


「あたしはいいよぉ。美桜の弟だし、マオッチ、かわいいからぁ」


「か、かわいい? 俺が?」


「そっ、かわいいよぉ。特に雰囲気とか、美桜にそっくりで……やっぱ姉弟だねぇ」


 ……なんか凄く照れてしまう。

 特に年上で苦手とするヤンキー風のJKに言われてしまうと。

 それに香帆さん……同じ金髪でも「明美」、「祥子」、「夏希」の親衛隊よりも遥かに大人っぽくてセクシーだ。


 危険な香りがするほどに――。


「香帆は暗殺者アサシンとして超一流よ。きっと真乙の力になれるわ」


 アッ、暗殺者アサシン

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る