第21話 特殊公安警察ー零課

「――そぉ。“帰還者”と戦ったね……おまけにゼファーと関わるなんて、真乙もとんだ災難だったわね」


 家に戻ってから、美桜に事の成り行きを説明した。

 俺の部屋で、姉は椅子に腰を降ろして長い美脚を組んで何やら考え込んでいる。


「姉ちゃんは、ゼファーって人のこと知っているの?」


「……まぁね。警視庁公安部、『零課』の男よ……同じ災害周期シーズンで出会った異世界の“帰還者”であり、一周目のタイムリープで私の上司だった奴よ」


「え? ってことは姉ちゃんも警察官だったのか!? しかも公安警察って……」


「まぁ、一度くらいやってみたいと思ってね……小説やドラマに憧れて、いざ就職してみたんだけど、とんでもないブラックなところだったわ」


 美桜は愚痴を交えながら説明してきた。


 対帰還者専用、特殊公安警察。

 正式名称、『警視庁公安部、公安第零課異世界帰還者対策係』通称、『零課』と呼ばれている。

 異世界から帰還してきた者達を監視し、場合によっては「粛清」と称して処分し抹殺する秘密組織だとか。

 法で裁くのは難しい“帰還者”が起こす犯罪の捜査、テロリズムの抑止、カウンターテロなど警備や警護を担当する諜報機関でもある。

 したがって“帰還者”が多い伊能市を中心に潜伏しているらしい。


「まんまスパイと暗殺を組み合わせたような機関よ。あらゆる人になりすまし、『協力者』を雇って“帰還者”の情報を集めたり……そして粛清対象だと判断したら即実行されるのよ」


「……姉ちゃんが度々言っていた『おっかない人達』って、その『零課』という公安警察のことか?」


「そっ。中でもゼファーはやばいわ……だから関わらないようにしているの」


 勇者の美桜でさえ戦慄する“帰還者”か……。


「俺、その人の声しか聞いてないけど、どんな人?」


「顔はイケメン風だけど、恐ろしく人使いが荒いわ……おまけに狡猾かつ陰湿な男で、下手な暴力団の方が良心的かもしれない。私でさえ、あいつが嫌で離れたくてタイムリープするのを早めたくらいだったからね!」


 何だよ……おっかないってそっちかよ。

 勇者とか“帰還者”云々より人として苦手のようだ。


「俺が話した限り、そんなに酷い感じには思えなかったけどな……口調も丁寧で紳士的だったし……」


「真乙がお姉ちゃんの弟だからよ。利用する価値があるかもしれないと思ったんでしょうね……だから気を付けてね。今後はインディにも――」


「インディさん? ギルドで俺の担当してくれている受付嬢の? なんでだよ?」


「インディも『零課』の人間だからよ。ゼファーが彼女の本当の上司・ ・ ・ ・ ・ってわけ」


 ま、マジかよ……あのインディさんが公安警察?

 受付嬢として潜入しているってのか。


「まぁ、ギルド自体が『零課』で管理されているようなものだからね。ギルドに登録する冒険者達も言わば『協力者』ってところかしら。『奈落アビス』を探索するためのね」


 なるほど……『奈落アビスダンジョン』も非公式だけど政府に公認されているからな。

 治安を守る意味でも、“帰還者”を活用しながら同時に監視されているのだろう。

 

「あっ、そういえば、名倉って奴に俺の存在がバレていたっぽいんだ。なんか俺の個人情報が漏洩されているみたいなんだけど……」


「う~ん……お姉ちゃんが思い当たる部分とすれば『キカンシャ・フォーラム』かしら?」


「キカンシャ・フォーラム? 何それ?」


「ある“帰還者”が設立した雑談用の電子掲示板サイトよ。“帰還者”同士がお互いの情報を交換するために設けられているのよ。一応、ギルド公認でもあるわ」


「それで俺の個人情報がアップされてたってのか? 酷ぇ……なんとかならないの?」


「お姉ちゃんも管理しているは知っているわよ。けどあの子、ゼファー並みに頭キレるし厳重に審査した上での会員制だから、盗賊シーフとはいえ名倉のような中レベルの雑魚じゃ覗くことすらできないのにね……」


 管理している子?

 美桜の口振りだと、随分と若い女子をイメージしてしまうが……。


「その『キカンシャ・フォーラム』を管理している子って?」


「真乙は一生知らなくていい子よ。怪しすぎて、お姉ちゃんも関わらないようにしているからね……ただ『氷帝の魔女』ってワードを聞いたら気を付けてね」


 氷帝の魔女?

 称号だろうか……なんか怖そうな感じだな。

 美桜でさえ避けるほどの女子か……気をつけよっと。


「――それと名倉の件で、既に『零課』も動いている筈よ。勿論、『キカンシャ・フォーラム』で、真乙の情報が漏洩され悪用されているなら、今頃、強制的に削除されているでしょうね。きっと管理者にも厳重注意されているわ」


「そう……姉ちゃんが言うなら間違いないね。これで俺も枕を高くして寝られるよ」


「真乙、いつもお姉ちゃんを信頼してくれてありがと……たまには一緒に寝よっか?」


「いや……お互いタイムリープしたとはいえ、結構いい歳だし遠慮するよ」


 弟思いで溺愛してくれるのは嬉しいけど、そういうのはちょっと……。

 妹の清花にも誤解されそうだ。


 その後、《鑑定眼》からレベル13に上がったと表示されたので、ステータスを更新することにした。

 初の“帰還者”との戦闘に、俺より高レベルの相手に勝利しただけあり、SBP:90と高数値を獲得する。


 以下の感じで振り分けてみた。



【幸城 真乙】

職業:盾役タンク

レベル:13

HP(体力):95 /95

MP(魔力):65/65


ATK(攻撃力):150→160

VIT(防御力):450→500

AGI(敏捷力):60→70

DEX(命中力):60→70

INT(知力):60→70

CHA(魅力):15


SBP: 0


スキル

《鉄壁Lv.8》《鑑定眼Lv.5》《不屈の闘志Lv.7》《毒耐性Lv.3》《剣術Lv.3》《盾術Lv.5》《隠蔽Lv.3》《不屈の精神Lv.2》《シールドアタックLv.2》《狡猾Lv.1》《統率Lv.1》

《アイテムボックス》


魔法習得

火炎球ファイアボールLv.3》

加熱強化ヒートアップLv.1》


ユニークスキル

無双の盾イージス


称号:猪突猛進レックスラッシュ



 盾役タンクとして防御力VITを中心に底上げした感じ。

 魅力CHAはしばらく上げなくてもいいやと思った。

 技能スキルも使用した部分は一通りレベルアップしているみたいだ。

 

 そして今回、新しい魔法|加熱強化《ヒートアップLv.1》を覚えた。

 この魔法は火属性で肉体強化系の補助魔法であり、一時的に能力数値アビリティを向上させる効果がある(但し知力INT魅力CHAは上がらない)。

 レベルが上がる度に継続時間が長くなるとか。

 今後、戦闘面で大いに役立つ魔法だ。




 それから週末。

 俺は美桜と二人でギルドのある『エリュシオン』に向かった。


「真乙、今日は冒険ナシだからね」


「どうして?」


「だって武器ないでしょ?」


「……そうだった」


「今日は『魔核石コア』を換金して、一通りの装備を揃えるからね。あと武器を造る『鍛冶師スミス』を紹介するわ」


「おおっ! ってことは俺だけのオリジナル武器が造ってもらえるってことか?」


「そういうことになるわね……値段にもよるけど。ミノタウロスの角を素材として造れるわよ。先に話だけでも通しておくわ」


 う~ん、いいねぇ。

 自分でハントしたモンスターの素材で武器を造ってもらう!

 まさに冒険者の醍醐味ってやつだ!


 などとテンションを上げながら、俺一人でギルドに入る。

 カウンターには担当の受付嬢ことインディがいた。

 相変わらず鮮やかな緑髪の綺麗な女性ひとだけど、美桜から潜入していると『零課』の工作員だと聞いているので、少しだけ意識してしまう。


「おはよう、マオト君。こないだはご苦労様」


「おはようございます、インディさん……『魔核石コア』換金、お願いできます?」


「わかったわ。少し待っていてね」


 《アイテムボックス》を出現させ、獲得した菫青色アオハライトの『魔核石コア』テーブルの上に置いた。

 インディは受け取ると、別の受付嬢に換金を依頼し奥側へと運ばれる。


 不意に沈黙が訪れ、インディが先に口を開いてきた。


「……マオト君、大変だったね」


「え? 何が?」


「『名倉 大介』の件よ。もう知っているんでしょ、私の正体?」


 上目遣いで問われ、つい正直に首を縦に振り頷いてしまう。

 インディさんは「キミって嘘がつけないのね……」と呟き、フッと優しい笑みを浮かべる。


「安心して……別にマオト君を監視しているわけじゃないからね。私達は悪い“帰還者”を裁く一方で、善良な“帰還者”を護る役目もあるの……ゼファーさんも一緒よ」


「そうですね。俺もまだ状況が呑み込めなくて……これからは普通に接していいんですよね?」


「勿論よ。あと敬語も不要だからね。これからもよろしく」


「うん、よろしく。インディさん」


 こうしてインディと親交が深まった。

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