第6話 レベリングと勇気

『レベルが上がりました』


 初戦闘後、《鑑定眼》からメッセージが表示された。

 美桜が言った通り、モンスターと戦うとレベルが上がりやすいようだ。


 俺は呼吸を整え、ヘイナス・ラビットがいた位置に近づいた。


 肉体が消滅した代わりに、透明な菫青色アオハライトの小石が落ちている。

 とても美しく妖しい光だ。

 光の屈折だろうか、石の中で何かが動いているように見える。


「モンスターの生命源であり、心臓とも言える『魔核石コア』よ。受け取りなさい、真乙が斃したんだからね。よく頑張ったわ」


 美桜は優しい口調で教え労ってくれる。

 姉の言葉で重く圧し掛かっていた気持ちが和らいでいく。


 俺は魔核石コアとやらを拾い、強く握りしめた。


「……うん、わかったよ」


 狩りとは己が生きるために、他の生物の命を奪うこと。

 これもその一環なのだと割り切る。


魔核石コアはギルドで換金できるわ。登録しなくてもね。もう少し集められたら連れて行ってあげる」


「つまりお金にできるってことか? この大きさだと、いくらくらいなんだ?」


「500円くらいかしら」


 安っす! コンビニ弁当買って終わりじゃないか!

 まだ木刀の方が高けーよ!

 俺の罪悪感も吹き飛ぶわ!


 美桜の話だと強力なモンスターほど、魔核石コアが大きくなり、中にはレアで価値がつく代物もあるとか。

 当然、レアな魔核石コアほど高額で引き取られ、中には一千万から億単位も存在するらしい。


「小ダンジョンだから、そんなものよ。だから“帰還者”達はメインダンジョンである『奈落アビス』に行くのよ」


「……アビスか。姉ちゃんも、そのダンジョンで探索したことがあるのか?」


「前周で何度かあるわよ。ギルドからクエストを引き受けたり、お小遣い稼ぎ程度だから深く潜ったりはしないわ」


 なんか気ままそうでいいなぁ。

 ある意味、スローライフってやつだろう。

 俺も早くそうなりたいものだ。


「……そうか。この小ダンジョンにはあとどれくらいモンスターがいるの?」


「数はそんなにいない筈よ。けど奴らはダンジョン内で自然発生するから、全滅させても時間が経てば復活するわ。仮にダンジョンを破壊しても、いつの間にか修復されるしね」


 なんだって!?

 つまりゲームのように、モンスターはランダムで沸いて出てくるってのか!?

 クソッ、罪悪感を返せよ!


 こうして俺は異世界のモンスターには一切の遠慮はいらないのだと理解した。


 とりあえずレベルが上がったし更新するか……。

 俺が自分のステータスを確認する。


 レベル6となり、SBPは85を獲得していた。

 戦闘したとはいえ、1回のレベルアップでこの数値は大きい。


「《強制試練ギアスアンロー》の効果に加え、筋トレとかも影響しているんじゃない? あとは真乙の素質かな……どちらにせよ普通じゃあり得ない数値けどね」


「じゃあ普通、SBPってどれくらい獲得できるの?」


「経験値にもよるけど、通常で20くらい頑張っても30くらいかな……お姉ちゃんも真乙ほどじゃないけど、もうちょっと多かったけどね」


 遺伝なのかよくわからないけど、幸城家は素質が高いのか?


 とりあえず獲得したSBPをステータスに振り分けた。



【幸城 真乙】

職業:なし

レベル:6

HP(体力):35 /50

MP(魔力):30/30


ATK(攻撃力):50→60

VIT(防御力):200→250

AGI(敏捷力):0→5

DEX(命中力):8→20

INT(知力):4→10

CHA(魅力):-50


SBP:0(-85)


スキル

《鉄壁Lv.2》《鑑定眼Lv.1》《不屈の闘志Lv.2》《毒耐性Lv.1》 


称号:戦闘豚バトルピッグ



 相変わらず防御力VITを中心に振り分けてみる。

 そして木刀が折れた理由も《剣術》スキルを習得してない上に、命中力DEXが低いからだと言われたので、今回は多めに上げてみた。

 魅力CHAは相変わらず-50だけど仕方ない。

 称号も変わったけど「豚」は外れてないし……戦闘豚って何よ?

 しかし今は色気よりも戦闘力の強化に専念だ。


 ん? スキルに《毒耐性》が追加されているぞ。

 あれ……よく見ると体力MPが減ってないか?


「……真乙ってば『毒』に侵されているわね」


「えっ、マジで!?」


 美桜の言葉に、俺は驚愕する。

 よくよくステータスを確認すると、状態の項目で「毒状態」と表記されていた。

 それで体力が落ち続けているらしい。


「ヘイナス・ラビットは雑魚モンスターだけど、稀に牙に毒性があるのよ。ノーダメージだからって皮膚に直接触れれば毒を与えることはできるわ」


 姉よ、そういうことは早く言ってくれ。

 要するにジャージ姿で戦いを挑んだ俺が悪いってことじゃないか。

 

「……どうしよう。俺、解毒薬とか持ってないし」


「お姉ちゃん、持っているからあげるわ」


 美桜はそう言うと空中で魔法陣を出現させ、液体の入った試験管スピッツを取り出した。

 蓋を開け、俺に液体をかけてくる。


 液体は瞬時に蒸発し、俺の状態は「通常」となった。


「助かった……って、姉ちゃん今の魔法は何?」


収納庫アイテムボックスよ。その中に自分の装備や道具を補完し、好きな時に出現させるのよ。ギルドに登録すれば誰でも貰えるわ」


 なるほど便利だな。

 早くギルドに登録したい……レベル10以上じゃなきゃ無理らしいけどね。

 ちなみに職種もギルド登録の際に決められるらしい。



 それから俺達は小ダンジョンから抜け出し、自分の家に戻った。

 本当はもう少しレベリングしたいけど、木刀とフライパンもないので日を改めることにする。

 戦闘のコツも掴んだし、今日はもういいだろう。


 帰宅してから体重を測ったが、まだ100キロと減っていないことにショックを受ける。


「な、何故だ……レベルは上がっているのに……これがダイエットの壁、停滞期ってやつなのか?」


 それもあるけど、きっと魅力CHAが-50だからだ。

 確か外見の容貌にも反映するらしいからな。

 次にSBPを獲得した時は、脱マイナスを目指すしかない。


 思いの外、結果は得られなくても目標があることは良いことだ。

 前周だと諦めてばかりでネガティブになる一方だったからな。

 ステータスという目に見えるモノがあることで、弱点の克服を目指すことができる。



 夕食後、新しいジャージに着替え、俺はジョギングするため外出した。


 途中、近所の公園付近で思わぬ場面に遭遇する。


「なぁいいじゃん。これから俺達とカラオケ行こーぜ」


「やめてください! 放してぇ!」


「姉ちゃん、中学生? 凄くかわゆいね~」


 如何にも半グレっぽいガラの悪そうな二人の男達が一人の女子に絡みナンパしている。

 俺と同い年くらいだろうか?

 少女は顔を伏せており、素顔はよくわからないが男の一人に腕を掴まれて酷く嫌がっている様子だ。


 公園の近くにはコンビニやドラックストアもあり、決して人通りが少ないわけではない。

 通行人も見て見ぬ振りだ。せめて警察を呼べばいいのに誰もそうしようする素振りはなかった。


 自慢じゃないが、伊能市は治安が悪いことで有名である。

 警察に連絡しても駆けつけるまで15分以上は掛かるし、救急車や新聞記者の方がまだ早いかもしれない。

 そのくせに春夏秋冬のノルマ時期だけ、やたら血走って大人数で交通違反ばかり取り締まる始末。

 したがって、あのような連中がのさばり放題の部分があった。


 それに男達が着ているスカジャンの絵柄、如何にも悪そうな赤い小鬼が刺繍されている。

 確か「赤い小悪魔レッドインプ」という凶悪な喧嘩チームだ。

 傷害暴行は当たり前、ああして奴らに目を付けられた女子は拉致されていいようにされてしまうと聞いたことがある。


 美桜曰く「連中より、モンスターの方がまだ品性がある」と言っていた。



「ほらよぉ、とっとと行こーぜぇ!」


「嫌です! やめてください!」


「お一人様、ご案内~♪」


 まずいな……。

 あのまま連れ去られてしまったら、あの子が何をされるかわかったもんじゃない。

 誰も助けようとしないし……いや、以前の俺だって同じたったかもしれない。


 けど、今の俺なら――。


 俺は勇気を出して、前へと踏み出した。

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