第92話 最終回 胡蝶の夢
【サファイアside】
あの立ち退き騒動から数年が経ったけど、相変わらず七之助の家は平和だ。
「アンタ、わたしのお稲荷さんを勝手に食べたでしょう、駄犬 !」
「散歩から帰ってきたら、ちょうど良い具合に置いて有ったのだから仕方ないでござる !」
いつものケンカを見て笑っている妖怪たち。
あまりにも幸せなせいか、最近はある夢を見るようになった。
気がつくと、ボクはただの黒猫で『ミヤァ~ ミヤァ~ 』と鳴いているだけの野良猫だった。
寂しくて、お腹がペコペコで、暑さに身体中が熱に包まれて苦しかった。
猫魈なんて、どうでもよいから誰か助けてよ。
だけど、道行く人々は、チラリと見るだけで通り過ぎて行く。
誰かが立ち止まりボクを見つめながら、
「ウチにくるかい ? 」
優しそうな笑顔にすがり付くところで目が覚めてしまう。
アレはいったい誰なのだろうか ?
その前に、ボクは捨て猫出身では無いんだけど……
さくらの昔話を聞いた影響だろうか ?
さくらも元捨て猫で子供たちに拾われた後、あちこちの家に連れて行かれて飼い主探しの末に七之助に出逢い飼われた。
七之助は、弱っていたさくらをお世話して可愛がってくれたと自慢していた。
もしかしたら、ボクはさくらが羨ましいのだろうか ?
夢の中で、ボクに手を差し伸べてくれたのは……まさか、七之助 !
いやいや、あり得ないでしょう。
意識し始めると七之助の顔を見ると恥ずかしく成って避けるように成っていた。
タラされて無いよね、ボク。
そんな時に、アノ夢の続きを見てしまった。
ボクは小さな黒猫だった。
寂しくて、悲しくて、お腹が空いて 泣いていた。
中学生位の女の子達が、ボクを見付けてくれた。
みんなで心配してくれて、ご飯を食べさせてくれた。
だけど 飼えないらしく、一生懸命に飼ってくれる人を探してくれた。
何軒か回る内に、ある料理屋さんにきていた。
そこの女将さんらしき人が出て来て目を輝かせて、
「 まぁ、可愛い。 だけど私は飼えないのよ……… ちょっと まってね 」
と 言いながら 中に入っていった。
少しして、中から女将さんと優しそうなおじさんがで出来た。
最初、おじさんは渋っていたけど、女将さんが、いろいろ手助けしてくれる事で、ボクを飼ってくれる事になった。
おじさんは、
「前に可愛がっていた猫の名前が『ダイア』だから、お前の名前は『サファイア』だよ」
といった。
それから、おじさんとの暮らしが 始まった。
あまり、ご飯を食べないボクに鶏のささ身を茹でてくれた。 とても、おいしかった。
汚れていた、ボクを暖かい蒸しタオルで拭いてくれた。
ボクの頭を優しくなでてくれた。
ボクがトイレを覚えた時は誉めてくれた。
ボクを優しく抱き締めてくれた。
ボクと一緒に寝てくれた。
ボクはおじさんが大好きになっていた。
ボクは 、よくイタズラをした。
ティッシュboxのティッシュを全部 引っ張りだしたり、おじさんの 靴下をタンスの上に隠したり、
棚に置いて有るものを片っ端から落としたり、
おじさんがゲームをしてる時にリセットボタンを押したり、畳んでいる洗濯物に 突撃したり、
テレビを見ている時、テレビの前に座り 見るのを邪魔したり、 そんなことをしても『しょうがないなぁ』と笑っていた。
冬
おじさんが仕事に行くためお布団を出る時、わざと、ボクの為に空間をつくってくれる。
おじさんが出掛けた後、ボクはおじさんのお布団にはいる。
おじさんの匂いと温もりを感じボクは安心して眠った。
アレは七之助だ。 いつの間にか、七之助のことが大好きに成っているボクが居た。
そんなことを 思っていたら 目が覚めた。
えっ、夢だったの ?
がっかりしている自分にビックリした。
七之助にタラされちゃった、ボク。
でも、嫌な気持ちには成らなかった。
参ったなぁ~、これは重症だ。
栞ちゃんも大好きだから、七之助のお嫁さんには成れ無いけど、ふたりの子供たち、そして孫たちの行く末を見守っていこう。
たぶん、さくらを始めとした七之助に魅了された妖怪たちは同じ気持ちだと思う。
本当に罪作りな男だよね、七之助。
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