第69話 最強最高の家庭教師

【サファイアside】


 道真公はふところからスマホを取り出し、


「ペンネームと連載しているWeb小説サイトを教えて欲しい、雫殿」


 雫もスマホを取り出し、道真公に見せながら


「うむ、主さまは、オメガポリスとヨムカクに登録しているのじゃな。

 ペンネームは、『しるあん』なのじゃ」


 最近の神様は、スマホを持っているのか。

 どうりで、雫がアニメやマンガにくわしい訳だ。

 道真公は、七之助が書いた小説を読み始めているけど、だんだんひたいにシワがっていく。

 うん、ボクも本屋さんにあるパソコンで七之助の小説を読んだことがあるけど……

 素人以上セミプロ未満と感じたんだ。

 あっ、セミプロと云うのは、一冊だけ書籍化して後は鳴かず飛ばずの小説家をいうんだ。

 本物の小説家は続刊では無く、新作で二冊目、三冊目と続けて出す人を云うと思うんだ。


 だから、七之助の場合は最初の一冊目どころか、ギリギリで中間選考を突破するのが、やっとだから無理だと思うんだよね。

 コンテストの上位陣なんて本気度が違うからね。

 七之助の場合は、ある意味、成功者だから、その辺の本気度が希薄きはくだと思うんだ。


「雫殿、ワシ世辞せじ(お世辞)が言えぬ故、率直に申すのだが、この者は小説家を目指していると云うより小説を書くことを楽しんでいるように見受けられる。

 本気で小説家を目指しいるなら指導もするが、趣味で小説を書いているのなら、このままで良いように思う。

 少しずつだが、成長のきざしも見受けられるから儂の指導は必要無いと思うのだが……


 八重と十八番が涙目なみだめに成っている姿を見て、道真公が ギョ としていた。


 ヤバいよ、ヤバいよ、二人の涙に負けないでよ、道真公 !

 二人が真珠しんじゅの涙を浮かべたら、妖怪たちはイチコロだったから心配だ。


「雫殿。 雫殿がお仕えしている御仁ごじんの名を聞かせてもらえるだろうか ? 」


「今世での名前は、福岡田七之助 と云う名前なのじゃ。

 昔の名の安倍鷹久たかひさも良かったが、今世の名前も素晴らしいのじゃ 」


 雫の惚気のろけは、どうでも良い。

 問題は道真公の気が変わっていないかがだけど、気が変わってしまったら……気が変わってしまったら………… 💡 そうだ !


「道真さま。 ボクは猫魈のサファイアといいます。

 七之助は既に『料理人』と云う天職を得ています。

 一家の大黒柱でもある七之助が、小説家を目指して本業をおろそかにすると、この一家の生活がおびやかされてしまいます。


 それに小説家への道筋なら、七之助にはオメガポリスやヨムカクに切磋琢磨せっさたくまする仲間がいるので大丈夫です。

 道真公もお忙しい中、来て頂き ありがたいのですが、ここは七之助を信じて見守って欲しいのです 」


 道真公がうなずいている。

 上手くかわせたかな……


「おおー。 サファイアが、そこまで、主さまを買っていた評価していたとは思わなんだ。

 うう~む。 せっかく、この地まで道真殿に来て頂いたのに、申し訳ないが………… 💡 おおー、そうだ!

 せっかくだから、子供たちの家庭教師を頼めるだろうか ?

 妾の贔屓目ひいきめかも知れんが、八重も十八番も十分に優秀な才能が眠っていると思うのじゃ。

 もしかしたら、道真公の教え子が、これからの日の本日本を導く存在に成るやも知れんぞ ! 」


 ゲッ !! 道真公の目の色が変わった。

 元々は政治家でもあった道真公の欲を刺激するなんて、余計なことをしてくれちゃって、恨むよ、雫 !


 結局、不定期ながら、道真公の家庭教師が決まってしまった。


「雫、良いの? 神様が依怙贔屓えこひいきなんかしちゃってさぁー!

 全国の受験生から抗議がきても知らないからね!」


 少しくやしくて雫に嫌みを言ったら、


「良いのじゃ。 元来、神と云うのは理不尽な存在なのじゃ。 誰かを優遇するなんて、当たり前なのじゃぞ。

 何処ぞの神の信者が云うような平等なんて云うのは、絵に描いたもちみたいな物なのじゃ 」


 いや、知っているけどさぁ~。

 ボク達、妖怪だって、誰とでも仲良くしようとは思わないんだからね。


 八重と十八番は普通の生活をしてもらいたかったけど……もう、ストレスでせる思いだよ!

 能天気なさくらが羨ましいよ、まったく!

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