第33話 アイスドールじゃないよ、 雪女は情が深すぎる女性です。

【誠side】


 どうして、こうなったんだ !

 この間までの優雅な生活から一変して、今は追われる日が来ようとは !


 ボランティアと云う名の国外追放から隙をみて逃げて来たはみたものの、先立つ物、つまり金が無い。


 恋人達を頼ろうにも、本郷遼太郎が余計なことをしたせいで彼女達とは別れさせられた上に家からも追い出されてしまった。


 そうだ !

 栞の次のターゲットに考えていた、アイスクリーム屋の姉妹を頼ろう。

 僕がアイスクリームを買いに行くと、何時もニコニコしていたから、僕に気があるに違いない !


 ものすごい美人姉妹だが、北欧のハーフなのか日本人離れした美しさがある。

 冬に珍しく雪が降った夜に会った時には、雪の精いや雪の女王かと思う程に美しかった。


 ゴクリ !


 あの姉妹が僕のモノに成るなら栞どころか、今までの彼女達など比較にならない程に素晴らしい。



 ♟♞♝♜♛♚


 公園近くにあるアイスクリーム屋に来ると、ちょうど良く外に姉の雪子が出ていたので声をかけた。


「あらあら、まあまあ、大変でしたね。

 よろしければ、ウチの母屋にあるシャワーでも浴びてくださいな。

 着替えは亡くなった父の着替えがありますから、洗濯乾燥が出来るまで我慢してくださるとよろしいのですが 」


 本郷遼太郎も、流石に此処までは手をまわしていなかったらしく、僕の嘘の言い訳を信じた雪子は、あっさり僕を家に招き入れてくれた。


 綺麗好きな僕が逃げる為とは云え、何日間もシャワーを浴びてなかったので、遠慮なく たっぷりと浴びさせてもらった。

 シャンプーとリンスは彼女達のモノだったけど、我慢して使った。

 本当は僕愛用の高級品を使いたかったけど、庶民の彼女達では用意出来ないのは仕方ないだろう。


 大きなタオルが置いてあり、彼女達の父親の着替えがあった。


「バスローブは……庶民は使わないのか、仕方ないな 」


 思わず愚痴が出てしまった。

 水気を拭き取り、着替えに袖を通すとブカブカで大きかったが我慢した。

 これから彼女達の世話に成るんだから仕方ないが、本当に大きい。



「あらあら、もうよろしいのですか。

 お食事の用意が出来ていますが、どうしますか? 」


 グゥ~


 そういえば、家を出てからは食べ物を食べていなかった。

 案内されたリビング……座敷にちゃぶ台の上に和食が用意されている。

 姉妹の見た目は北欧の女性だったから意外だ。

 数日ぶりの食事は空腹もあり美味しかった。



 ♟♞♝♜♛♚


 あれから数日が経ち、僕は冬来ふゆき姉妹にお世話に成っている。

『何もしなくて良い』と言われていたが、僕はヒモじゃない !

 だけど、掃除や洗濯はおろか炊事などしたことが無い僕に出来ることはなかった。

 それでも、笑顔でいる彼女達は僕に惚れているのだと確信している。


 今日は初夏にしても暑かった。

 冷蔵庫の中は好きに食べて良いと言われているけれど、

 冷たい物が食べたかった僕は、業務用冷凍庫に向かっていた。


 彼女達には、


「企業秘密だから、覗いたり入らないでくださいね 」


 と言われていたけれど…………


 冷凍庫の奥には人間の男の人形が置いてある。

 そろそろと中に入り確かめると、


「ヒイィィィ! 人間だ、本物の人間の男だ ! 」



「あらあら、まあまあ、見てしまったのね 」


「せっかく、誠さんとなら仲良く過ごせると思っていたのに残念ですわ 」


 振り返ると冷たく微笑む彼女達が居た。

 その姿は見惚れる程に美しかった。









 ♟♞♝♜♛♚


【七之助side】


 俺はサファイアに説教をされている。

 猫に説教される俺って……


「七之助はすきが多すぎるんだよ !

 たまたまボク達のような良い妖怪だったから、無事だったけど、世の中には悪い妖怪だって居るんだから注意しないとダメなんだよ !

 むやみやたらと親切にすると勘違いした妖怪に連れて行かれるんだからね ! 」


 ああ、亡くなった母にも子供の頃に言われていたことをサファイアに言われるとは、俺は成長していないのだろうか。


「雪女姉妹の件もそうだけど、彼女達の好みがだったから、七之助は大丈夫だったけどね。

 もし、彼女達から本気で愛されてしまったら……」


 何処かで聞いたような……


「 雪女に本気で愛された男は永遠に氷漬けにされてしまうんだよ。

 悠久ゆうきゅうな時を生きる彼女達は、ずっと一緒に居る為にする行為なんだ。

 雪女は情が深い妖怪だからね、彼女達の愛は深くて執着心が凄いから、どんなダメ男でも彼女達に愛されたなら、ある意味 幸せなのかも知れないね 」


 そんな俺を他の女性陣たちは、微妙な顔をして見ていることに気がついたのは、サファイアの説教が終わった後だった。

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