第20話 九十九神 ③


 庭の方に見に行くと小さな女の子が居た。

 口にはが付いている。


 まさか、あの小さな女の子が化けタヌキなのか !


 良く見ると頭にはタヌキみたいな耳がありタヌキの尻尾が付いている。



「君がオヤツを勝手に食べた化けタヌキかい ? 」


 女の子は、ニッコリと笑いながら肯定した。


「おいしかった、ありがとう 」


 どうやら、サファイア達と同じで言葉が通じるらしい。

 勝手に食べたのは問題だけど、小さな女の子なんだから目くじらを立てても仕方ないよな。


「んな訳あるかぁー !

 まったく、七之助は可愛い女の子には甘いんだから !

 いいかい、七之助 !

 化けタヌキや化けキツネは、ターゲットの好みの姿に化けるんだよ !

 正体は狸の置物だと云うことを忘れてはダメなんだからね 」


 最近、サファイアが遠慮をしなくなってきた。


「へぇ~、ほぉ~、アレが七之助さんのタイプなんですか…………オバサンで悪かったですね !

 どうせ、わたしなんか、お爺ちゃんやお婆ちゃんから推されて無ければ、婚約者には選ばれなかったでしょうからね 」


 栞さんが、ねてしまった。

 どうするんだよ、コレ !

 彼女いない歴=年齢 なんだぞ、俺 !

 サファイアを睨むと、やれやれと云う表情をして、


「大丈夫だよ、栞ちゃん。

 七之助の好みのど真ん中は栞ちゃんなんだからさ 」


「そうそう、お兄ちゃんと長年一緒に暮らして来たボクも保証するよ !

 栞お姉ちゃんと婚約者に成った夜、寝言でも喜んでいたくらいだからね。


『栞さん、好きじゃーーーあ !! 」


 なんて、夜中に叫ぶもんだから、ボク恥ずかしかったよ。

 壁の薄いアパートだから、ご近所さんにはモロバレしたと思うよ 」


「ちょっと待って、さくらさん。

 俺、初耳なんですけど 」


 嘘だろう、嘘だと言ってくれ、さくら !


「ウワァ、恥ずかしい !

 七之助は寝言を言うタイプなんだ。

 ボクが泊まった時は聞けなかったから、何時もじゃ無いようだけど 」


「緊張したのかもね、サファイアが泊まった時は。

 ボクと二人きりの時は、よく寝言を言っているよ。

 一緒に寝ているボクは慣れたけどね 」


 サファイアとさくらが容赦がない。

 寝言なんて自分では、わからないよ !


 栞さんは赤く成って、うつ向いて震えていた。

 これは、あきれられたかなぁ~。



 チョイ チョイ !


 服のすそを引っ張る方を見ると、


「わたし、居ていいの ? 」


 タヌキ娘が上目遣いで訴えてきた。

 これはズルい、断れる訳が無いだろう。

 家主である栞さんの方を見ると、うなずいて、


「大丈夫ですよ。

 七之助さんも賛成みたいだし、サファイアもさくらちゃんも賛成ですよね ? 」


「もちろんさ ! 」

「もちろんだよ !」


 サファイアとさくらは、すぐに返事をした。

 もうすでにヒエラルキーが出来ているというのか !


 それを見たタヌキ娘は、


「ありがとう、お兄さん、お姉さん 」


 ニッコリ笑う彼女に俺も栞さんも吊られて笑っていた。


「チョロいね、二人とも ! 」


「うん、チョロいんだよ、お兄ちゃん 」


「これは、ボクとさくらがしっかり守らないとダメだね 」


「うん、お兄ちゃんとお姉ちゃんは、ボクとサファイアが居れば大丈夫だよ ! 」


 勝手な事を言い合うサファイアとさくら猫たちに苦笑いしか出なかった。

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