第5話 ありがとう...

-ビル街エリア-


いつの間にか眠ってしまっていたようだ。

コンクリートの床で眠っていたせいで体が痛い...

あれ?つむぎがいない!?

当たりを見回そうと立ち上がった瞬間、ポケットから何かが落ちた。

手紙?

誰からだろう...



とある豪邸にて


「神様...」

「あー、みなまで言わなくてもちゃんと分かってるよ

心の中読めるし」

若い男とスーツの男がモニターを見ながら話している。

8つほどあるモニターには参加者たちが映っている。

「何人か説明なく放り込んだことについてききたいんでしょ?」

「...ええ」

なにか深い理由でもあるのだろうか。

「あるよ、何個かね」

心の内を読まれた...

「...お聞かせいただいても?」

「いいよー

まずは君たち人間の適応能力について知りたいから

事前知識がある者とそうでない者に生まれる格差をどう埋めていけるかってとこかな

次に知識が無かったせいで窮地に立たされた者がどうやって足掻くのかを見たい

コレ神様っぽいでしょ?

理不尽な展開って結構好きなんだよねー

最後に不幸な目に遭い続ける女の子からしか得られない栄養があるから

これがいちばんでかいかなー」

神様は自信満々に答えた。

最低な理由をえらく自慢げに語る姿には謎の神々しさがあった。

「他はともかく最後のは」

スーツの男はモニターに映し出される1人の少女を指さした。

「うん、その子

僕のせいである日突然不幸になった平凡な女の子

かわいそうだよね、でも僕は楽しいからいいよね

しかもあの子まだ伸び代あるからね」

神様は笑顔を絶やさない。

どの笑顔も貼り付けた仮面のようだ。

しかし、この笑顔だけは違う。

心の底から楽しんでいる時の顔だ。

(とてつもない性癖をお持ちの方に目をつけられたな

気の毒な子だ...)

スーツの男はモニターに映る葵に向けて両手を合わせた。

「タハハ、君失礼だね!

まあそういうとこ気にってんだけどさ」



とあるビル街にて


「なにこれ...」

手紙には神様の考案したデスゲーム"神様にお願い"の細かなルールや説明が書かれていた。

「殺し合い...」

さっきまでの非日常よりもさらに濃い...

理解が追いつかない。

「なんで...私ばっかり...」

立ち上がって手紙を読んでいた葵だったがまたへたりこんでしまった。

なんで私が選ばれたの...

田舎に住んでて、可もなく不可もない。

いたってフツーの高校生。

選んで殺し合わせるなら大事な会議で寝てるような人、迷惑な配信を繰り返す人、詐欺する人、死刑囚...

色々いるじゃん。

私より死んだ方がいい人を選べばよかったじゃん...

なのになんで私...

自分の置かれた理不尽な状況を考えるとまた涙が出てきた。

そして、また葵は静かに泣いた。


「お」

えっ!?

「ぐすっ、あっ、つ、つむ...」

そこに居たのはつむぎだった。

「つむぎ!」

「ここにいたんだ」

「うわぁーん!づむぎぃー!!

よかっだよぉー!あいだがったよぉー!」

気がつけば涙と鼻水でグチャグチャの顔でつむぎに抱きついていた。

「うわぁーん!つむ...いっ!?」

痛い!なに!?針でも刺さったの!?

「...ねぇな」

ドンッ!

葵はつむぎに突き飛ばされ、尻もちをついた。

「えっ!?なんで!?つむ」

「きったねぇな、そんな鼻水だらけの顔で抱きついてくんなよ

汚れんだろうがよ」

えっ!?つむぎ!?口調も雰囲気も違う...

「あ、あなた誰ですか...!」

「はぁ?ずっと一緒にいたじゃん

つむぎだよ、お前の大好きで優しいつむぎちゃんだよ」

嘘だ、嘘に決まってる...

つむぎはあなたと違って私が一人ぼっちの時にやさ...

「誰も味方が居ない状況でお前みたいな疫病神に打算なく優しくしてくれると思うか?」

「い、いや、そんなわけ...」

「いやー、大変だったよ

お前みたいな愚図を周りから隠すってのはよ」

違う...

「すぐ泣くし、泣き止まねぇし」

嘘...

「オマケにバカだし」

「ちが...」

「まぁお陰でやりやすかったけど」

「嘘っ!つむぎはそんなこと言わ...」

「しつけぇよ」

ブスッ

「いたっ!」

つむぎの爪が伸びて葵の肩に刺さった。

「見ろよ」

つむぎの右手の爪は青紫に光り、鋭利な刃物へと変わっていた。

「この能力はお前が私を指名してくれたお陰でもらったんだ

そんでお前はそのせいで死ぬんだよ

悲劇だなぁ〜、風情が有るわ〜、そんでもって心苦しいわぁ〜」

その顔は心苦しいと思っている人間の顔とは到底思えないような邪悪な顔をしている。

「.....」

「なーにぃ?腹から声出してくんないと聞こえないんだけどぉ?」

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

「草w謝ってんのかよ」

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

葵はボーッとつむぎの足元を見ながらひたすら誤っている。

思考停止...

これが最善だと葵の脳が判断したのだ。

「まぁいいや

1回しか言わねぇからよーーく聞いとけよ?」


『ありがとう、そんで死ね』

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