配信前2

 ついに当日を迎えた。プレッシャーからか若干の胃痛を伴い目覚めた私は、諸々の準備を済ませてから星屑メルトさんの「#Vママ会 Vtuberとママが一堂に会する祭典! 第1部」と題された枠を開いた。

 今は星屑メルトさんとその相方であると思われる番場ルディさんが、フリップを活用してタイムスケジュールの説明をしているところだった。

 時間的に開会式は終わったのだろう。

 私の出番は今日の昼頃。企画の順番的には、三個目となる。

 一個目の企画は「真の運動音痴を決めろ!第1回チキチキV絵師混合縄跳び対決」だった。

 その企画は3Dで行われ、出場者には私でも知っているような超有名Vtuberさんや絵描きさんが名を連ねていた。ただ、3Dモデルがある人限定にはなるので、参加メンバーは基本的にVtuberと3Dモデルのある絵描きとなっている。

 ルールは至ってシンプルで、種目ごとに順番に縄跳びを披露していき、最終的に一番飛べなかった人を決めるというものらしい。

 ちなみにVママ会のコンセプトは「Vtuberチーム対絵描きママチーム」となっており、全編通して両者の対立構造がとられている。

 縄跳び対決も例に漏れず、娘チームとママチームで分かれて運動能力を競うという旨の説明がなされていた。

 そして場面はVtuberと絵描きが集まる専用スタジオに切り替わり、縄跳び対決が開始された。

 配信は見所盛り沢山でハプニングもありつつ進行していき、接戦の末、娘チームの勝利で締めくくられた。

 対決の模様はまた機会があれば。


 二個目の企画は都内のゲームセンターを貸し切って行われる、「クレーンゲーム対決」である。

 この企画は演者自らゲームセンターに赴き、予算内でどれだけ多く景品を獲得できるかを競うというオーソドックスなもの。

 シンプルながらVtuber界ではあまり見られなかった試みで、こちらも大いに盛り上がった。

 映り込み対策としてマスクと手袋とサングラスの着用が義務化されており、リスナーへの配慮も感じられた。

 例えば、出演Vtuberの一人、保科ほしな笑子えみこさんである。

 彼女は保育士Vtuberとして活動していながら、実写の姿でも登場しているところを何度か見たことがある。

 他の方がどうなのかは知らないが、恐らく実写で登場しても大丈夫な人を選出していると見て間違いないだろう。

 世界観を守りたい人もいるもんね。


 そんなこんなでクレーンゲーム対決は娘チームの勝利となり、娘チームに2点リードされる形でバトンを渡されることとなった。

 緊張はピーク。ディスコードの企画用サーバーではもう既に何名かが通話を始めているようだった。

 開始時間が近づくにつれ参加人数が増え、それに倣って私も通話サーバーに参加した。

 すると誰が誰か補足できないほどの喧騒が流れ込んできた。


『やばいやばいやばいやばい! あと十分で始まる〜!』

『何も喋れなかったらどうしよう……』

『喋るの嫌いだから絵描きになったのにどうして私はこんなところにいるんだ』

『まあうちら絵描きだし……娘がなんとかしてくれるでしょ』

『今のままで全然大丈夫だよ! ただ配信始まると話さなくなるのだけが怖いのよ』

『ごめん私それかも』

『私もだわ』

『あ、私も』

『多すぎだろ! 頼むから喋ってくれよ!』


 本番前でも何も喋れてませんが何か?

 皆さんが口々に話すものだから、入る隙がないし、そもそも私の存在自体気づかれていない気がする。

 はあ、胃がキリキリする……。


 配信はというと、二個目の企画が終わって準備時間に入っているところだった。その最中、星屑メルトさんが通話サーバーに参加した。


『間もなく始まります。今はまだミュート中なのでご自由にで大丈夫です。ミュートの解除忘れだけ気をつけていただければ。今日はよろしくお願いします』

『よろしくお願いしまーす!』

『ひゃー緊張するー』

『緊張してるときはぐー作って飲み込むといいんだよ』

『いやそれ違うでしょ! 掌に「人」って書いて飲むんだよ』

『顎外れちゃうよー』

『え、ワザップなの? 飲み込もうとしちゃったじゃん!』

『ばかだなー』


 全然話に入っていけない。

 蚊帳の外すぎる。

 最悪一言も発さず出番が終了することだってありえるぞ……。


『お待たせしました。準備できたので、配信画面に移行させていただきます。皆様の準備はよろしいでしょうか』

『『『『『『はーい』』』』』』

『お、良い返事ですね。ぜひその熱量を最後まで保っていただきたいと思います。それではさんはいで始めますよ。さん、はい!』


 そして恐怖のコラボが始まった。

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