第7話 発砲
優衣香の様子がおかしい
俺は優衣香を抱き寄せると、優衣香は不明瞭な言葉を発した。手にしたものを俺に掲げ、俺の胸に顔を埋めながら多分、こう言ったのだと思う。
『敬ちゃんどうしてこんなパンツ履いてるの? いつもは黒いボクサーパンツなのにこんな派手な柄物パンツも持ってたんだね。さっき短パンに手を入れた時に手触りがいつものパンツじゃないとは思ったけど、まさかオレンジ色でパイナップル柄のパンツだと思わなかったから私びっくりして笑っちゃった』
同期の中山陸と飲みに行く時に必ず使うクラブのママからプレゼントされた派手なパンツを、優衣香は手に持って笑っている。笑っているというか、過呼吸寸前くらいになっている。そんなにツボに入ったんだ――。
「たまにね、気合い入れる時に、派手なパンツを履くんだよ」
「そっ……ふふっ……そうな、んふっ……」
クラブのママによる謎チョイスの派手なパンツを俺は気に入っている。だって自分で買うのは恥ずかしいし。だが中山は好きではないのか、特別任務の時に加藤の枕元に置き去りにする。
呼吸の落ち着いた優衣香は、他にどんな派手なパンツを持っているのか聞いてきた。
俺は正直に答えたが、優衣香の返答に動揺してしまった。
「女性からもらったんでしょ?」
――どうして分かるのかな。
「自分で買ったんだよ」
「敬ちゃんは私がパンツ買うって言った時はメーカー指定したよね? 色も品番も」
「……うん」
「それなら何でも良いって、言うんじゃないの?」
――取調べ、かな。
優衣香は俺のパンツがくたびれてそろそろ破けると言った時に、買っておくと言ってくれた。その時俺は、そのパンツと同じ物をお願いした。
そのパンツは国産メーカーで、ウエストゴムのフィット感が好きで、俺が買うのは長い事これだけだ。ウエストゴムだけは生地がくたびれても新品同様で、不思議だなと常々思っているパンツだ。
「あの、クラブのママからもらった」
「んふっ……そうなんだ」
優衣香は笑っている。目を見ても、怒りを押さえているようには見えなかった。
「派手なパンツを履いてる敬ちゃんを見たいな」
「んっ!?」
そう言って立ち上がった優衣香はパンツを脱衣カゴに入れて、「お風呂入るから待っててね」と言って俺を追い出した。
俺は洗面所のドアの前で、正直に答えて良かったのか悩んでいると、優衣香の笑い声が聞こえた。
――また俺のパンツを見て笑っているのかな。
優衣香が笑顔なら俺は嬉しいが、パンツであんなに笑うとは思わなかった。
◇
午後十一時五十分
優衣香と手を繋いで寝室に入ると、ダブルベッドがあった。優衣香は前回、前々回と、セミダブルベッドで寝る俺が窮屈そうだったからダブルベッドに買い替えたと言った。
「ダブルベッドなら斜めに寝ても足が出ないからね」
背の高い俺は布団からはみ出すのが普通だ。だがダブルベッドなら優衣香の言う通り、斜めになれば布団から足が出ない。
「優衣ちゃんありがとう」
「うん。これで私はベッドから落とされる心配もないし」
「……ん?」
前々回、初めて優衣香のベッドで寝た時に優衣香が先に起きていて、俺は優衣香がいない事に驚いて起きたが、どうやら寝ている俺が優衣香を蹴ったらしく、優衣香はベッドから落ちかけて目が覚めたと言う。
「……ごめんなさい」
「んふっ、寝ている時だから仕方ないよ」
優衣香は繋いだ手を離し、ベッドの右側に行った。俺はいつも通り左側に行くと、優衣香はスマートフォンをその丸椅子に置くようにと言った。
前は仕事用とプライベート用の二台を優衣香側にあるナイトテーブルに置いていたが、優衣香は丸椅子を俺用のナイトテーブル代わりに用意してくれていた。
俺はその丸椅子にスマートフォン二台を置き、ベッドに入った。
ネイビーのパジャマを着た優衣香は髪をサイドで結んでいる。
優衣香を腕枕しようと左腕を伸ばすと、優衣香は笑顔で隣に来た。
優衣香の肩を抱き、右腕を腰に回して抱き締めた。
――優衣ちゃんのいい匂い。
優衣香の肌身の柔らかさも匂いも、半年前と同じで嬉しかった。優衣香は俺を見つめ、頬にキスをしてくれた。俺も優衣香の額にキスをした。
唇を重ね、優衣香の柔らかい体を抱き締めながら、俺は幸せを感じていた。
だが体が反応してしまい、俺はどうしようかと思った。すると優衣香が、俺の耳元で囁いた。
「今日は、私がするね」
俺が何かを言う前に、優衣香は短パンの中に手を入れて、パンツの上から触ってきた。
「口でしても、いい?」
――良いけど、でも……。
なぞる指先の刺激に耐えられなくなって短パンを脱ぐと、優衣香はパンツに手を伸ばした。
パンツを脱がされた俺は優衣香を眺めていると、口元に笑みを浮かべる優衣香は指先でそっと触れ、唇を這わせた。根元から先へゆっくりと。
その刺激だけで俺は果ててしまいそうになる。舌先で先を舐める優衣香は上目遣いで俺を見た。
口に含んだ優衣香は、舌を動かして俺を奥まで
このシチュエーションは妄想カタログにある。十数ページに渡る大作だ。だがリアルでは初めてで――。
――ダメだ、もう無理だ。
優衣香に負担がかかるのは嫌だが、もう我慢が出来ない。
◇
俺は今、優衣香と見つめ合っている。
仰向けの俺の足の間で正座している優衣香は、『もうイッたの?』と言いたいのだろう。だがそれは俺の
――秒で、出ちゃった。
俺はこれまでの人生で口でイッた事が無い。口だけでイクのは至難の技だと俺は思っていた。だが今、俺は優衣香にイカされた。優衣香が俺のを口に含んでいる姿を初めて見たのだ。無理もないだろう。
半年ぶり、大好きな優衣ちゃん、初めての口。
何も起きないはずがなく……。
――そんなの秒でゴーゴーヘブンに決まってる。
俺は優衣香の口に出してしまったから、ティッシュを渡そうとしたが見当たらない。部屋を見回して探していると、優衣香が「何を探してるの?」と言う。「ティッシュだよ」と返そうとして気づいた。なんでしゃべれるの――。
そう思って優衣香を見ると、飲んだようだった。ゴックン、と。
――妄想カタログに、また、一ページ。
「優衣ちゃん……」
「……飲んじゃった」
パンツと短パンを履いた俺は、なんとも言えない気持ちのまま、また優衣香を強く抱き締めた。
腕の中の優衣香は、「敬ちゃん、スッキリした?」と聞くが、そこは『気持ち良かった?』じゃないのかなと思ったが言えるわけもなく、優衣香の髪を撫でながら目を閉じた。
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