復讐を誓って学園に潜入した俺だが、いつの間にかラブコメになっていた件
霧島優
第1話
俺の名前は
時刻は午前十一時を回ったところ。今は夏休み真っ最中の為、家でゴロゴロとテレビを見て寛いでいた。
お昼時の台所にはエプロン姿の母が立ち、ルンルンと鼻歌交じりに料理を作っている。
テンポ良くリズミカルに刻まれる音が心地いい。
俺はそんなありふれた日常に幸せを噛み締めていた。
だがそんなありふれた日常は突如として崩れ去る。
インターホンのチャイムが鳴った事によって。
「京くん! 今手が離せないから出て!」
振り向きざまにそう叫ぶ母。
流石に無視する訳にはいかない。働かざる者食うべからず、だ。
「ああ」
俺は素っ気無い返事を返すと、テレビを消し、ソファーから腰を上げ、インターホンに向かう。そして辿り着くや否やカメラを覗くと、そこには父ではない警官が写っていた。
俯いている為、表情までは伺えないが、少なくとも父ではない。
──何故警察がうちに?
俺に思い当たる節はない。
かと言って『母が事件を起こした』とは考えづらかった。
俺は母を誰よりも良く知っている。母は家族を巻き込んで非行に走るタイプでは無い。かと言って『何か事件に巻き込まれた』とも考えづらかった。客観的に見ても、もし何らかの事件に関わっているなら、あんな鼻歌交じりに料理は出来ないだろう、と母の背中を見て思う。
なら残るは消去法で父しかいない。
──父が何らか事件に巻き込まれた?
『父が事件を起こした』とは微塵も思わない。
だが何らかの事件に巻き込まれたのなら、電話一本でも入れれば済む話だ。ワザワザ人を寄越す必要はない。
俺はどことない不安に襲われる。
「誰? 宅配便?」
母の呑気な声で我に返った。
「あ、ああ……」
無駄に不安を煽る発言は慎むべきだ。俺の考え過ぎで終わる話かも知れない。
俺は通話ボタンを押さずにリビングを出ると、バタバタと駆け足で玄関に向かう。
通話ボタンを押さなかったのは『警察が来た』と母に悟らせない為。通話ボタンを押せば会話の内容が母に筒抜けになってしまう。
無礼なのは百も承知だが、背に腹は変えられない。礼儀よりも母が大事だ。
俺は駆け足で玄関に辿り着くと、そのままの勢いでサンダルに足を突っ込み、扉の取っ手に手をかける。
「どなたですかー」
そして無知な子供を演じて扉を開けた。
すると警官は顔を上げる。
開幕飛び込んで来た顔は──美形だ。同性の俺でも一瞬見惚れてしまう程の。
「お昼時に申し訳無い。俺はこういうものだ」
警官はそう名乗って警察手帳を見せる。
俺はその声にハッと我に返る。
何をやっているんだ俺は……
俺は自らの行いを恥じ、意識を目の前の警察手帳に移す。
警察手帳には文字通り『巡査・
本物の警官だ。昔父が寝てる隙にクローゼットに掛けてあった制服から警察手帳を拝借した事が幸いした。
「……何故警察が俺の家に?」
俺は額に冷や汗を滲ませ、緊張の孕んだ声色で尋ねた。
「君のお袋さんを呼んで来てくれるか?」
その言葉に自然と気が引き締まる。
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