第26話 仲良し
子供を助けた時、背中から着地したため。
僕の上着はボロボロになり、背中を擦りむいていた。
「ひーーーー…」
「ごめんごめん…しみるよね…」
どうやら、脳覚醒しても痛みは一緒のようだ。
消毒液を付けられるたびに、両手がゴジラ手のようになり、仰け反る七羽。
ただ、ほなみちゃんに薬をつけて貰っているのはちょっと嬉しかった。
「お父さんの使ってないお洋服だけど…これで良いかしら?」
「有難う、お母さん。そこに置いてて」
ほなみちゃんのお母さんがそう言ってシャツを持って来た。
薬を塗り終わり、患部を包帯で包み、そのシャツに袖を通すと、意外とぴったりだった。
「あら、ぴったりね。この子のお父さん、医者になる前の学生時代はラグビーやってて、身体自体はそこまで大きくないけど筋肉質だったから、大きいかなと思ったけど…良かったわ。それにしても…宝杖くんは高校生にしては良い体してるのね。うふふふ」
ほなみちゃんのお母さんはそう言って、軽く笑った。
「ああ…いえいえ…はは」
「ちょ!!お母さん!!変な事言わないでよ!!」
へえ…ほなみちゃんのお父さん医者なんだ。
それでこんな立派な家なんだね…納得。
「おし、じゃあ。アラウンド10!行こうぜ!」
「うん」
浩平が早く遊びに行きたくてウズウズしていたのを言葉に出した。
◇
僕らはaround10へ着いた。
ここはアミューズメント施設である。
ボーリング、ビリヤード、テニス、卓球、バスケ、フットサル、バッティングセンター、ゲームコーナー、カラオケなど時間制料金で遊べる。
僕達は一日があっと言う間な感覚に陥るくらい、4人で遊びまくったが。
やはり締めはカラオケだった。
「つーか、七羽なんでも上手いんだもんなぁ…お前昔からそんなんだったっけ?」
「うんうん。宝杖くん凄かった!150キロの球って普通あんなに打てるの?」
「アレは絶対普通は無理でしょ…。私が知ってる、ななっちは、どちらかと言うとどんくさいイメージだったけどなぁ…まさか高校最後で本領発揮ってヤツ?あはははは…3年になってから本格化?…ほんとにどうなっているんだか?」
こんなに褒められる人生も捨てたもんじゃないね。
フフフ。君達よりも少し脳覚醒しているだけなんだけどね。
150キロの球なんて普通に打てた。そもそも僕の目にはそこまで速いと思わなかったからだ。これも脳覚醒のお陰だ。
でも3人の笑い顔を見ていると、何故か凄く、人と生きているんだなあと実感させられた。
「そう言えばさぁ。ほなみ、変な事聞いても良い?」
カラオケが鳴りやみ、いきなり桜子は疑問をほなみちゃんに投げかけていた。
「何?桜ちゃん?」
「もし言いたくないのなら言わなくても良いからね」
「うん」
「ほなみの家ってさ…ほら、さっきお父さんお医者さんって言ってたじゃない?」
「うん」
「何ていうか…私らの高校ってさ。スポーツ名門校だけど、決して頭の良い高校じゃないじゃない?」
「あああ…何で私が○○高校を選んだかって事?」
「お…俺もそれは気になっていたかな?」
2人の話に、浩平も口を挟んだ。
「うーん、私は女だし。跡継ぎにはお兄ちゃんがいるしね」
「え?お兄ちゃんいたんだ?」
僕含め3人とも「へぇ…」と呟いた。
「私はお兄ちゃんみたいに頭良くないし…運動神経もそこまで良いわけでもないし…家の中で私って平凡なのよね…親には、好きな事しなさいって言われたから、家から遠くない○○高校をただ選んだだけなんだ、制服も可愛かったしね」
「「「へぇ…」」」
皆、同じ反応をする。
「そう言えば、桜ってテニスで特待生徒だっけ?」
「うん、そそそ。後、一年頑張れば、部活からも解放されるわぁ」
僕の問いにそう答える桜。
「まだ桜は良いよな。ちゃんと成果残せてるからなあ。俺なんか、サッカーで特待選手で入ったけどよぉ…中学の時はまあまあ、俺やれると思ったけど…上には上がいて完全に補欠以下…早く卒業してーわぁ…」
浩平はそう言って天井を見上げた。
「宝杖くんはなんで部活とか入ってないの?」
「ああ…いやあ」
僕も実はこの高校が近かったのもそうだけど。
そんな頭良いわけでもないし、無難に入れるこの高校にしただけだ。
そう。なんの取り柄もなかったから、単に、授業料とか、爺ちゃん婆ちゃんに苦労かけているだけにしか過ぎないのだ…
まあ、あの門の世界の宝石のお陰で、金銭面は後から返す事から出来るから問題はないと思っているし。これ以上苦労かける気はない。
「ほんとだよなぁ…。
「いやいや、それ本当に最近筋トレとかして身に付いただけだし…はははは…」
「ななっち…そんな事あるの?本当は昔から凄かったとか?」
「ソレ…隠す事ある?本当に最近なんだってば…それに、別にやりたいスポーツもなかったし…」
「そりゃあ…そうよねぇ…」
とりあえず。その話は濁す僕だった。
「てか。後1週間で春休みも終わりかぁ…春休みって短いよなぁ」
「私も全く宿題とかやってないわ…」
「俺もだ…」
浩平と桜は、今まで楽しかった気分が、現実に引き戻され空気が重くなっていた。
◇
長く遊びを満喫した仲良し4人は帰宅の路につく。
ほなみちゃんを送って、桜をバス停まで送り。
浩平と下らない話をしながら帰宅する。
浩平とも別れ。
僕は自宅へ辿り着いた。
「おう!七羽戻ったか!」
「うん」
「明日は何かあるのか?」
「明日までは何もないかな?でも…明後日また留守にするかも知れないけど良いかな?」
「おうおう!じゃあ、明日は仕入れに付き合ってくれ」
「良いよ、爺ちゃん」
僕は、そう爺ちゃんに返事を返した。
◇
翌日。
早朝、トラックが迎えに来た。
「君が七羽君だね。私は山口と言います。今日はよろしくね」
「あ…よろしくお願いします」
この人は山口社長さんと言った。
爺ちゃんとは長い付き合いらしく。
本業は総合物産株式会社の社長らしい。
総合物産と言われる会社らしく、名刺の裏にはいろんな業種が書いてあった。
爺ちゃんと僕が乗り込んでトラックは、山口社長さんの運転で動き出した。
トラックは山奥へ3時間ほど走った。
「あ…学校?」
「うむ。今回はあそこで取引じゃ」
そこは田舎の学校を借りて骨董市を開いていた。
意外にも、近くの広場は車で殆ど満車状態で、人も結構いたのだった。
校庭にはテントが張って有り。
バザーのようにいろいろな物が持ち込まれて売られていた。
「へえ…なんか面白そう」
「じゃろ?」
テントの中を歩いて行く3人。
「あの壺って300万って書いてあるけど…」
「ふん。あれは偽物じゃな。儂の見た目5万って所かのぉ」
「え…ぼったくりじゃないか?…」
「骨董なぞ、そんなもんじゃわい。あんなもんを買わされて損する可能性もあるが、目利きが出来れば大金持ちにもなれる」
「へぇ…」
「七羽くん。お爺様の目利きは一流ですよ。私はお爺様の目でかなり儲からさせて頂きましたからね」
「そ…そうなんですね」
僕の爺ちゃんは凄いらしい事がわかった。
それから3時間ほど骨董品を物色して回り。
爺ちゃんと山口社長さんは、40~50点ほど購入してトラックへ積み込んでいた。
僕には何がどうとかさっぱり分からなかった…
でも、爺ちゃんが意外と金持ちなのは分かった。
一つの小さな絵を100万ぽんと出して購入していた。
ウチの骨董品屋に並べられている物だってピンキリだったけど。
確かに、数日すると無くなっているという事は売れたって事だろうから、心配するほどウチは貧乏ではないのかも知れないと思った。
帰る車内では、爺ちゃんも山口さんも、ホクホクした顔をしていたから、良い物が買えたんだろうと推測した。
「あ、そうだ。爺ちゃん、あの門の置物」
「ん?あああ…お前が持っていったあれか?」
「うん。あれさ、凄く気に入ってるんだ。ずっと貰っても良い?」
「ほほう。良いぞぉ、ああいう未知な物に興味を持つ所から骨董は始まるんじゃ!面白いぞ骨董はぁ」
「良かった。ははは…うんうん、面白そうだね…ははは」
骨董になんて全く興味はないけど。
これであの世界は僕の物だし。
爺ちゃんにはそう思ってて貰った方が今後も孝行できそうだしね…
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