第23話 本格的な探索
分配が終わり、暫くはその場で休憩した一行。
アイネはガランの繋がったばかりの手首と痛めた肩を新しい杖を持ち、回復を再び始めていた。
「そろそろ…この辺で良いのではないでしょうか?」
イルメイダが正座を崩しそう言った。
「うん。だいぶ楽になった」
「こっちも手首は完全に元に戻ったし、この先の部屋行ってみるか?」
ガランは腕をぶんぶんと回していた。
七羽は扉に向かう前にミノタウロスの箱を覗き込んだ。
すると、箱の中に何か残っているのに気づいた。
「ん?」
「なんだい?あたいが中身を全部だしたからもう何も残ってやしないよ?」
チーヌのその言葉を聞いたが、七羽は箱の中を再確認した。
そこにあったのは脳豆が一つ転がっていた。
そう、これは皆には見えない。僕にだけしか見えないアイテムだ。
脳豆をそっと取ってポケットへ仕舞った。
チーヌは、七羽のその行動に少し首を傾げたが、何とも思わなかったようだ。
皆、装備を整えて先の部屋への扉へ向かった。
ガランが扉を開けると、そこまで大きくない部屋だった。
右の隅に来た時に入ったような縦台円形ゲートがあり。
真ん中奥には下への階段が見えていた。
そして部屋の中央には台座があり、その上には丸い水晶が置いてあった。
「なんだあ、この玉ぁ?」
「ガラン。台座に言葉が掘ってあるよ」
チーヌがそう言い読み上げる。
「この階層の守護者を倒した者達よ、おめでとう。この水晶玉に手を触れる事で、君達がここに来たと言う証を記録する事が出来る。次にここから迷宮を始めたい場合は入り口のゲートで念じてここに来ると良い。そして入り口に戻りたい時にはそこにあるゲートに入ると戻れよう。…だって」
「記録ぅ?こんなもんに触れるだけで、次ここに来れるってか?」
ガランは首を傾げてそう言った。
僕にはすぐに理解出来た。
つまりはセーブ機能がこの水晶玉って事だ。
次来る時はここから始める事が出来るから最初の1階層から始める必要はない。
「そう言う事ですね。つまりこれはセーブ機能です」
「何それ?」
「む?」
皆が、七羽の言う聞きなれない言葉に耳を傾ける。
「どういう仕組みかは分かりませんが、その玉が僕達の生体認証か何かを記録するのでしょう。今度から入り口から始めなくても、ここから下の階層へ挑めるって事です」
七羽はそう答える。
「なるほど。これは高度な魔法具って事ですね」
ヴィルトスがそう言い、七羽は頷く。
「ここに書いてある事が本当なら一度戻る事も可能なんだな?一度戻るか?」
ガランは斧を立ててそう言った。
「そうね。補給もしたいし、こんな所で寝るのも疲れるわね、一度、魔狩人協会にも報告したいし戻ろうか?」
「うん。戻りましょう」
「はい」
「うん」
「はい」
「うむ」
そう頷いた一行は、水晶玉に一人ずつ手で触れる。
手を触れた瞬間、微かに光る水晶玉。
皆触れた事を確認し、最後にチーヌが水晶玉に触れる。
「じゃあそこのゲートに入りましょうか」
ガランは頷き最初にゲートへ入る。
そして次々に皆入って行く。
ガタガタッ!
「おわあ!!何者!?」
ゲートを潜るとそこは遺跡の入り口だった。
いきなり現れた僕達に、魔狩人協会職員が驚いて椅子から落ちていた。
「ああ。すまんな、俺達だ」
「え!?ああ…あんた達か…一体どこから現れたんだ…?」
職員は立ち上がり倒れた椅子を元に戻す。
その職員にざっくりと説明した。
「なるほど…1階層の守護者部屋まで突破して来たと言うのですね、ある程度今の話は記録しました。後、詳しい話は総支配人のランバル様にお伝えください。2~3日中にAランクの魔狩人達がこの町に数名終結する予定になっていますので、本格的な探索が始まります」
「もう集まるのか…こりゃあ俺らもウカウカしてられねぇな…で、ランバルのおっさんはまだ協会にいるのか?」
「今…夜の12時ですね。こんな時間ですが、あの人はこの時間でも大体、魔狩人協会にいらっしゃると思いますよ」
「え!?そんな時間なの?」
イルメイダが時間を聞いて声をあげた。
「必死だったからねぇ…あたい達が突入してから14時間も中にいたのもあっと言う間だったわね」
チーヌはそう言った。
「時間を聞いたらどっと疲れが出ました…」
アイネの言葉に僕とイルも頷いた。
「報告は明日にして今日は宿に泊まるとするかぁ?」
「「「「賛成」」」」
皆が賛成したので、近くの宿に泊まる事にした。
◇
次の日の朝。
皆は、朝食を食べて、その宿を後にした。
「じゃ、協会に行くぞ」
6人は魔狩人協会へ向かった。
魔狩人協会の扉は開いたままになっており。
協会に入ると物々しい姿の人達が、そこには沢山いた。
「なんだぁ?こいつら…上級の
「何かあったのかしらね?」
ガランとチーヌは周りを見渡してそう言った。
いかにも高そうなローブを着ている女性や重装備の戦士。
エルフ、獣人、ドワーフ、人間と、頭や皮膚は爬虫類系、背中には翼がある人型もいる。
「チーヌさん。あの翼持っている種族は?」
「翼?ああ…あれはドラゴニュート族ね」
「ドラゴ…?」
「頭がドラゴンに似ている人型でその名がついた種族よ。まあ、ドラゴンとは全く別物だけどね。人型の種族で空を飛べるのは彼らだけね」
「へぇ…空飛べるんですね…」
「まあ、長時間は飛ぶのは無理のようだけどねぇ。魔力は低いから魔法もあまり使えない種族でもあるわね、後は火を噴く事が出来る以外、そこはあたい達獣人と変わらないかしら?もっとも陸なら獣人族の方が分があるわ」
「なるほど…火も吐けるんだ」
七羽は軽く納得して、人をかき分けガランについて行く。
「嬢ちゃんよぉ。ランバルのおっさんはどこに?」
「ああ、ガランさん待っていました。こちらへ」
受付嬢は僕達を奥の部屋へ案内した。
◇
ゴンゴン。
「どうぞぉ」
「入るぞ」
ガランは扉を開けて、一行は中へぞろぞろと入った。
ガランは入って早々ソファにドカッと腰を下ろす。
「ちょっと待ってくださいねぇ…これを、終わらせて、こっちにもサインをして…とぉ、これで一段落…」
ランバルは書き物を素早く終わらせて、僕達が座っているソファの対面に座った。
「昨日深夜ぁ、突然迷宮から帰還して来たと職員から聞きましたよぉ。それで…どうでしたか?」
「説明は、あたいからしますわ?」
そう言って、チーヌは迷宮へ突入してからの一部始終を説明した。
「ほうほう…なるほどぉ。巨大なミノタウロスを撃破して戻って来たわけですか…、そして転送ゲートまであってぇ、次迷宮に入る時はそこから始められると?それは何処かの文献にも載っていたので大体は想像が出来ましたがぁ、実際それが本当だったとはぁ…」
「戦利品は、この斧とかアイネの杖、チーヌのダガー、イロハの胸当て鎧とかのマジックアイテムだが。これは俺達の物でいいんだよな?」
「勿論ですともぉ…ですが…マジックアイテムとはやはり良い物なのですかぁ?」
「じゃあ、そこは僕から話します」
「ふむ」
「僕は、鑑定の魔法で物事を見る事が出来ます。それで迷宮も解放する事が出来たのですが、それはこのマジックアイテムとかも鑑定する事が出来たのです」
「なんとぉ…そんな魔法が使えるのですねイロハ君はぁ」
鑑定は魔法じゃないけど。そう言った方が話が早いと思って僕はそう言った。
「ランバル様、その話なんですけど、ここだけの話にして貰っても?あたい達も秘密にする予定なので」
「チーヌ君、勿論わかっていますよぉ。私も魔狩人協会総支配人ですので秘密は厳守します。そんな魔法を持っているとなるとぉ、イロハ君で良からぬ事を考える輩が増えそうですからねぇ」
「分かって貰えて良かったわ。イロハ君の鑑定精度はその辺の鑑定商人の比ではない事だけは言っておくわ」
「ふむぅ…」
納得して貰ったので、七羽は迷宮で拾った個々のマジックアイテム性能などを、ランバルへ説明した。
「なるほどぉ…迷宮品、噂に違わぬ代物みたいですねぇえ。この武具があれば、溢れた魔物も一掃する事も可能になりそうではありますねぇ…」
ランバルは顎に手を添えてそう言った。
「ランバルさん、まだ僕知らない事多いのですが、溢れた魔物ってそこまで深刻なんですか?」
「ふむ。最新情報で、まだ知らない人も多いと思うけどぉ、魔狩人協会、西大陸支部からの連絡がいくつか途絶えたんですよねぇ…」
七羽の問いにランバルはそう呟いた。
「西の大陸はこの大陸よりも魔物が多いって言ってたけど…まさか…」
チーヌは眉を顰めてそう言った。
「まあまあ、まだ入って来たばかりの情報だからぁ、ひょっとしたら忙しいだけかも知れないしぃ?」
ランバルは両掌を上に向けてそう言う。
「でも、幾つかの協会が同時にって?…」
「そのまさかの為に、私達グランリア魔狩人協会は今急いでいるんですよぉ。今、迷宮品を確実に産出するために上級クランなどに呼びかけしました」
「ああ…だから、物々しい連中がここのロビーにうじゃうじゃいたのかよ?」
「です。これから本格的な探索とぉ、迷宮品収集が始まりますぅよ」
チーヌとガランの物言いに答えて行くランバル。
「そこで、イロハ君…と、君達には別の任務をお願いしたい」
「別の任務?」
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