第12話 辛勝

 ゴブリンジェネラルは炎に包まれたまま、その場に崩れ落ちた。


 それを見ていた雑魚ゴブリン達は一気に廃墟の中へ流れ込んで逃げて行った。


「やった…」

「イロハさん。やりましたね!」

「うん、他の人達は?」


 七羽いろはが周りをキョロキョロとすると。

 怯え切っていた、Eランクパーティ4人が寄って来た。


「君…有難う!有難う!」

「凄いよお!」

「生きてる…良かった…」

「うん…しくしく…うん」


 魔狩人マカドの男達は、号泣してそう言った。


「イロハさん…私。中にいたDランクの人達見て来るね」

「いや、僕も行くよ」

「うん」

「俺達も…武器投げ出したまんまだから一緒に行く」

「うん」


 危機を脱した僕とイル、Eランク魔狩人4人の6人はもう一度廃墟の中へ入った。


 まず、入り口の壁下に崩れ落ちていた、Dランクパーティのリーダーを確認した。

 イルメイダがそっと覗き込むが…彼は死んでいた。

 死因は壁に激しく激突した衝撃で内臓破裂や全身の複雑骨折って所だろうとイルメイダは言っていた。


 Eランクメンバー4人は自分の武器や盾を拾い上げる。


 周りを見るとおびたしい、ゴブリンの死体が転がっていて。

 血の臭いが充満していた。


「うっ…」

「イロハさん、大丈夫ですか?」

「うん…」


 血の臭いで少しせる。


 警戒しながら、奥の間に進む一行。


 ゴブリンの死体の中に明らかに違う、装備を纏って転がっている死体が3つ。

 紛れもなくDランクパーティメンバーだった。


 誰かも分からないくらい顔も潰されていた。


 僕は、彼らに成仏出来ますようにと手を合わせ、奥に進んで行くと大きな地下への穴が開いていた。


「ここ…何処かに繋がっている…ゴブリン達はここに逃げて行った?」

「かも知れないですね…」


 僕のその呟きにイルがそう答えた。

 Eランクパーティの二人が恐る恐る口を開く。


「と…とりあえず戻りませんか?」

「うんうん…何もいないうちに帰ろうよ、またあんなのが出てきたらもう終わりだ…」


 僕とイルは顔を見合わせて頷いた。


「じゃあ…貴方達は、依頼達成の証になる、ゴブリンの右耳か角を取って来て。私達は、この穴からゴブリンが来ないか見張っているから」

「はい!わかりました」


 Eランク4人は頷き、死んでいるゴブリン達から、討伐証拠となる物を剥ぎ取りにいった。


「イロハさん…そう言えば、さっきのあの魔法…なんですか?」

「え?あの火の魔法の事?」

「ええ。青かったあの炎です。普通、火って赤っぽい色で燃える物ではないでしょうか?」

「ああ…あれはガスバーナーを意識した物で…」

「がす?…何ですか?」


 ああ…地球での事を説明しても分からないよね…。


「えっと…説明しても分かりずらいかもだから今度、実物を僕の世界から持ってくるよ」

「ええ…うん」


 暫くしたが、穴からゴブリン達が出て来る事はなかった。

 Eランクパーティも死んでいるゴブリンから耳や角を剥ぎ取ったみたいで、6人は廃墟から外に出た。


 炭になった大きな死体がポツンと転がっている。


「イロハさん、その角削り取って貰って良いですか?私は、魔石を取り出しますので」

「うん?魔石って?」

「このクラスの魔物になると魔石が体の中に生成されるんです。それが、私達が使う魔法触媒や、生活魔石具の素材になるのです」

「へぇ、あの手洗い場とかの水が出る道具とか?」

「そうです」


 七羽は、納得して黒焦げの死体から角を削りとった。

 イルメイダも背中をナイフで切り開き、野球ボールくらいの大きさの魔石を取り出していた。


「さあ。日が暮れる前に帰りましょう」

「はい」「うん」「帰ろう…」「うん」


 イルメイダの言葉に、皆、疲れ果てながら同意する。


 ◇


 エルフ森、亜人達が行き交う町「シルマンダ」に帰り着いた。

 僕とイル以外の者は、顔色が悪い。


 あそこで、囲んでいた雑魚ゴブリンが襲って来ていたら…

 全滅していたかもしれない。

 逆に、あのジェネラルが出てきたお陰で、この人達も助かったのではないだろうか?

 イルだけを連れて逃げる自信は何となくあったけど、僕は、この人達を見殺しに出来たのだろうか?…


 これが、この世界で生きていくって事なんだろうな…


 七羽は、あの時の事を考え、生唾を飲み込んだ。


 ◇


 魔狩人マカド教会へ着いた一行は、沢山のゴブリンの耳や角を受付へ差出。

 報酬を受け取った。


 Eランクの4人は疲れ切っているのでと、報告は僕達に任せて去って行った。

 教会は僕達の報告を受け、廃墟の地下穴を調査を始めると言った。


 驚いたのは、あのゴブリンジェネラル討伐報奨金だ。

 一体でたったの金貨1枚だった。つまりはあれだけ危険な魔物だったのに日本円で1万円だ。


 所詮、ゴブリンって事なのか?これでは、死んでしまったDランク4人は浮かばれないな…と、僕は思ってしまった。


 イルと僕は、協会近くの酒場で勝利を祝う事にした。

 客席に座り、イルはお酒を、僕は果実ジュースを頼んだ。


「イロハさん…浮かない顔ですね?」

「ああ…いや、なんかこの世界って厳しい世界なんだなって思って」

「イロハさんから見たら、そうかも知れませんね。でも、この外の人が創造した世界は…これが常識であって、私やみんなが必死で生きている世界なんです」

「うん…そうだね。これがこの世界の常識…か」

「この先の末路がどうなってしまうのか分かりませんが、私はこの世界で生まれて来た事に後悔はないし、必死で生き抜いてみますわ」

「うん」


 飲み物が運ばれてきて、イルメイダは肉料理と何か食べ物をもう一つ頼んでいた。


 僕が使用者になり、継続させる事でこの世界はリセットされずに済んだ。

 待てよ。オルキルトさんがリセットして新しくこの世界を設定したわけだよな?

 そして、エルフや他の亜人種、魔物や、世界の設定をしたわけだよね?

 と言う事は、RBS、この世界の設定をする事が出来るって事じゃないのか?

 ひょっとしたら…


「イル、僕さ。この世界の使用者として、この世界の設定…いや、この世界の理を変える事が出来る、何かをいつか探してみるよ」

「………理を変える?」

「うん」

「んふふ。イロハさんありがと!もしそんな事が出来るのなら、お願いしてみましょうじゃないですか」

「うん、大きな事は言えないけど、探してみる」

「はい!んふふ、あ!来た来た、ここのお肉美味しいんですよ~、そう言えば、イロハさんもお酒飲んだら?こっちの人は15で成人なんだから!」

「そうなんだ。じゃあ次は果実酒を飲もうかな?」

「そうこなくっちゃ!」


 辛勝だったけど、イルも僕も生きていて良かった。


 その後、初めてのお酒と、少し酔ったイルと楽しい会話を楽しんだのだった。



 ◇


 次の日。

 僕は一度、地球に帰る事にした。


 イルにもメイ婆さんにも、それは伝えてある。

 この世界に2週間ほどいたはずだから、地球では2~3日ほど経っているはずだ。

 あまり、爺ちゃん達を心配させるのも悪いし、買ってきたい物もある。


「じゃあ。1日、行って来ます」

「ああ、イロハにも家族がいるのだろう?ちゃんと年寄りは大事にせんといかんぞよ」

「はい、分かってますよメイ婆さん」

「いってらっしゃいませ。イロハさん」

「うん」


 七羽は、目を閉じて地球へと帰還した。

 七羽が一瞬でその場から消え。

 メイとイルメイダは顔を見合わせて頷いた。


 ◇


 地球の自分の部屋に帰還した七羽。

 時計を見ると朝の11時だった。


 部屋を出る。


 自宅の部屋を確認しながら見て回ると。

 婆ちゃんはテレビをつけたまま、ソファで寝ていて。

 爺ちゃんは骨董屋の外で積み込み業者に指示を出していた。


「爺ちゃん?」

「ん?七羽、家におったんかい?それならそう言わんかい」

「ああ…そうだね、あはは」

「あははではない。積み込み手伝っておくれ」

「ああ、はい」


 外にある積荷を持ち上げると。


「む?七羽…お前…いつの間にそんなに力持ちになったんじゃ?腕もそんなに太かったか?」

「え?ああ…え~と…筋トレしたからじゃない?」

「ほう…まあ、身体を鍛えるのは良い事じゃ。その調子で運んでおくれ」

「はいはい」


 そうだった…

 脳豆食べてから一気に筋力が増えたんだった。

 袖もパツパツしてるし、後から、服買いに行かなきゃな。


 荷物の積み込みも終わり、財布と携帯を持って外に出た。

 携帯を見ると、この間カラオケに行った、駿河浩平からLINEが数件来ていた。


《○○日に、ほなみの誕生日があるんだけどさ。同級生数名集まって誕生会やるって話になったから、お前も来いよ?》


《おいおい、反応なしかよ》

《あ~あ、ほなみもお前が来ないと可哀想だなあ》

《おーい、見てるか~》


 〇〇日って?

 げげげ…今日じゃん!

 とりあえず返信しておくか…


《ああ、ごめん。今日何時に何処で?》


 そう一言打ち込んで、服を買いに町を歩いた。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


後書き。

暑いですねえ…

皆さま熱中症には気を付けましょう。

涼しい所で読んでくださいね~(^^♪






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