推し小説(悪役令嬢転生モノ)のモブに転生しました

蜷咲

第1話

「おはよう、当方たちの小さな宝物達」

目を覚ますと知らない天井、私はベビーベットに寝かされ、目の前には切れ長の目をした美形の男女が寄り添いながらこちらを覗いていた。思わず伸ばした自分の手は小さく、思うように体を動かせない。うん、完全に赤ちゃんになってるなこれ。

「(*´Д`*)アゥーキャッキャアゥアゥー」

さっきの言葉的に目の前の男女は自分の両親かな。そっか〜転生か。

「ヾ( 〃∇〃)ツ キャーーーッ」

亡くなった記憶がないけど多分赤ちゃんの脳で耐えられるキャパじゃ無いんだろうな

「(*ノдノ)ウキャーーーーーーーー」

......隣の子さっきから興奮が凄いな。どんな子なんだろうと思っていたらなんかフワフワしてきた。考えてるだけで赤ちゃんの脳は疲れたらしい。このまま眠気に身を任せて寝よ、おやすみなさい。



こんにちは、あれから1ヶ月経ちましたよ。赤ちゃんとしてのんびりと過ごしながら記憶の整理をしています。最近寝返りが出来るようになったので隣の兄弟を見てみたんだけど......限界オタクってあんな感じの事を言うんだろうな〜って表情を浮かべていた。ていうか絶対この兄弟、自分と同じく転生者だよね。でも両親や乳母さんの前では赤ちゃんのエンゼルフェイスを保っているから凄いよね。

ちなみに自分今世の名前はリマ、隣の子もとい双子の弟はティガ君らしい(どちらが年上か分からないけど多分自分が姉だろう)。この1ヶ月周りに聞き耳しながら分かったことはこの世界はどうやら魔法が発達している世界の私の家族の身分は...分からん。だって、赤ん坊の私に集められる情報なんて限られているし。ただどうやら貴族ということは確かだった。乳母さんがベビーメリーを魔法で動かした時はキャッキャと興奮したよ、ホント。......隣にいた彼に関しては言わずもがな。あー、早く動けるようになりたいな〜。



私、リマ。どこにでもいる2歳の女の子。

ちょっとふざけてみたけど私たち双子は元気に育ち、1歳になった辺りから始まった授業によってこの世界の言葉を片言だけど話せるようになったよ。いや〜赤ちゃんの成長は早いね。この間もうっすら出ている魔力が暴走しないようにと小さなルビーとジェットの付いたアンクレットを着けられた。そういえば両親の瞳の色が父は漆黒で母は紅だったな〜と思いながらアンクレットを眺めていると隣からグフフフ(。 >艸<)と声が聞こえたけど気にしない事にした。そうそうこの間ティガ君と話そうとしたけど会話出来ませんでした。いや、別に意思疎通できてなかった訳じゃなくて小さい子特有の舌足らずだったから伝えたい事があっても「アゥー」って感じでお互いに会話するのが難しかったのよ。

あぁ残念、無念、また来年!!



早くも転生してから3年経ちました。

1歳から始まった礼儀作法を身につけることができ、これでティガ君と会話をリベンジできるぜ☆

という事でティガ君と話しかけようと思っていたら「リマ、ちょっと、いい?去年の、続きを、したい」と向こうからから話しかけてくれました。

おやつタイムとして2人で部屋に戻りメイドさんが部屋の隅に立つのを確認してから(まだ幼いので完全に2人きりとはいかなかった)彼は緊張した様子で口を開いた。

「自分転生者なんだ。リマも転生者?」

「そうだよ。改めてだけど自己紹介でもしない?私の前世の名前は早苗。転生前は19、死因はまだわからないけど多分これから思い出すと思うよ」

そう日本語で聞かれたので私も日本語で返すと彼はホッとしたように表情を緩めた。ティガ君、日本語も話せたんだ。

「早苗さん、自分の前世の名前は弥生。転生前は18、自分も死因は分からないな。とりあえず2人で会話する時は日本語で、前世の名前呼びでもいいかな?」

「いいけど元々歳が近かったしさん付けは距離感あるから呼び捨てでお願い。改めてこれからも姉弟としてよろしく、弥生君」

「ちょっと待って早苗ちゃん、兄妹だろ。」「姉弟だよ。」「兄妹!!」「姉弟!!」

「「ジャンケンじゃゴラ( ・᷄д・᷅ )」」

あいこを何度も繰り返し3日後遂に決着が着き、......私が妹になりました。

( ゚皿゚)キ─︎─︎ッ!!!悔しい!!



5歳になりました。あれからティガ君改め弥生君とのおやつタイム改めお茶の時間の雑談は2人とも授業や魔法、武器を使った実践形式の鍛錬が忙しくて週3に減ったけどやってます。そういえば魔力系統をこの間測ったら2人とも影系統だということがわかったんだよね。影系統の特徴は何よりその汎用性が高いということが有名で、例えば1度見たモノならなんでも再現・解体が出来たり、水に潜るように影から影に移動できたりできる。私は影を媒体に物質を作り出す魔法、弥生君は影を媒体に生物を生み出す魔法が得意だった。それから武器も魔法と安定して使用し、ある程度の知識と技能が頭に入った頃、お父様に私と弥生君は呼び出された。お父様の友人の1人、ラブハート公爵の御令息が5歳の誕生日を迎え、お披露目という名の茶会が開かれるらしいので将来仕えることを視野に失礼の無いようにと釘を刺されながら参加する事になった。そういえばご友人の貴族、「ラブハート」って名称何処かで聞いたことあるんだよな…。お茶の時間で弥生君に聞いてみたけど彼も分からないらしい。というのもお父様達は多くの使用人を育成し貴族と雇用契約を結んでいるから何時聞いたのかよく分からないっていうのが本音だ。

幼い子どもの頭では分からない事もあるんだよ。



ラブハート公爵家。ずっと引っ掛かったまま分からず、隣の弥生君も私と同じ感じの喉に魚の骨がつかえた様にモヤッとした表情をしていた。本当になんだっけ?

そんな思いをしながらやって来ました、ラブハート家。結局2人ともなんだったか思い出せず今に至った訳ですが我が家名に泥を塗らないよう気を引き締めて馬車から降りた。広い庭園では私たちと同い年位の子どもが沢山いて早くもグループを作っている子もいた。小さいながら凄いね。私達はとりあえずお父様と色んな貴族に挨拶していた。しばらくすると賑やかだった声が小さくなり前方から美形の夫婦の後ろから私達と同い年くらいの薄く赤味かかった金髪の少年と鮮やかな赤い髪をツインテールにした小さな女の子が緊張した様子で出てきた。

「皆様、本日はお集まりくださりありがとうございます。ほら2人共、皆様に挨拶しなさい」

「ごきげんようみなさま。ステファン・ラブハートです」

「ご、ごきげんよう…ですの。エリザベート・ラブハート...ですわ」

滑らかに挨拶した兄と対照的にまだ拙い口調でそう自己紹介をしてドレスの裾を摘んでお辞儀した彼女を見た瞬間、私の脳内に電流が走った。



正確には脳内につかえてた凝りが消え前世の死因を思い出した。

前世の私、つまり菊月 早苗は小説投稿サイトに連載されていた『ちょっと待て!!もしかして私悪役令嬢になってない?!』通称『ちょま令』にはまっていた。

小説の更新日だったあの日、スマホの充電が切れ、しかも運悪くモバイルバッテリーも持っていなかったため大急ぎで家に帰ろうとした。しかし、焦っていたせいか大雨で濡れた歩道橋の階段を踏み外しそのまま落下、頭を強打し打ちどころが悪かったのか全身から力が抜け意識が朦朧とし視界が赤くなったのが最後の記憶だった。私は死ぬ直前走馬灯を見ながら家族や親しかった友人に早くあの世に行くことへの謝罪をする一方「あぁこのまま死ぬなら小説の続きを読みたかった。」と悔やんだ。


肝心の『ちょま令』だか、最近流行りの悪役令嬢成り代わりのざまぁ系小説だった。

主人公がある日大好きだった乙女ゲーム「可憐な天使と夢見る羊達」に出てくる悪役令嬢になっている事に気がつき、このままいくと攻略対象に殺されるか黒幕として悪魔に乗っ取られて死ぬかの2択とい事を思い出した。幸いまだ幼くシナリオは始まってないと脱BADENDを目指し主人公は行動していくが自分の事が嫌いなはずの攻略対象達が何故か自分に構ってくる。無自覚鈍感系ヒロインの主人公は果たしてBADENDを回避できるのか!!

…というのが簡単なあらすじなんだけどその『ちょま令』の主人公が転生した悪役令嬢の名前がエリザベート・ラブハート、つまり今挨拶した愛らしい彼女なのだ。


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