閑話1『時間の香水閉じ込めて』
パシャ。
自前の一眼レフを縦に構えて、ファインダーを覗く。スジグロシロチョウがヒメオドリコソウの蜜を吸いにやってきたところを、一点の時間と二次元の空間として拝借する。スジグロシロチョウはゆっくり羽を開いて閉じて、次に開いた時は退屈そうにそのまま羽を震わせていた。
「ありがとう。少し失礼するよ」
そう呟いてシャッターボタンを押す。するとスジグロシロチョウは「それじゃ私、行くから」という言葉を言い終えることが出来る丁度の時間を置いて飛び去っていった。
校舎の日陰になりがちで湿った土につかないように尻を上げた体操座りをやめて立ち上がり、猫背でさっきの作品を確認する。
「うん。かわいい」
「美しい、でしょ。私、メネリク一世に見初められたことがあるもの」
スジグロシロチョウは右頬を掠めて見知らぬ大地へ羽ばたいていった。ふわり、麗しい佳芳だった。
さて、もうそろそろ部室に戻るか。
そうして歩きだして、校舎の角を曲がるところである声が聞こえた。
「――さん、僕と付き合ってください!」
「――はいっ!」
なんと青春の声だった。ちらっとカメラ越しに覗いてみると、なんとその二人はクラスの両隣の人だった。
思えば怪しいところは何度かあった。
数学の相互説明の時間では頑なに自分を含めた三人でやっていたし、彼の部活であるサッカー部がまだ終わっていない時は必ず校門に彼女がいたな。
てか、この前卵焼きを「あーん」してたわ。うーわ確信犯やんつら。
「あっぶね」
右手を抑えた。
ダイナマイトを投げ込むところであった。
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