第二十七話 三つ巴
薙刀が空を払う瞬間を、銃弾を追っていた目はスローで追った。雑な走馬灯はもうない。あるのは、地獄にも終わりがあるのだという発見だった。≪銃殺≫は目を見開く。この瞬間を忘れないように。自分の子を殺した相手を思い出して、呪いをかける。子がどんなに怖い思いをしたか、親が知れば、慰める言葉も思いつくかもしれない。
風切り音が心地よいと感じた。同時に、底から響く、醜い声も混ざっていた。
「ぶっ殺おおおぉぉぉぉぉぉぉおおおおっす‼︎‼︎‼︎」
階段をバタバタと駆け上がる。騒がしい音と声は、一直線に屋上へ向かってくる。風を切る音が消えた。月明かりに落ちた影が、動きを止めた。
「……
絶望か、希望か。どちらとも言い得ない呟きが、≪銃殺≫の目の端で光るそれを捕捉した。
薙刀の射程外に飛び退く。≪模倣犯≫は注意を戻して追撃する。向かってきた相手の横を通り過ぎて、さらに距離を空けた。低く身構えた手には、コンパクトなハンドガン。
「上手ぅ」
賞賛。焦りの見せない怪物は、黒づくめの相手に目を見張った。
≪模倣犯≫は人の動きを見ることが好きだ。≪撲殺≫との戦いも、自身のためになるだろうとあえて殺さず、そして殺されないよう逃げ回った。≪銃殺≫の動きは≪撲殺≫と比べるとスピードもパワーも劣る。けれど無駄のない動き。予測をさせにくくする黒く自由度の高い服。コンパクトに、確実に、狙いに来るはずなのに裏をかく。闇よに紛れる猫のような金の目が、狩猟本能をむき出しにしている。
≪模倣犯≫は拍手する。息の上がった相手は銃口を向けている。撃たれたら死ぬかもしれない状況も、≪模倣犯≫は愉しんでいるように見える。
「ハ……ハァ……ハァ……ッ」
「えーっと、
「……
足音が大きくなってきた。≪銃殺≫は銃を下ろさず、目線だけたまに扉に向ける。薙刀を持ったままの≪模倣犯≫の方が、得体の知れない来客よりも危険度は高いから。
聞き取れない叫びと共に、何かが飛び込んできた。
「どこだくそやろぉぉぉぉぉおおおおお‼︎‼︎ ⁉︎ 見つけたぜ≪模倣≫ぉぉぉおおおおおおお‼︎!!」
「うわぁ、やだぁ、あはは」
1人が扉をくぐった瞬間にUターンし身を潜めた。追ってもう一人が姿を現した時、再開を懐かしもうと大股で駆け寄ってくる。
≪銃殺≫は呆気にとられるしかない。まさか、こうも凶暴そうな見た目の者がいたとは。そしてそれに対して笑って返す者の不気味さ。さらには、それが最高得点保持者である≪模倣犯≫であるという。
この不気味な化け物を誰かが倒さないと、このゲームは終わらない。否。復讐者サイドとして唯一生き残ればいい。そうすれば、囚人側1人、復讐者側一人でゲームは終了できる。となった時。≪銃殺≫は、考えた。
≪銃殺≫は≪模倣犯≫から距離をとった。≪模倣犯≫は≪撲殺≫を見て、迎え撃とうとしている。位置として、三角形の頂点。≪銃殺≫からは≪模倣犯≫と≪撲殺≫の距離がはっきりとわかる。
ハンドガンを構えた。的が大きい。命中率に自信のない≪銃殺≫でも、一直線に動く相手ならば予測もしやすい。引き金にかかった指に力が入る。銃口は≪撲殺≫に向いている。音が鳴るか、鳴らないかのところで。≪撲殺≫は動きを止めた。銃弾は、≪撲殺≫が向かっていたであろう未来の場所を通り過ぎた。
「
「蠅は引っ込んでろ!」
「っ!!!?」
巨体と大きな筋肉の持つ瞬発力は、銃弾まではいかずとも常人の非にならない足幅を体現する。一瞬の隙をつき、≪撲殺≫は≪銃殺≫の側頭部に拳を振り当てた。≪銃殺≫の反射的に出た手にはハンドガンがあり、それは砕かれた。欠片が頭部に刺さる。≪撲殺≫の拳は滴るほどの血液に濡れていた。
「あーあ、だめだよぉ。≪撲殺≫くんは耳が悪いかわりに目がものすごくいいんだから。ちゃんと死角から狙わなきゃー」
薙刀を肩に担いで、カラカラと笑う。
≪撲殺≫が地下闘技場にいた時、もちろんたくさんの攻撃を受けた。経験の浅い頃は大怪我もした。そのうちの一つが、鼓膜の損傷だ。相手の殴打に遠慮という文字はなく、ただただ殺しに来るだけだ。≪撲殺≫が≪銃殺≫にしたように、側頭部からの打撃で頭を揺らし、ノックアウトを狙う。その際に鼓膜が破れることはよくあること。≪撲殺≫も、その一人。
聞こえない代わりに、相手の打撃を見切り、予測する動体視力を手に入れた。当たらないように避け、確実に当てるために先手を取る。一番命を賭けて戦ってきた人間の処世術。
≪撲殺≫の視界の端にいたことが、≪銃殺≫の敗因だった。動き出した≪銃殺≫の動向を予測し、回避。即座に反撃する。戦い慣れていない≪銃殺≫は、確信を崩されたことで対応できなかった。
―― ≪撲殺≫、≪銃殺≫を撃破ああああああああ!!!! 得点が移動します!! ≪撲殺≫270ポイント!! ≪模倣犯≫の305ポイントに近づきました!! ――
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