Re:make-奴隷姫、革命の物語-
篁久音
零ノ話
エピローグ
雨は降っていなかった。しかし、暗く冷たい惨状が胸に降りかかっている。
戦いを終えた満身創痍の青年は彼女の前に立った。彼の中で昂っていた熱が急速に冷めていくのを感じる。
「……終わったよ。待たせてごめん」
「……うん。全部……見てたから」
磔にされた少女は抑揚のない声で答えた。胴に三本、両手両足に一本ずつ。形状も材質も異なる計七本の長剣が無垢な細身に深々と突き刺さり、紅く染めている。
口端から鮮血を零しながら、妖精は青年に囁くように呟いた。
「任せていい……?」
青年は小さく頷いた。そして閉じかけの蒼い瞳が殆ど機能していないことに気付き、もう一度大きく頷いた。
安堵したような薄い笑みを見届けて、青年は杖替わりにしていた剣を持ち上げる。少女は項垂れ、青年に枷の填められた細い首を差し出した。
「全部、引き継ぐよ。僕が」
天高く突き上げた剣は妖しく黒い光を放ち続けている。その剣を軽やかに、重々しく、少しでも苦しませぬように、青年は振り下ろした。
「─ッ!」
剣を投げ捨て、青年は崩れ落ちると共にごろごろと転がる彼女の頭に覆い被さり、飛び散る血飛沫から守る。首を優しく抱きかかえ、青年は己の小胆を恥じた。
「あの時からずっと、貴女を好きでした」
首、そして両の手首に枷が自然と填められる感覚に青年は驚くことはない。重くなる体に鞭を打って立ち上がる。
足を引き摺りながら玉座へと辿り着いた青年は身を投げ出すように腰を下ろした。ここには、彼一人だけ。優しく抱えた最愛の人に、青年は小さくキスをした。
これは、復讐と贖罪の物語。その青年の名は―。
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