その四、即行動
「これっ」
と坊主髭面はジーパンのポケットから赤い薬が入った小瓶を取り出す。
如何にも怪しさ満点な雰囲気のそれ。
タバコを吸いつつ、ここまで、やり取りを聞いていた若駒は、若返りの薬、そんなものが在るはずがないと半信半疑ながらもバレないよう視線と耳を傾けている。坊主髭面は小瓶の口を右人差し指と親指でつまんで、ゆらゆらと左右へと揺らす。
周りを漂う紫煙が、幾らか濃くなる。
「なんか胡散臭い。怪しさMAXだべ」
とホスト系が訝しむ。眉根を寄せて。
「怪しくない。じゃ、実験してやる。この場で俺が飲んでやる。それで信じるか?」
「おお、飲め飲め。そしたら信じるよ」
と、はやし立てたホスト系を尻目に坊主髭面が薬を飲む。ごくりと喉を鳴らして。
瓶に入っていた薬は、全て無くなる。
ああ、もったいない、と不覚にも惜しく感じてしまう、若駒。
すると、
不思議な事に坊主髭面が、いくらか若返ったようにも見える。無論、そんな非現実的な現象が起こるはずはない。それでも三歳は若返ったとしか思えないように、背が縮み、目元、口元も幼くなる。いや、若者が若返ったように見えただけの話だ。
そうだ。気のせいの域を出ない話だ。
と、自分を納得させた若駒だったが、同時に心が急いていた。
若返れば編集の見る目も変わる。世の中からも見方も変わる。
たとえ若返りの薬が偽物だったとしても、どんなチャンスも逃したくはない、と。
「だろ。若返っただろ? 本物だべ?」
「いやいや、プラシーボ効果だろ。それ。お前自身が、そんな気になって、そんな気になったから若返ったように見えるだけだろ。それ以上でも以下でもねぇよ。マジ」
「ちょっといいかい。聞きたいんだが」
急いでタバコを灰皿へと捨てて、坊主髭面へと詰め寄る若駒。
ふわっと舞った煙が彼の背中を押す。
「その薬、どこで売っているんだ。ちょっと興味があってね。良かったら教えてくれないか。もちろん、お礼はするよ。これで美味しいもので食べてくれないか?」
と万札を二枚、彼らの前に差し出す。
もちろん、都市伝説系の話をして、一人、一万円ずつ貰えるならばと坊主髭面はニコニコ顔で薬を買った店の住所を教える。かたやホスト系は喜んで一万円は貰いつつも、ニヒリストなのか、ああ、お金をドブに捨てたね、という表情の苦笑い。
とにかく、若返りの薬を売っている薬局の所在地は分かった。
それからの行動は早かった。都内に在る出版社から最速ルートで薬局へと向かう。その道すがら、若返りの薬が本物だとして、果たして、それは、いくらするのか。曲がりなりにも若返りの薬であるから法外な値段ではないのかと不安になった。
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