Quartet
シンカー・ワン
手編みのプレゼント
あたしの愛すべき友人
同学年であるくらいの接点しかなかったはずのふたりがそういう間柄になったのは、夏休みに起きたある出来事に
交際宣言後にコッソリあらましを教えてはもらったが、なるほどそれならばと納得できる一方でどうしてあんな野郎と、って気持ちが相反したままだ。
芳野はポッチャリ体形に似つかわしい母性に溢れてて気立ても良い、万人が好ましいと感じるだろう娘である。
対して木庭兵衛。目つきの悪さと口より先に手が出る思慮の浅さが目立つ、良く言えば孤高悪く言や協調性のない、ひとふた昔前の少年漫画の番長かぶれの時代錯誤野郎。
相手は選ぶべき。アンタには相応しいもっといい男がいるはずと幾度も忠告をしたのだが、「それって具体的にどんな人?」と返され答えることが出来ず、「りっちゃんが言う子供っぽい兵衛くんだから、私みたいなのが合うんだよ」と逆に説き伏せられてしまう始末。
言い負かされた視線で並ぶふたりを見れば、悔しいかな芳野の言ってる通りだと
歳に似合わぬ包容力のある芳野とガキっぽさを引きずったままの木庭兵衛。互いが必要としているものを補い合う、ある種理想ともいえる組み合わせ。
口を挿む方が野暮と言われても仕方ない。
冬の足音が近づく中、休み時間の教室で編み物に勤しむ芳野。もちろん木庭兵衛への贈り物、完成も間近だ。
「……今時手編みなんて、重たくない?」
今だ心の隅にこびりつく不満感から出た棘ある言葉に、
「そういうの、兵衛くんは気にしないよ。――りっちゃん風に言えば価値観が古臭いからね」
手を止めず笑みを浮かべて答える芳野。笑顔の裏に彼氏を貶めるようなことを言ったあたしへの意趣返しを忍ばせる。
芳野は優しいだけ言われるままの少女ではなく、理不尽には屹然とした態度で返す。母性の裏打ちは強さであることを体現した存在でもあるのだ。
頭でっかちで
「……りっちゃんもいい人が出来たらわかるし、変われるよ」
手元に視線を落としてから、さらりとあたしの内心を見抜いたように言う。
「あたしは――いいよ」
「変わりたくない? ううん、変わるのが怖い?」
興味はないと返したあたしを芳野は容赦なくえぐってくる。
「――あ、」
「おこちゃまだね」
言い返すべく口を開こうとするも、そんな間も与えずえげつなく突き刺してくる芳野。
言葉を継げずにいるあたしへとゆっくり視線を向け、
「兵衛くんもわたしも、もう
そう言って微笑んだ顔は、ゾクッとするくらいに
告げられた言葉の意味が解らないほど
秋の声を聴いた辺りから芳野の醸し出す雰囲気が変わったのは、気持ちだけではなく身体も交し合ったから――つまりふたりはそういう仲。
なんてことはない。お子様だと下に見ていた木庭兵衛の方が、あたしよりも圧倒的に大人であったのだ。
肉体での交わりどころか恋愛の経験すらないあたしに何も返す術はなく、ただ心の中で白旗をあげるだけ。
「わたし、りっちゃんも兵衛くんも大切だから、ふたりには仲良くしてほしいんだよね」
一瞬放った女の凄味はどこへやらと言った感じで飄々と告げる芳野。
届かないほど先へと歩みを進めていた友人のお願いに、
「……努力は、する」
としか答えることのできないあたしであった。
「ん、なら良し」
望んでいた言葉を聞いたからか、年相応なニコニコ顔で手を動かす芳野。
「兵衛くんのもうすぐだから、次はりっちゃんの作るからね~」
純粋な好意のみで告げられたその言葉に、
「……あいつとお揃いはさすがに
精一杯の強気で返すと、
「ふふーん、どうしょっかなぁ?」
意地悪げに笑む芳野。あ、愉しんでいるなこいつ。
どっかのちょび髭さんのようにチキショーメと思いながら、
「勘弁してよ……」
と、力なく言うあたし。芳野は何か満足げに笑ってた。
冬休み直前に贈られたマフラーは、幸いなことに色柄ともに木庭兵衛とは異なるものだった。
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