第20話:ホープを救え
「ディア、ディア!! 起きるんだ!」
ディアは少々乱暴に揺らされ、目が覚める。何事かと眉を顰めたが、クリスの表情から現状が非常事態であることを悟り、飛び起きた。
「クリス様!? 一体何が起こりましたの!?」
「魔物だ! 突然、沢山の魔物が村に襲撃してきて……!! ジークがこの家を中心に結界魔法をかけてくれている。村の女性や子供は一階に避難しているよ」
道理で部屋の外が騒がしいわけだ。これはディア一人でこの寝室を独占している場合ではない。ディアはすぐに窓から外の様子を伺う。
クリスの言う通り、ダンの家には結界が張られており、結界の外でジークが魔物達を戦っていた。彼の他にもダンを中心としたキタス村自衛団の姿も確認できた。
彼らと戦っている魔物の目はどれも赤く輝いており、不気味だ。ゾクリ、と悪寒がした。
「大変だわ。加勢……! そうだ、加勢しなければ!」
「待つんだ、ディア! 僕らはここに残ろう。ジークからの指示だ。実戦経験に乏しい僕らは足手まといになってしまうかもしれない」
──『もう少し先を想像して行動してください』
ディアはジークの言葉を思い出し、唇を噛んだ。
「君の気持ちは分かる。僕だって同じ気持ちだ。でも、今の僕らにできることが全くないわけではないよ。避難している人達を安心させて、この結界から出さないように注意しよう」
「分かりましたわ」
クリスとディアは一階へ降り、避難してきた村人達に声を掛けていく。ダンがディア達の存在を村中に知らせておいてくれたのだろう、村人達はディアとクリスを見て驚く様子はない。
その中の幼い少年がディアのドレスの裾をそっと握った。
「でぃあ様! でぃあ様は、たての魔法をつかえるって、ほんとう?」
「えぇ、本当よ。だからもしもの時は私の盾で皆を護るわね」
小さな身体は震えていた。ディアは優しく少年を抱きしめる。背中をとんとんと撫でると、少年の顔が少しだけ柔らかく綻ぶ。
すると少年は、ディアに何かいいたげに目を泳がせていた。目線を合わせ、優しく「どうしたの?」と尋ねる。彼は、どういうわけか、その大きな瞳に涙をためていた。
「おねがい、でぃあ様! ホープを助けてあげて!」
ディアはハッとする。そういえば、家の外にも内にもホープの姿がないことに気づいたからだ。
「ホープがどこにいるか知ってるの?」
「ううん、今は分かんない。こわい魔物からにげるのに必死だったの。でも、僕、見たんだ! ホープが、怖い顔をした
「そう。ホープが、ニコルに……」
ディアはもう一度外を見る。
(魔物の様子がおかしい。そういえば、ゲームでは闇魔法の使い手であるジンによって魔物の目が赤くなり、狂暴になる場面があった。と、いうことは……)
あのニコルが近くにいるのは本当のようだ。そして彼女は今、村を襲い、ホープも殺そうとしている。
先日のニコルの様子を考えれば、彼女は闇魔法を使いこなしている。ホープが危ない。
「ディア?」
「クリス様」
クリスが心配そうにこちらを見る。その瞳に、動揺している自分の顔が映っていた。
(どうし、よう……)
その疑問の直後、脳裏に浮かんだのは──ホープの死亡スチルだ。
「……クリス様。村の人たちを、お願いします」
「どうしたんだい? 何かあったのかい?」
「愚かな婚約者で申し訳ございません。こんな自分勝手な女は貴方の婚約者失格ですわね。……婚約破棄、なさってもかまいません」
「何を、言ってるんだい?」
こちらに手を伸ばすクリス。ディアはそっとその手を避けた。
「……本当に、ごめんなさい」
その瞬間、ディアはダンの家を飛び出した。背後からクリスの声が聞こえたが、振り向かなかった。
自分勝手なことは重々承知。愚かな行動なのも自覚している。
だが、それでも──
(今のニコルが
他にも方法はあるのだろうか。村人を守りながら、ホープを救える方法が。分からない。ただ突っ走ることしか思いつかない。
自衛団と魔物達の戦場の中、ディアはとにかく森へ走った。
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