第16話 最高のホプクリの導入

「あの、ニコルとは?」


 クリスが尋ねる。ディアは事情を既に知っているため、下手に口が動かなかった。ダンが答える。


「……あぁ、ニコルってのはホープの幼馴染です。両親が魔物に殺されちまって、俺が一応保護者として一緒に暮らしてたんですが……丁度一年前くらいに、そのニコルが行方不明になっちまったんです。捜索依頼は出してはいるのですが連絡はなく、」

「──っ、」


 ホープは途端に走り出し、森へ去っていった。その後ろ姿に、ダンはため息を吐く。


「ニコルが消えた途端、ホープのやつ、あんな風になっちまって……。あいつ、森で毎日魔物を狩っているようで、傷だらけなんです。俺は父親としてあいつに何をしてあげればいいのか分からないんですよ……」

「……、」

「あぁ、申し訳ない。俺の愚痴なんざ忘れてくだせぇ。魔物調査はお好きにどうぞ。とはいってもホープのヤツが周辺の魔物を狩ってるんで、見つけにくいかもしれませんがね。よかったら俺の家を拠点に使ってください。部屋は空いているので」

「それは助かります。後ほど、城からお礼を贈らせていただきますね」


 そんなダンとジークのやり取りを背に、ディアはホープの後ろ姿から目が離せないでいた。


「あの、ダンさん。先程ホープは魔物を狩っていると言いましたが、彼はどんな魔法を授かったのですか?」


 ディアはダンに確認をする。ゲームの彼は風魔法を宿していたが、それ通りになっているのだろうか。

 すると、ダンが眉を下げ、笑った。


「いやいや、ディア様。ホープは。平民が魔法を授かる可能性が低いのは知っているでしょう。俺の先祖や亡くなった妻が魔法を宿しているなんてのも聞いてねぇしな」

「えぇ!? じゃあ、王国一の騎士になるというホープの夢は!!」


 思わず、口が滑ってしまう。ディアは慌てて口を閉じた。


 ゲームのホープはディアの言う通り、「王国一の騎士になる」という夢があった。その夢を叶えるという強い意志こそが、ホープに風魔法を宿したのだ。


 だが、元々騎士に憧れてはいたものの、彼の夢のきっかけはニコルだった。

 ニコルの両親が亡くなった時、号泣するニコルを抱きしめて、「国で一番強くなってニコルを守る」という思いから彼の夢が始まったのだ。


(きっと、ニコルが行方不明になってその意思に迷いが生じた。だからホープは風魔法を宿さなかったんだわ……。あぁ、私の馬鹿! ダンさんに怪しまれてるじゃない!)


 ダンは怪訝な表情を浮かべる。


「たしかにそれはホープの夢ですが……あいつが話したんですかい?」

「い、いえ。か、勘ですわ。おほほ」

「はぁ。まっ! 魔法なんてものを授かっていれば、そりゃ可能性があったかもしれませんがね。今のあいつに王国一の騎士なんて夢のまた夢ですよ」


 そう言って、冗談のように彼は笑った。

 ディアはぎゅっと拳を握り締める。ホープの夢を、父親であるダンに笑ってほしくなくて、思わず声に力が入ってしまった。


「ホープは、王国一の騎士になれますわ!」

「えっ?」

「ホープは、十数年後にエーデルシュタイン王国騎士団長になって、この国の未来に欠かせない人物になります!!」


 その時のディアの迫力に、ダンは後ずさる。


「おおぅ!? ど、どうしたんですかい、ディア様。そんな、まるで未来を見てきたかのようにはっきりとおっしゃいますが、」


 分かるわよ、とディアは心の中で呟いた。


(そりゃあ、分かるわよ。ホープルートのエンディングにて、彼がそうなったのを見たんだから! そうしてニコルと二人で弱者を助け、国を支える英雄になっていくのよ……)


 だが、それを素直に言えるはずもなく。わだかまりを感じながら、ぐっと気持ちを抑える。


「……予感です。私、人を見る目には自信があるのです! と、とにかくホープは将来この国に必要な戦士になるはずです。彼の現状をなんとかしなければ……」


 すると、ディアはクリスと目が合う。ディアの脳内には薔薇の園が広がった。

 閃いたのである。最高のホプクリの導入を。


「クリス様!」

「え!?」


 突然、ディアに手を握られて動揺するクリス。その頬が桃色に染まる。


「ホープをクリス様の親衛隊に加入させることは可能ですか!?」

「え、えぇ!? えっと、彼が数多の魔物を狩っているのが本当なら実力はあるみたいだけど、急には無理かな。それなりの実績がないと、入団試験も受けれるかどうか……」


 そこで、ディアは思いだした。

 ホープルートのエンディングにて、「ホープが騎士団に入団できたのは、エーデルシュタイン魔法学園の推薦があったから」だと説明されていたことを。

 しかし、魔法を宿していないホープはそもそも魔法学園に入学できない。


 それならば──


「では、私の護衛騎士としてホープが実績を積めば、親衛隊に加入できますか!?」

「そうだね。ヴィエルジュ家の推薦状と王国騎士団の養成所での、ある程度優秀な成績があれば可能だとは思うけれど」

「なるほど、分かりましたわ」


 元気よく返事をするディア。

 その脳内では綺麗な薔薇の花が咲き乱れ、ディアはその中心でくるくると踊り狂っていた。


(ホープを私の護衛騎士にして実績を積む→ホープがクリス様の親衛隊に加入する→クリス様の魅力でホープはクリス様を護りたいと強く願う→ホプクリ万歳! うん、我ながら完璧な作戦ね! それにホープにクリス様を守ってもらえば、クリス様の安全もより強固なものになるでしょうし……!)


 その後、ひとまずダンの家で世話になるディア一行。

 隙間時間を利用して、さっそくディアはホープに会いに行くのだった。

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