第8話変化

厨房に行くとボムさんが今か今かと行ったり来たりしながら待っていた。

そして私を見るなり駆け寄ってくる。


「マリル!どうだった!」


私は笑顔で綺麗に空になった食器を見せた。


「やったー!」


ボムさんは嬉しそうに拳を握った。


「坊っちゃまが俺の飯を美味しく食べてくれたんだな!」


「はい!これからもよろしくお願いします。これ今後使って欲しい食材のメモです」


私はグランドさんの部屋からメモ用紙をもらって食材を書いておいた。


「んー里芋とかトマト、ほうれん草なんかもダメなんか…あとは甘いもんも良くないんだな」


「はい、あんまり脂分がある物は基本やめた方がいいです。あとは大豆とかはたくさん使って下さい」


「ならあれがいいかな…あとはあれとあれを組み合わせて…」


ボムさんは頭の中でレシピを考えているようで私の存在など忘れたように真剣な顔で厨房へと戻ってしまった。


食事は大丈夫そうだからあとは…


私は再びグランドさんの部屋を訪れると必要な物と坊っちゃまの事で話がしたい事を書き込んだ。


洗濯を終えると坊っちゃまの部屋に戻り、大きめのタオルを取り出した。


「坊っちゃま、汗をかいたらすぐに拭き取りますので言ってください、あとはこまめに体を拭いて清潔にします」


「拭くのか?風呂では無くて?」


「お風呂もいいですが血行が良くなりすぎて体が痒くなりますからお風呂は一回で、その代わり朝と昼とタオルで体を拭きましょう」


私は坊っちゃまの服を脱がすと背中や腕体を拭いた。


「えっと…前はどうしますか?」


私はズボンをじっと見つめた。


「こ、ここは自分でやる!」


坊っちゃまはタオルとひったくると顔を赤くする。


「では私はグランドさんに話してきますね。グランドさんはこのこと知ってるんですよね?」


「ああ、グランドとマリエルは唯一俺の事を怖がらずに世話を今でもしてくれる人だ…」


坊っちゃまは小さい声で答えた。


「マリエルさんはまだ会って無いんですよね。色々話を聞きたいです」


私は坊っちゃまが体を拭く間後ろを向いて待っていた。


「終わった」


「はい」


坊っちゃまからタオルを受け取ろうとするが坊っちゃまが嫌そうにする。


「どうしました?」


タオルを渡してくれない坊っちゃまに首を傾げた。


「その…皮膚が…取れて…」


見るとタオルに茶色い皮膚が細かくついていた。


「良かったですね!古い皮膚が取れましたから次は綺麗な皮膚が出てきますよ」


私はタオルを受け取り大丈夫だと笑顔を見せる。


「坊っちゃま、皮膚くらいなんですか?赤ちゃんなんで排泄物を流すんですよ。それに比べたら綺麗なものです!それよりも拭いた体を乾燥させておいて下さいね!」


私は涼しい風が吹くところに椅子を移動させようとしたが重くて無理だった…忘れていたが坊っちゃまと同じくらいの小さな体は出来ることも限られる。


「僕も手伝う」


すると坊っちゃまが見かねて手伝ってくれる。


「ありがとうございます」


坊っちゃまにお礼を言うと長い髪の間から坊っちゃまの優しそうな瞳が見えた。


ドキッ!


坊っちゃま、今は嫌で髪を長くして顔を隠しているが…見目はかなりいいのでは?


私はそんな事を考えながら椅子を動かした。


坊っちゃまを椅子に座らせると私はタオルを洗って干してからグランドさんの部屋へと向かった。


先程はいなかったが今はいるようで中へ入るように促される。


「坊っちゃまが…姿を見せたとは本当か?」


グランドさんは部屋に入るなり声を大きくした。


「は、はい…」


「どうやって!それに食事の変更や家具の配置などどういうことだ!」


「えっと…坊っちゃまのあの姿は皮膚の病気です。あれば清潔にして薬を塗り食事など気をつければ今よりは良くなります」


「なぜお前みたいな子供が知っている!それにその歳で字をかけるのか?」


グランドさんはメモ用紙をみて怪訝な顔で私を見つめた。


「あっ…」


またやってしまった。


年相応の対応をと思っていたのに坊っちゃまの病気を治したくて忘れていた。


「あの…その…ラジェット先生に…」


どう言い訳しようかと思っているとバタン!と扉が勢い良く開いた。


「グランドさん大変!坊っちゃまが!」


入ってきたのは年配の女性で驚いた顔でグランドさんを呼び出す。


「坊っちゃま!」


女性の様子にグランドさんは慌てて部屋を飛び出した!


坊っちゃまに何かあったんだ!


私も慌てて二人の後を追った。


「坊っちゃま!大丈夫ですか!」


グランドさんが部屋に飛び込むと坊っちゃまは普通に椅子の上でうたた寝していた。


「んー、あーグランド…どうした?」


坊っちゃまは寝ぼけているのかふわふわとした様子でグランドさんの名前を呼んだ。


「アーロン様…」


グランドさんはよろよろと坊っちゃまに近づくとその姿をギュッと抱きしめた。


「え!?あっ!グランドなんだ!」


坊っちゃまは驚いた様子でグランドさんに抱きつかれドギマギしていた。


「坊っちゃま…」


すると後ろにいた女性もグランドさんの上から同じように坊っちゃまを抱きしめる。


「マリエルまでなんだ!?どうした」


坊っちゃまは二人に抱きつかれてアワアワと慌てていた。


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