第7話食事革命
「坊っちゃま、落ち着いて聞いてください。これは呪いなんかじゃありません」
「じゃあなんだ!医者に見せたが治らなかった」
そりゃそうだ…こんな生活をしてたら治るものも治らない。
「坊っちゃま、私も昔坊っちゃまと同じような症状だった時がありました。突然の痒みに我慢できなくなって気がつけば掻きむしってしまう…でも掻けばあとから痛みがきてもっと酷くなる…」
私の言葉に坊っちゃまはピクっと反応した。
「特に腕や足の関節部分など皮膚が柔らかい場所が酷く、頭にも広がる。皮膚をかくと白粉が吹いてしまう」
「な、なんでそれを…」
「私もそうでした」
「でも…今は」
坊っちゃまはたまらずにシーツの隙間から私の顔をみた。
まぁ確かに今の体はアトピーはないが昔の記憶で知っていた。
子供の頃は皮膚が弱い事もあり、不潔にしていると余計悪くなったものだ。
でも大きくなるに連れて良くなる事もある。
私も成長と共にすっかりアトピーは無くなった記憶があった。
「坊っちゃま大丈夫です、今より絶対に良くなります。でもその代わり私の言うことを聞いて下さい」
「ほ、本当に治る?」
「すみません…絶対に治るとは言えませんが今より良くなることは間違いないです!」
坊っちゃまは私の言葉にまたチラッとシーツから顔を少し出した。
その姿は髪は伸び放題で前髪も長く顔を隠している。
その隙間からみえる肌はやはり荒れていて、酷いところは紫色になっているのがうかがえた。
でもそんなのアトピーなら当然だ。
しかし知らない人から見たら坊っちゃまに恐怖を抱くのも分からなくはない。
知らないとは恐ろしいのだ。
私はそんな扱いを受けてきたからこそ今の怯えがあるのだと理解した。
決して顔にはださずにじっと坊っちゃまを見つめる。
「ほら大丈夫でしょ?」
私はニコッと坊っちゃまに笑いかける。
「な、何が?」
「坊っちゃまを見ても叫ばないし驚かないし…まだ坊っちゃまのお世話をしたいと思ってますよ」
私は坊っちゃまの手を優しく包み込んだ。
私より一つ大きいのに同じくらいのその小さな手はきっと今までずっと不安を抱えていたのだろう。
坊っちゃまの手がフルフルと小刻みに震えている。
「大丈夫です。私はマリル、アーロン坊っちゃまのお世話係です。絶対に坊っちゃまを健康にしてみせます!」
また泣き出した坊っちゃまの体を今度はシーツ越しではなく直接に包み込んだ。
「おはようございます!」
「閉めろ!」
「ダメです!こんな暗い部屋では治るものもなりません!」
私は坊っちゃまとの朝のやり取りを無視してをカーテンを全開に開いた。
「ま、眩しい…」
坊っちゃまは相変わらずシーツにくるまって全身を隠している。
まぁ今までそうやって隠れてきたからいきなり生活を変えるのは難しいだろう。
でも…私は心を鬼にしてシーツを剥ぎ取った!
「坊っちゃま、シーツにくるまっていたら余計悪くなります。皮膚はなるべく出して風通し良くしてください」
坊っちゃまはシーツを無くして不安そうにカタカタと震えていた。
「無、無理!隠さなきゃ…」
何か包まれる物は無いかと部屋の中をうろつく。
でも私は包まれそうなものは全てしまっていた。
「坊っちゃま、今は私だけです。それにここには誰も来ないでしょ?」
「そうだけど…」
「私は坊っちゃまの姿を気にしません、だからゆっくりと窓辺で座っててください。ベッドを綺麗にしたらまた寝転がっていいですからね」
「わかった」
坊っちゃまは小さく膝を抱えて丸くなると椅子に深く腰掛けた。
窓には目隠しがあるので外から見られる事もない。
少し風に当たってくれてればいいなと私は坊っちゃまの方は見ないようにして部屋に掃除に取り掛かった。
そして次は食事!
あんな偏食はアトピーだけでなく健康にも良くない。
そのせいか分からないが坊っちゃまは痩せてて年齢の割に小さく見えた。
「まずは健康的な食事です!アトピーにいい食材とかもありますから今日から残さず食べてください」
私はボムさんに相談して作ってもらった食事を坊っちゃまに出した。
「げー、なんか変な色のスープだな」
にんじんやかぼちゃ、れんこんのスープを見て顔を顰めた。
「アトピーにいい食材ですよ!良くなりたいんですよね?」
「うっ…わかった。その代わり治らなかったらお前はクビだからな!」
「はいはい、わかりました」
私は早く食べろと促すと坊っちゃまは嫌そうにスプーンで救って一口飲んだ。
「ん、美味い…」
坊っちゃまは美味しさに驚いた声を上げる。
「ですよね!ボムさんの食事は美味しいですよ!それに魚に肉もありますよ」
魚は青魚をソテーにしてもらい、肉は赤身を使うように頼んでおいた。
「ん、食べれる」
坊っちゃまは満足そうに食事を平らげた。
私が食器を片付ける為に部屋を出ようとすると坊っちゃまはやっぱり隠すものが欲しいと頼み込んできた。
なので服の中で一番通気性が良さそうな物を見繕い坊っちゃまに渡す。
「いいですか、私が来るまで絶対に皮膚をかかないでください。もしかきたくなったらこう叩いて誤魔化して下さい」
そう言って自分の腕をパンパンと叩いて見せた。
「こうか」
坊っちゃまは痒かった場所をパンパンと叩く。
「おっ!これなら少し我慢できそうだ」
「でもやりすぎは良くないですから最終手段ですよ」
「わかった」
坊っちゃまは大人しく頷くと部屋に戻り鍵をかけた。
やはり誰か来たら怖いので鍵をかけることにしたらしい。
私は鍵をかける音を聞いてから厨房に向かった。
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