非日常〜朝〜

第23話

 俺が記憶喪失になった年、小学四年生の俺はイライラを抱えていた。弟の壮大朗が小学校に上がって生意気になった事。妹の飛兎恵が産まれた事。それで父さんと母さんが忙しくなった事。全てが当時の俺にとっては不機嫌の種になっていた。飛兎恵は毎日大声で泣き続け、父さんがあやしても母さんがあやしても泣き止まない。そんな時に、壮大朗は今日のおかずは嫌いだの食べさせてくれなきゃ食べないだの言って、飯に手を付けず遊び始める。そんな様子を見てると、俺まで食欲が失せてくるんだ。夕飯のおかずを見つめて俺は溜息を吐く。だが、俺のイライラはそれだけじゃない。今も俺の隣で涼しい顔して静かに飯を食う綺麗な顔、俺の一番の悩みの種であるワタルだ。小学一年生の頃から続く俺とワタルとフウの三人の友情は、その時も続いていた。だけどその頃辺りから俺はフウに対して家族に向けるのと違う感情を抱いていた。今思えばこれは恋、しかも初恋だったと言える。でも当時はそんな名前が付く事を知らず、フウの事を考えただけでワクワクして、なのにフウの側にいると心臓がバクバク煩くて苦しくて仕方なかった。もっとフウと喋りたい。遊びたい。いや、ただフウと二人でいれればそれで良かった。それを邪魔するのがワタルだった。俺がフウと二人で話したくても必ずワタルが話に混ざってくるのだ。またはフウがワタルを連れて来てしまうのだ。そりゃそうだ。俺達はいつも三人一緒だった。俺ばかりがフウに対して恋心を抱いていて、それを明かした訳ではない。だから二人はいつも通りに過ごしていただけだ。なのに、俺ばかりが一人イライラしていたのだ。だから当時の俺は、学校では好きな子と二人きりになれないイライラを抱え、家に帰っても心が休まらず、しかも昼間のイライラの元凶はずっと一緒にいる。

 日々が上手くいかない鬱憤が溜まっていたと言う自覚がある。今でも俺はその鬱憤が弾けたせいで、脳味噌が少し吹っ飛んだんじゃないかと思っている。脳味噌が吹っ飛んだ影響で俺は気絶して、その時失った脳味噌の分記憶が無くなってしまったんだろう。

 そして今、俺の脳味噌はまた何かの影響で吹っ飛んだのでは無いだろうか? 今度は記憶喪失じゃなくて記憶が混濁してるんだ。そうじゃ無ければ訳もなく突然死んであの世でアロハ姿の五道転輪王と生き返る約束をする、なんて荒唐無稽な事起こる訳が無い。だからこれは全部夢なんじゃないだろうか。きっと目が覚めたら公園のベンチででも寝てるんじゃ……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る