ユー×イケ〜ユーレイくんとイケメンくん

晴川祈凜

プロローグ

第1話

『えー、皆さんにお尋ねします。人は死んだら何処へ行くのでしょうか。では、今日は五月九日なので……五十九番の永井さん、永井裕貴さん答えてください。……んー、大きな声でもう一度言ってください。はい、そうですね、天国ですね。他には……六十番の新里さん、新里……名前の読みはマナでいいですか? はい、では新里愛菜さん答えてください。はい、地獄ですね。お二人共ありがとうございます。天国と地獄、皆さんもこの二つは直ぐに思い浮かぶかと思います。では仏教に於いての天国と地獄とはどう言ったものか、今から見ていこうと思います。先ず……』

 

 はぁ、マジで眠い。外は春のポカポカ陽気に、時たま涼しい風が吹いていて絶好の昼寝日和だ。座席が雛壇状になっている広い教室の窓からだと、吹き込む風がほんのり温かいように感じる。とは言え、右と後ろの壁に等間隔に並んでいる窓の半分ははめ込み式で、もう半分は上げ下げ式だ。これじゃ大した風量は入ってこない。昼休みに購買部に寄った時なんか、あったかい風が体を包み込むようで、あまりの気持ちよさにこのまま帰って自分の布団に潜り込みたいと何度思った事だろう。と言うか、記憶にあるだけで三回はそれを口に出して言っていたと思う。その時に同行人に賛成されていたら確実に帰っていたのに……俺は隣に座る横顔を睨め付けた。真剣に講義を聞くその横顔は恐ろしい程に整っている。形の良い唇やスッキリとした額、深い黒の瞳は光を受けると青く見える。だが、なんと言っても美しいのはその鼻だ。日本人離れした高さなのに顔に占める割合は小さめで小鼻も小さい。現実に隣に居るはずなのに、まるでアニメや漫画を見ているようだ。綺麗過ぎて稀に物凄く人間に近い精巧な人形を見ているような恐怖に襲われる事もある。それ程に現実感の無い顔をしていた。それに比べると、目が小さくて潰れたような鼻をしている俺の顔はまるで子供の落書きだ。または左手で描いた絵とも言える。でも普通はそんなもんだろ? 俺が不細工なんじゃなくて、コイツが綺麗過ぎるんだ。

 あまりにもマジマジと見つめていたせいか、ソイツが小さく顔を動かしてこちらに視線を投げる。バッチリ目が合うと俺は欠伸をする振りをして眠いと訴えた。すると、小さな苦笑と共に前を見ろと指で指し示された。やっぱりとんでもなく綺麗な顔だ。まったく、まじまじ見ていると、ちょっとムカついてくる。こう言うイケメンが世にいるから俺等凡人は苦労するんだ。俺はハイハイと適当に頷くと、そのまま両腕を枕に夢の世界へと入っていった。

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