献身的な冷酷人
ゆうさん
第1話 喪失と略奪
梅雨入って紫陽花が咲き誇り、連日雨が降り続けていたある日。俺は最愛の妻を失った。
幼いころからずっと一緒で当たり前のように隣にいた妻が突然いなくなり、大きな喪失感に襲われていた。妻の葬儀中も妻との思い出や笑顔ばかりを思い出して、妻を失った現実を受け入れたくない自分がいた。そんな中、妻の妹の
「あの・・その・・大丈夫ですか?」
「大丈夫・・・ではないかな。ごめん今は立ち直れそうにないや。」
「そうですよね。小さい頃からずっとお姉ちゃんと一緒にいましたもんね。悲しくないって方がおかしいですよね。」
「ごめんね。こんなおじさんのマイナス発言につき合わせちゃって。妻のためにも立ち直らなくちゃいけにっていうのはわかってるんだけど・・・どうしてもね。」
いつまでも落ち込んではいられないことは頭ではわかっていた。だが、どうしても前を向く勇気より失った悲しさが勝ってしまい蹲ることしかできなかった。
突然、陽花ちゃんが俺に抱き着いてきた。
「陽花ちゃん・・。」
「長年一緒だった大事な人を失ったんです。無理に前を向く必要はないんですよ。私たちみたいに悲しみを共有できる人たちと一緒にゆっくり前を向いていけばいいんですよ。」
「陽花ちゃんありがとう。」
陽花ちゃんの温かい言葉に年に似合わず大泣きしてしまった。年下の女の子に慰められて情けないと感じつつも前を向く機会を与えてもらって陽花ちゃんには感謝してもしきれない。
「いいんです。いいんですよ。だって・・・。」
「これで長年欲しいものが手に入るんですから。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます