余命1064文字

🐾ᵕ̈

熱風

 ねえ、君。話し相手になって。


 うん、ありがとう。狭くてごめんね。

 突然だけど、私はもうすぐ死ぬんだ。だから最期に、と思ってね。

 

 ……君は何のために生きているの?

 私には生きる理由が無くてさ。あ、死にたいって思ってる訳じゃないよ。ただ、ふと思い返してみれば、私は自分自身で生きる意味や理由を決めた覚えが無いなと思って。ただ本能のままに生きてる……って感じ? 私だって生きる理由ってやつを探したいんだ。

 もうすぐ死ぬのに、生きる理由を探してるなんて。でも、もうすぐ死ぬからこそ探したいんだ。変な話。

 だから、君の生きる理由を聞かせてほしい。


 ……ふうん。

 私とはまるで人生観が違うな。でも、それもまたこの世界の面白さの一つなんだろうね。

 ねえ、もう少し付き合ってよ。

 

 私は誰かに望まれて生まれた。でも、私は利用されるために生まれたんだ。そんなの生きる意味でもなんでもなかった。

 君はどう思う? 自分の生を望む人がいるという事は、自分自身が生きる理由になりうるかな。

 幼い私に、そんな事を考える事なんてできなかった。でも、ずっと心に虚しさがあったんだ。未来の事を考えると怖くて仕方がなかった。

 死ぬのが怖かった。

 でもね、この怖いって感情も、もうすぐ死ぬという運命も、誰かが定めたものなんだ。用意された型にはまって型通りに死ぬ。それしか道が無いんだ。

 でも君は違うだろ?

 やろうと思えば、自分の意思で未来を決められる。嫌な事や怖い事から逃げられる。楽しい事を誰かと共有できるし、誰かを愛することもできる。……大人にだってなれる。君は君の未来を自分で作り、手に入れるべきだ。

 ……偉そうな事言ってごめん。

 私も君も、ちっぽけな存在だ。でも、君は自分の未来を作れる。……私は君に偉そうに講釈を垂れられる。これで良いのかな、なんて思ったり。


 ……でも正直思っちゃう。私が大人になった姿を君に見せることができたら良かったのにって。真っ白なドレスを着て、青くて広い空の下、両手を広げて君の所に行きたい。抱き締めることはできなくても、君の肌にそっと触れるだけでいい。君は嫌がるだろうね。

 私はこの世界に何も残せていない。いや、物理的には物を残したよ。それはきっと誰かの役に立ってる。でもそれは私のやりたかった事じゃない。

 それでも、運命には抗えない。……ごめん、暗い話しかできなくて。何せ俗世とはかけ離れた生まれでね。許してよ。


 火が回ってきたね。

 本当はね、一人で死ぬの、怖かったんだ。適当なこと言ってごめん。

 ありがとう、君のおかげで勇気を持てたよ。

 さあ、火と熱風で出られなくなってしまう前に。

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