百獣の王と召使い

十余一

01 王の勝利

 レオは百獣の王だ。

 金色こんじきのたてがみを風になびかせ、ライムグリーンの瞳が万物を鋭くつらぬく。その威厳に満ちた姿を前にして、全ての生き物は平伏さずにいられないであろう。


 王には、身の回りの世話をする召使いがいた。毎日欠かさず上等な食事を用意し、労を惜しまず衛生環境を整える。一声呼べば必ず駆けつけるが、必要以上に干渉することはない。王もその従順さと有能さに満足していた。

 しかし、心の底から忠誠を誓っているのだろうか。日々の鍛錬で手心を加えられた試しはない。それどころか七日に一度、攻勢が激しさを増す。まさか反逆心を秘めているのではあるまいな。

 この国を統べる王にふさわしいのは誰か。それを理解わからせてやらねばならぬ、と王は考えた。


 とある日の午後、王は塔の頂上から国中に睨みを利かせていた。豪勢な寝床、爪をぐための玉座、午睡する麗らかな陽だまり、務めを果たす召使いのかたわら、それらも良い。が、王はこの見晴らしの良い塔を大層好んでいた。

 鍛錬の時間になり、召使いが地上から王の名を呼ぶ。

「いいだろう。相手になってやる!」

 そう言うと、レオは軽やかに地に降り立った。


 召使いは狂暴な海の怪物を召喚する。赤い鎧を身につけ、一対の大きなハサミを持つ怪物だ。黒々とした恐ろしい目が向けられるが、王はこの程度では怯まない。まるで挑発するかのように目の前で揺れる獲物を前に、猛獣の血が騒ぐ。


 飛び跳ねるように動く怪物も、王にとっては呆れかえるほどに愚鈍だ。鋭い殴打を浴びせ、沈んだところにすかさず牙を突きたてた。それだけでは終わらない。抱えこみ、幾度となく蹴りを叩きこむ。こうなってしまえばもう、赤い怪物に成す術はない。

「オレの勝ちだ。力の差を思い知ったか」

 敗北した召使いは地に伏し、こちらを見上げうめいていた。勝利の証として容赦なく踏みつける。召使いはたまらず悲鳴を上げた。


 これにりたのならば、明日からも従順に仕えることだ。


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