第6話 スーパー×説教×タイム

 フロスヴィンダが続ける。


「私たちの星には、こんな言葉があります。『本当の過ちは、やり直す機会を与えないことだ』、と。どうか、この星の慣例を尊重してはいただけませんか、クロウさん」


 フロスヴィンダが、深々と頭を下げた。


 いやー、そこまでされちゃったら仕方ないなぁ!

 かーっ、本当は敵に塩を送る様な真似、ダークヒーローの俺に許されるわけないんだけどなー。

 フロスヴィンダのお願いとあっちゃなー。


「【解】」


 その一文字で、ルーン核にシロウを閉じ込めたルーン魔法の効果を解除する。

  ウィルドのルーン核が砕けて、そこからシロウが現れる。


(一つの肉体に複数のルーン核を埋め込むと精神崩壊がどうとか言ってたけど)


 そこまでは面倒見切れない。

 シロウが無事であることを祈ろう。


 フロスヴィンダは瞳に涙を溜めて、声を震わせながら「ありがとうございます」と、頭を下げて繰り返した。


「シロウ!」


 ナッツが再会を喜ぶように、復活したシロウに抱き着いた。


 ササリスがぽんと手を打って、「師匠!」と俺にしがみつこうとするので、クロスカウンターで迎え撃った。

 ササリスは昂奮した猫のように奇声を上げて不平不満を散らしている。


「シロウ、よかった、無事で」

「ナッツ……俺は、俺は」


 シロウの思考が漫然としていたのは、意識を取り戻してから指を折り曲げる間くらいのこと。

 突然、意識が目覚めたようにハッとしたシロウの顔がみるみるうちに青ざめて、体が小刻みに震えている。


(おー、無事だったか)


 よかったよかった。なんだかんだ主人公補正あるもんな。そりゃ無事だよな。


「違うんだ、俺は、ナッツとラーミアを、助けたくて」

「わかってる、わかってるから」


 おびえるシロウを、ナッツが優しく、いまそこにいることを肯定する。


「クロウ……」


 俺に気付いたシロウが何かを口にしようとして、口を開いて、けれど言葉が見つからないといった様子で再び閉口する。


 たっぷり考えて、シロウが形にした言葉は、

「すまなかった、助かった」

 だった。


(こいつ、反省してないな?)


 そうとう精神が参っていそうだからと優しくしてやっていたが、もう立ち直り始めてるなら話は別だ。

 二度と同じことを繰り返さないように、ここで説教してやる!


「偽善者め」


 シロウが、水鉄砲を浴びせられたようにひるむ。

 だが、すぐにカッとなり、青ざめていた顔色に血の気を取り戻したシロウが、弁明するように唾を飛ばして声を荒げる。


「ッ! 偽善なんかじゃない! 俺は、本気で、ナッツとラーミアを助けたかったんだ!」


 彼をなだめようとするナッツすら乱雑に扱い、おぼつかない足取りで立ち上がったシロウが俺をにらむ。


「それの、何が悪い!」

「開き直るな」


 シロウの、筋の通らない主張を、真っ向から否定する。


「仲間を助けたいだと? 笑わせるな。貴様は他人の謀略に使われただけに過ぎん」

「違う! 俺は、本気で」

「だったら」


 違うぞ、シロウ。お前は、間違っている。


「お前は、自らの手で、ナッツとラーミアを救出すべきだったんじゃないのか」

「……ッ!」


 シロウはいよいよ、言葉を失った。

 首を振り、俺の、心の底を見透かすような視線から逃れるように目をそらし、二歩三歩と後退する。


「貴様のルーンは、人を守るための力だったんじゃないのか」


 いつの日だったか、シロウが俺に放った言葉だったはずだ。


てたんだよ、シロウ。貴様は自らの手で、貴様が貫いてきた信念を」


 お前は、自分の意志で行動していると思い込みながら、その実他人からいいように使われていたにすぎん。


「俺、は」


 どさり、と音を立て、糸切れたようにその場に崩れ落ちるシロウ。

 容赦情けはしない。

 覇道を歩むのは、俺一人でいい。

 貴様が道を踏み外すというのなら、無理やりにでも道を正してやる。


「お前がルーンを受け継いだこと。それ自体が過ちだったんだ」


 ここに来て最初のフロスヴィンダのセリフ、『本当の過ちは、やり直す機会を与えないことだ』につながってること、気づいてくれたかな⁉


 ルーン魔法を受け継いで生まれたことが間違いだったとしても、その力の使い方は自分で選べるんだっていう本当の想い、伝わったかな⁉


「俺は、俺は……ッ!」


 シロウはその場にうずくまってしまった。

 ダメみたいですね。


「シロウ。貴様はもう、二度と俺の前に姿を現すな」


 自分が犯した本当の罪に対する気づきは与えてやったんだ。

 次は、向き合う時間と、立ち直る時間を与えてやらないとな。


 かーっ、弟思いのいい兄ちゃんだこと。

 ま、俺のセリフ的にそんな思惑に気付ける奴なんていないけどな!

 わーはっは! 俺、言葉選びの天才かもしれねえ。


「行くぞ」


 ササリス、ヒアモリ、フロスヴィンダに言う。


「そだね。痛々しくって、見てらんないよ」


 おい、ササリス。

 金さえ払えばどんな病気でも直すっていう原作のお前はどこに行った。


「シロウ」


 お、ヒアモリ!

 そうだよな、短い間とは言え、戦術指南もやってたんだもんな!

 教師と教え子みたいな関係性は、そう簡単に壊れたりしないよな!


「私は、あなたが、こんなことをするために、戦い方を教えたわけじゃない」


 うわぁぁぁぁぁっ!

 まさかの追加攻撃ぃぃぃ。


「少しだけ、悲しかった」


 もうやめて、ヒアモリ!

 シロウのライフはとっくにゼロよ!

 なんかもう、悲鳴すらかすれてきてるから!

 これ以上はもうやめたげてよぉ!


「行きましょう、クロウさん。彼なら大丈夫です。きっと立ち直り、今度は力の使い方を間違えないはずです」


 おお、王女様!

 さすがだ、人格者は違う……!


 ただ、惜しむらくは、その言葉はシロウに言ってあげてくれよ!

 俺にそれを言ったところで仕方ないじゃんかよ!

 心が壊れかけてるシロウにそれを教えてあげたら、メンタル回復できたんじゃないのかよ。


(もう、なんなんだこの面々)


 カオスかよ……。


  ◇ おしらせ ◇


 このお話が本になりました!

 Web版とは異なる物語、『かませ犬転生 ~たとえば劇場版限定の悪役キャラに憧れた踏み台転生者が赤ちゃんの頃から過剰に努力して、原作一巻から主人公の前に絶望的な壁として立ちはだかるような~』が読めるのは書籍版だけ!


 まだ買ってないという方は、ぜひ、ご購入ください!

 よろしくお願いいたします!!

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