第5話 クロウ様の×言葉は×絶対ィィィィ!

 フロスヴィンダと同じく、国王の暴走を止めるべく立ち上がった革命軍の隊長ルーンガルドは、あっけなくササリスにやられてしまった。

 これでよく革命が成功すると思ったものだ!


 と、笑ってやりたいものだが、実はこれあまりにもササリスと相性が悪すぎただけ。

 ササリスの水属性に対する適性が確実にバグってる。

 どれくらいバグってるかというと、古代文明の王であるアルバスが、原作主人公であるシロウと協力して発動した合体技の水魔法ですら、あっさりと攻略するレベルでおかしい。


 水を意味するラグズのフサルク星人がササリスに挑んだ時点で勝ちの目なんてなかったんですね。

 南無三宝。


 ところで。

 ルーンガルドはササリスの糸とヒアモリの銃弾を無効化するために全身を水化し、物理無効を得ていたわけだけど、これっておかしくないだろうか。

 百歩譲って、体の水化ならわかる。

 フサルク星人の外骨格みたいな鎧には、そういう効果があるんです、と言われたら「まあ、そういうこともあるか」としか答えられないからだ。


 だけど、ルーン核はどうなのだろう。


 ファンタジー物にありがちなのは、全身がゲル状のスライムであっても核が存在し、そこを攻撃することができれば初心者でも簡単に倒せるという設定だ。

 フサルク星人も同じなのではないだろうか。


 というか、そうであってほしい。


「うーん」


 ササリスが顎に手を当てうなっている。

 どうしよう。

 なまじ長い付き合いだから、彼女が何を企んでいるかわかる気がする。


「これだ!」


 目を細めていたササリスがカッと目を見開いて、力強く宣言した。


「ぐぁっ!」


 ササリスの水を吸い、ブクブクに膨れ上がったルーンガルドが苦悶の声を漏らす。


「な、なにを、する……っ」

「大丈夫。痛みは一瞬だから」


 俺は確信した。

 そして絶望した。

 またこのエンドか、と。


(あー、これはルーン核まで水になってたパターンですね……)


 よく振り返ってみよう。

 ササリスの水属性に対する制御レベルは異常だ。

 初代ラスボスと原作主人公の合わせ技でも、簡単に制御を奪うレベルだ。


 そんな相手に、自らの魂にも等しいルーン核を水に変換して晒せばどうなるか。


「ぐぁぁぁぁぁっ!」


 断末魔。

 魂のそれが聞こえた気がした。


「ルーンガルド! 大丈夫ですか?」


 フロスヴィンダが彼を気遣う。

 だが、彼女の眉は少しずつ曇っていく。

 気にかけているはずのルーンガルドが、少しずつ恍惚な笑みを浮かべ始めたからだ。


「ひっ、あヒッ、ササリス様、あッ、蒙昧なるこの魂を導くお方っ、イギッ、クロウ様は尊きお方……ッ!」


 まーた洗脳してやがるよこいつ!

 ちょっとは痛む良心とか無いんですか!


「あがッ、違う、俺は、この星の民を守るために……ッ」


 お、いいぞルーンガルドくん! がんばれ!


「ん。いい子いい子。いままで、頑張ったね。でももう、独りで頑張らなくていいんだよ。身も心も、クロウさんにゆだねていいの。それって、とっても幸せなことだと、思わない?」


 ササリスの水魔法で魂を侵食され、自我を塗り替えられていくルーンガルドをヒアモリの全肯定が襲い掛かる!


「あ、がッ、クロウ様に仕えることは、この上ない、喜び……?」

「ん。よく言えました。偉いね。ほら、復唱しよ? せーの」

「クロウ様に仕えることは、この上ない、喜びィィィ!」

「もう一回」

「クロウ様に仕えることは、この上ない、喜びィィィ!」

「魂に刻むまで」

「クロウ様に仕えることは、この上ない、喜びィィィ!」


 だから!

 ササリスとヒアモリを組ませるなって何回も言ってるでしょうが!


(くっ、まだだ!)


 想定していたことだ。

 この二人を連れて回るとろくなことにならないなんて。

 なんの対抗手段も用意無く、このペアを連れ回すわけがないだろう!


 俺はまだ、切り札を切ってすらいない。


「ルーンガルド! 気を確かに!」


 俺にはまだ、フロスヴィンダがいる!

 彼女ならやってくれる!

 このふざけた進行を食い止める逆転の一手を、はじき出してくれる。

 さながら、打たれてみればここしかないと思える妙手のごとく!


「がっ、フロス、ヴィンダ。俺は」


 おおお、いいぞフロスヴィンダ!

 これは間違いなく逆転フラグ。

 勝負はまだついちゃいない!


「ぐああぁぁぁぁっ!」

「ル、ルーンガルド!」


 あ。


「ふ、ふふふ」


 魂から響いた叫び声がやみ、代わりに小さな笑い声が広がった。

 笑い声の性質は男に近い。

 鼻腔共鳴ではなく、胸のあたりで空気を震わせて行うタイプの発声法だ。


「ルーンガルド、大丈夫なのですか?」

「ああ、問題無いさ。フロスヴィンダ、よくぞ尊き方々を呼んできてくれた。感謝の念に堪えない」


 フロスヴィンダが顔を曇らせた。


「ルーンガルド! 正気に戻ってください!」

「くふふ、違うな、フロスヴィンダ。俺はようやく、本当の俺に目覚めただけだよ」

「そん、な……」


 おおぉい!

 フロスヴィンダ!

 違うだろ、そうじゃないだろ!


 もっと、こう、「私とルーンガルドの絆は、まやかしの力に敗れるものではありません!」的な王道展開を期待していたんだ!

 シリアス展開寄りではあったけども!

 シリアス展開寄りではあったけどもね!


「手遅れ、だったのですね……!」


 的な展開を望んでいたわけじゃないんですよ!


(あ、れ?)


 ササリスとヒアモリ。

 この二人を組ませている時点で、ほかのどんな項を式に付け加えてもカオスを抜け出すことなんてできないんじゃ……。


 あー、いや、うん。


 これは閃くと精神が削れるタイプの罠だと思う。


 何も気づかなかったことにしよう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る