Masterpiece

yokamite

　現代に生きる我々人類が住まう、この地球という星は、神々が創造した奇跡の最高傑作だ。惑星の位置と公転軌道は勿論のこと、重力の大きさと恒星である太陽と衛星である月との関係性、水や大気の存在、暑すぎず寒すぎない気温など、生命誕生に必要な諸条件が全て揃っている上に、その環境が何十億年と維持され続けている。神通力とも呼ぶべきその偉業を前にしては、人間が軽々しく口にする奇跡など、如何に仕様もない瑣末事だろうか。

　人間はこれまで、地球に現存する数多くの天然資源を活用することで発展を遂げてきた。海や川に流れる水を灌漑や飲用に供し、平野に生息する獣を畜産して農作物を栽培することによって生きる糧を手に入れてきた。植物の光合成によって絶え間なく生産され続ける大気中の酸素を当然のように享受して、時にはその美しい景観に神秘を見出し、学問や芸術の発展に寄与するようなインスピレーションを受け、文化や伝統を築き上げてきた。我々人間という種は、育ての親である地球という生息環境に対して、返しても返し切れない大恩がある。

　──しかしながら、全く以て不思議なことに、そんなこの世に存在する何よりも悠久の歴史を持つ神々の最高傑作も、我々人間という新参者の手によって、徐々に破壊され始めている。

　人間と地球は、うまく共生関係を結んできたはずだった。しかし、業突く張りで意地汚い人間はいつの時代も現状に満足せず、際限なく進化を追い求め続けた。その常軌を逸した強欲は、育ての親である地球にすら矛先を向けた。

　森林の過剰伐採や森林火災の増加に起因する地球温暖化の加速、それに伴う海水面の上昇に起因する海岸線の後退と陸地面積の減少、それによって住処を追われた気候難民の発生に起因する受入国の負担拡大、そして環境保護政策の遅滞。我々人類が直面している環境問題は、今や一般人の認識よりも遥かに深刻である。

　そのような窮状にもかかわらず、自国の事情を優先して他国を侵略する独裁者によって原子力発電所が攻撃され、インフラ設備が破壊されるなどによって所謂「エコサイド」と呼ばれる人為的な軍事的環境破壊も今日問題視されている。

　環境破壊は先進国間の直面する問題にとどまらない。先進国に追いつかんと経済発展を急ぐ途上国においても、急速な温室効果ガスの排出や公害問題が次々と惹起され、地域に根付いた伝統・文化が無視され、過酷な労働環境に耐えるためドラッグが流通して、児童や老人と言った弱者を労働力として搾取するという状況が放置されている。

　もはや環境問題は、人間社会によって引き起こされた、地球を蝕む癌だ。だが、環境破壊があまりにも多くの問題に波及していったことで、もはや癌は全身に転移した末期症状といっても過言ではない。それでも、我々人間は平然とした顔で自身の営みを守っていくので精一杯だ。

　──我々人間は、神の創りし地球という最高傑作に不治の病を齎し、破滅の一途を辿ろうとする憐れな自殺志願者なのかもしれない。