第24話 二人の合わせ技

「ごめんなサリナ」

「私は大丈夫だから気にしないで。それよりもユウくんの方が心配だよ!」

「俺は生きてるから大丈夫だよ」


 俺はサリナの肩を借りて、岩陰で身を隠す。

 サリナは鞄の中から何かを取り出そうとしている。

 焦りながら涙を流しながら、ハイポーションを取り出した。


「ユウくん、少し我慢してね」

「……ああ」


 腹に刃が刺さったままの状態でハイポーションを飲んでしまうと、刃が体内に残った状態のまま傷が治ってしまうため、サリナは俺の腹に刺さっている刃を先に抜こうとしているのだろう。

 それくらいなら我慢するさ。

 でも、無意識に腹に力が入ってしまう。


「それじゃあ、抜くよ?」


 サリナはゆっくりと刃を俺の腹から抜いた。

 体中に激痛が走る。


「ぐ……ッ……」

「ごめん! 痛かったよね!」

「いや……大丈夫」

「すぐにこれ飲んで!」


 サリナは俺にハイポーションを飲ませる。

 傷口がほんの数秒で消えていく。


 傷が治りきると、先ほどまであったはずの激痛も一緒に消えていった。


 今までこんな大怪我を負ったことがなかったので、ハイポーションの効力の凄さにただただ感心した。

 高価な物を躊躇せずに飲ませてくれたサリナには感謝してもしきれないな。


「サリナ、ありがとう」

「大丈夫だよ。それに、言ったでしょ? 絶対に勝って生き残ろうって」

「そうだったな。それじゃあ、勝ちにいくか!」

「うんっ! でも、もうお腹は大丈夫なの?」

「ああ、お陰様で」


 俺は再び立ち上がり、敵へと視線を向ける。


 岩や巨大な木の枝に潰されていた俺の腹に刃を飛ばしてきた魔物たちは白目をむいて息絶えているようだった。

 それでも、まだ魔物は残っている。

 バケモノが目覚める前に倒しきらなければならない。


 早めに倒し切ろう。


「「え……?」」


 俺とサリナは同時に驚愕の表情になった。

 敵の魔物たちが突然一か所に集まり、角を上に向けたのだ。


『急になんだ!?』


『なんかヤバそうじゃね?』


『皆、一旦退け!』


 周りの皆も同じく何が起きるのか分からずに困惑しているようだった。


『ヒィィィィィィフォォォォォオオオオオオオオオン!!!』


 魔物は叫び声をあげると同時に角の先から巨大な炎の球体が現れる。

 こいつら魔法を使うつもりなのか。


「サリナ、行こう」

「うん、ここは私たちの出番だよね」


 俺たちは先頭に立ち、武器を構え、一度深呼吸をする。


『あんたたち何するつもりなんだ?』


 俺たちが急に先頭に立ったから、不思議に思っている人たちも多くいるようだった。

 だから、俺たちは声を揃えて答える。


「「何って、あの魔物たちを討伐するんですよ」」


『あの巨大な炎の球体が見えないのか!?』


 たしかに、あの巨大な炎の球体を見れば絶望に陥る者もいるだろう。

 もしかしたら、俺も一人であの攻撃を防げと言われたら「無理だ」と即答するかもしれない。でも、一人じゃない。


 俺にはサリナがいる。

 二人で支え合いながら強敵を倒すのだ。


 不安そうに俺たちを見ている人たちが多いみたいだけど、心配しないで大丈夫だ。

 まあ、さっきまであの魔物の刃の角が腹に刺さっていたやつが何言ってるんだって思うかもしれないな。


 見ていてくれよ。

 問題ないってことを今から見せてやるから。


「サリナは雷系の魔法を頼む」

「ユウくんは?」

「水だ」

「なるほどね、任せて! 二人の魔法を合わせるってことかな?」

「ああ、そういうことだ」


 俺は弓を、サリナは狙撃銃を魔物へと向ける。


 魔力をこめて、矢を放つ。


「【水の矢ウォーター・アロー】」


 俺が矢を放つのと同時に、サリナも銃弾を撃つ。


「【雷の銃弾サンダー・バレット】」


 大量の水を纏った矢と、雷を纏った銃弾が魔物へと一直線に飛んでいき、空中で交じり合う。

 水は雷の電流が通りやすい、そのため合わせ技としては完璧な組み合わせと言えるだろう。


 矢と銃弾は水と雷の両方を纏った状態になる。


『ヒィィィィィィフォオオオオオオオアアアアアアアアアアア!!!』


 魔物たちも巨大な炎の球体を俺たちに向けて放った。

 その魔法どんだけ強力な魔法なんだ。その炎の球体の熱がこちらまで伝わってきて、俺の頬に汗が流れる。


 俺とサリナの魔法とあいつらの魔法、どちらの威力が上かぶつかった瞬間にわかるはずだ。


「「いけぇぇええっ!!!」」


 俺たちは叫び、周りの人たちも祈るように眺めている。

 もし俺たちの魔法の威力が魔物たちの者より弱かった場合は、俺たち皆の命が危うくなってしまう。だから、この魔法に皆の命が掛かっていると言っても過言ではないかもしれない。


 俺たちの魔法と魔物たちの魔法がぶつかり、爆発音がその場に響き渡る。

 炎の球体は爆発した後、煙だけを残して消えた。だが、俺たちの矢と銃弾の勢いはまだ生きており、一か所に集まっている魔物たちに直撃した。

 

 再び爆発音が響く。


「どうなった……?」


 約十秒の後に爆発の際に発生した煙が消えて、魔物の姿が目に入る。


『『『よっしゃぁぁあああああああああああああああああああ!!!』』』


 その場は歓声に沸いた。

 魔物たちは俺とサリナの魔法に直撃したため、電流が体中に流れて口から煙を吹き出しながら倒れていた。中には、焼け焦げているものもいた。


 俺の魔法の水を多く浴びたものは電流が通りやすくなっていたんだろうな。


「やったね!」

「上手くいったな!」


 その場にいるみんなで喜びを分かち合った。


 しかし、忘れてはいけない。

 馬の魔物は倒したが、本番はここからだということを。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る