第20話 情報を公開する

 翌日、サリナは俺の部屋に来た。


「ユウくん、来たよ~」

「お、いらっしゃい」


 サリナが来たのはただ遊ぶためではなく、昨日得た深層の情報を他の冒険者やダンジョン配信者たちにも教えるために動画を公開するためである。

 動画内で昨日得た情報の詳細を話すつもりだ。


「配信はやったけど、動画撮影は初めてだね」

「そうだな。でも、これはみんなに知らせないといけないから頑張ろうな」

「うんっ!」


 動画なので撮影中にミスをしまっても何度も撮りなおせるのだが、できるだけ早く動画を公開したいのでミスをしないように内容を紙に書き出しておいた。


 カメラをセットし、その前に俺たちは座る。


「心の準備はいい?」

「うん、いつでもいいよ」

「それじゃあ、始めるよ」


 俺は撮影開始ボタンを押した。


 少し緊張していたが、それ以上に早く伝えなくてはいけないと思い、紙に書き出した内容を読み上げ始める。


「今日は皆さん、特に冒険者やダンジョン配信者の方たちに伝えなければならないことがあり、この動画を撮影しています」

「今から話す内容は情報屋で得た情報なので信憑性はかなり高く、それに証拠の写真も用意してあります」


 俺が話し始めると、サリナも俺に続いて話し始めた。


 情報屋の男性からもらった深層のバケモノが映った写真をカメラの前に出す。

 俺たちが情報屋に調査を依頼するまでは知られていなかった情報だ。これを見た人たちの中にはそれぞれが色々な行動に移していくだろう。


「これは、深層の現在の姿です。この非現実的で幻想的な森、そこにこの魔物がいるようです。こいつは人間の約十倍の大きさをしているうえに、クイックバード並みの速さで飛ぶらしいです。そして、翼は刃になっています。今まで見てきたどんな魔物よりも危険だと思われます」

「これでこの動画は以上となります」

「「ご視聴いただきありがとうございました」」


 一発で撮影を完了させることができた。

 やはり、話す内容を紙に書き出しておくのは正解だったかもしれないな。


 この動画を色々な冒険者やダンジョン配信者たちに見てもらえるといいな。

 そうすれば、今の深層の状況を変えることができる可能性はある。


 もし、色々な冒険者やダンジョン配信者であのバケモノを倒しに行くとなったら、最初の情報を得た俺たちも行くつもりだ。


「撮影、上手くいったな」

「そうだね。あとはこの動画を公開するだけだね。編集とかしないでそのままの状態で公開しても良いんだよね?」

「ああ、一刻も早くこの情報をみんなに伝えたいからな」

「わかった。じゃあ、公開するね」


 俺たちは動画を編集無しの状態で公開した。

 編集をしなくても内容は伝わるからな。


「サリナ、本当に良いんだよな? 昨日の帰りに言ってたこと」

「うん、ユウくんが行くつもりなら私はどこまでも付いて行くよ。どんなに危険だとしてもね」


 昨日の帰り道でサリナと話している際に、サリナはもしこの情報を公開した後に色々な冒険者やダンジョン配信者たちがあのバケモノの討伐に向かうことになって、俺も行くならサリナも一緒に行くということを言われたのだ。


 俺は何度も本当に行くのか確認したが、何度聞いてもサリナの答えは変わらなかった。どこまでも、どんなに危険でも、俺と一緒に行くと言われたことは嬉しいのだが、サリナには出来る限り傷ついてほしくない。


 だから、俺も覚悟を決めた。

 何があっても絶対にサリナは守る、と俺は決めたのだ。


「もし、そうなったら絶対に勝って、生き残ろうな」

「もちろんだよ! 私がユウくんを守るよ!」

「俺もサリナを守るよ!」

「あははっ、じゃあお互いに支え合っていこうね」

「そうだな」


 サリナも俺と同じことを思っていたんだな。

 やはり、俺とサリナの相性はどんな冒険者やダンジョン配信者たちよりも良い気がする。



 動画を公開してから約一時間ほどが経ってから、俺たちは動画の伸びやコメントを確認する。


「ねぇ! 見てこれ!」

「え!? まじか!」


 俺たちの動画は公開からわずか一時間という短い時間にもかかわらず、すでに再生回数が百万回を超えていたのだ。

 俺たちのチャンネルが最近話題になっていたのと、深層のバケモノについて気になる人が多くてそれが嚙み合った結果だろう。


 これは俺たちにとって確実に良いことのはず。


 俺たちは最初は驚いたが、すぐにお互いの顔を見合ってからハイタッチをした。

 俺たちが求めていた以上の結果だ。


「これは確実に色々な人たちが動いてくれそうだね」

「そうだな。コメントの反応はどうだ?」

「見てみるね。えーっと、『知り合いの冒険者にも声を掛けてみる』って言ってる人が多いみたいだね」

「よかった。知り合いの冒険者にも声を掛けるってことは、みんな討伐しに行くつもりみたいだな」

「みんな勇敢だね。私たちも頑張らないとね」

「ああ、絶対に勝つぞ」


 俺たちの動画は瞬く間に拡散されて行き、その日の正午過ぎには街の中に設置されている大きなディスプレイに俺たちの動画が流され、この街に住むほとんどの人が深層の現在の状況について知ることとなった。


 そして、そのディスプレイで動画が流された後、『勇気のあるものは三日後の午前九時までにダンジョン前に集まれ!』という文が流されていた。


 もちろん、俺とサリナも行くつもりだ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る