第2話 再会

 初めてダンジョンに行った日から一週間が経った。

 俺はこの一週間毎日、ダンジョンに潜った。


 だけど、あまり深くまでは行かないようにしていた。ダンジョンは下に行けば行くほど強い魔物が現れ、一人ではどうすることもできないような魔物が出ることもあるらしいので、深くまで行くのは控えていた。


 まあ、あまり深くまで行かなくても生活できるだけの収入は得られているので良いのだが、そろそろ深くまで行ってみたいような気もする。


「どうしようかな。さすがに一人だと危険すぎるしなぁ」


 そんなことを考えながらアパートの自室のベッドの上で横になっていると、コンコン、とドアをノックする音が聞こえてくる。

 俺の部屋のインターホンは故障してしまっているので、配達の人たちが来るときも毎回、ノックしてもらうように伝えている。


「何か頼んだっけ?」


 ゆっくりとドアを開けるとそこにはオシャレなサングラスと、大きな麦わら帽子を身に着けた女性が立っていた。


「え、どちら様ですか?」

「あっ、ちょっと待ってね」


 その女性は俺に待つよう伝えると、サングラスと麦わら帽子を外した。

 すると、そこには見覚えのある姿があった。


 その女性は、一週間前にダンジョンで助けた金髪美人だったのだ。


「あ、君はダンジョンの」

「はい! そうです! あなたに助けていただいた者です」

「元気そうで良かったよ。それより、どうしてここに?」

「それはもちろん感謝を伝えるためというのもありますが、もう一つ理由があります」


 その女性は大きく深呼吸をしてから、何か覚悟を決めたような表情で俺を見つめてくる。


「もう一つの理由っていうのは?」

「それは、私と一緒にダンジョン配信者になりませんか? というお誘いです」

「えええええええええええええええええ!?!?」


 なんとその女性は一緒にダンジョン配信者になろうというのだ。

 たしかに少し興味はあったけど、誰かと一緒にやるなんて考えたこともなかった。それに、俺はこの女性の名前すら知らないのだ。


 俺をからかっているのかとも思ったが、そのためにわざわざ俺の家までくるはずがないので冗談で言っているわけではないということは分かった。


「私は本気ですよ?」

「でも、俺、君の名前すら知らないんだよ? 君も俺の名前を知らないだろう?」

「いえ、私は調べたので知っていますよ。夜見ユウさん」

「え、調べたって何!?」

「そんなことは良いんですよ。あと、私の名前を知らないか……ふふっ、やっぱり珍しい人ですね」

「え……?」


 俺が名前を知らないということを知ると、一度驚いたような表情をみせ、すぐに

笑顔をみせて嬉しそうにしていた。

 もしかすると、この辺で有名な女性だったりするのだろうか?


「あ、私の名前でしたね。私の名前は、如月きさらぎサリナです。今後ともよろしくお願いいたします」

「いやいや、まだ一緒にやるって決めてないから!」

「えー、私は本気なのに」

「それに君、さっき俺が君の名前を知らなかっただけで驚いてたでしょ。もしかして、有名な人だったりするんじゃないの?」

「お、気づいちゃいましたか。自分で言うのはなんか照れくさい気がしますけど、実は割と有名なモデルをやってます」

「モデル!?」


 女性――如月サリナは、なんと有名なモデルらしい。

 そんな有名なモデルがなぜあの日、ダンジョンにいたのだろうか。それに、今、俺と一緒にダンジョン配信をやりたいなんて言ってるし。


 モデルの仕事って忙しいイメージがあるんだけど、それをやりながらダンジョン配信やるのはかなり大変だと思うのだが。


「何か疑問を持った顔になってるよ。モデルとダンジョン配信の両立って大変じゃないのかって考えているんでしょ?」

「まあ、うん」

「それなら問題ないよ。最近、モデルの仕事を大幅に減らしているの。近いうちにモデルの仕事も辞めようかなって考えてるし」

「え……!? モデルの仕事辞めて、ダンジョン配信だけをやるってこと?」

「そう! だから、お願い! 私と一緒にダンジョン配信者になってください!」


 ダンジョン配信者にはなってもいいと思っているのだが、この二人で一緒にやっても良いのだろうか。彼女は有名なモデルらしいし、彼女のファンから妬まれたりしそうなんだけど。

 まあ、もし俺が断って彼女が一人でダンジョン配信者になって前みたいにまたダンジョンで危険な目にあっても困るし、何より彼女が上目遣いでお願いしてきているのだが俺にはそんな彼女のお願いを断れる自信がない。


「君のファンに妬まれないかな?」

「それなら大丈夫! 私のファンは私が決めた道は絶対に応援するって人たちばかりだから。それに、もし妬む人がいたら私があなたを守るよ!」

「あはは、そっか。それなら安心だね」

「あなたを妬んだり馬鹿にする人がいたら私が倒してあげるよ! それで決心はついた?」

「ああ、わかったよ。俺も君とダンジョン配信者になるよ」

「ほんと!? やったーーーーーーー!!!」


 こうして俺は如月サリナという少女と一緒にダンジョン配信者になることになった。


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