6-5伝説の人


「なぁなぁ、あの伝説の話知ってるか?」


「伝説って、あのログアウト出来なかった時の話か?」



 冒険者ギルドでその中級冒険者の彼たちは掲示板を見ながらそんな話をしている。


 ログアウトが出来なくなったあの問題から数ヶ月。

 危険視されていたフルダイブシステムのこのゲームとゲーム機は何処からの圧力か、問題視されるごとにその噂も何も否定されかき消されるかのように話題に上がりにくくなっていた。


 そしてゲーム機のメーカーも、ゲームを開発したメーカーも修正プログラムとアップデートで二度とこの問題は発生しないと豪語していた。



「でもさ、結局はあの問題って何だったか分からずじまいでその時ログアウト出来なかったやつらは皆だんまりなんだろ? 本当かなあの噂?」


「さあな、何処調べてもそん時の話はどんどん消されて行って当時の事を知ってるのはそれこそ当事者だけだもんなぁ」


 彼らは掲示板を見るのをやめてクエストの依頼が張り付けられている所へ行く。


「まあ、今じゃ伝説として語られてるけど、そんな化け物じみたプレーヤーが存在するってのが信じられん。それ自体がこのゲームの宣伝じゃないかとか言われてるもんな。お、このクエストなんかどうだ?」


「悪くはないが、俺たち二人じゃ手に負えなくないか?」


 彼らはよさそうなクエストを見ながらそんな事を言ってる。

 と、いきなり冒険者ギルドの扉が開く。



「だからぁ、あんなところで【爆裂核魔法】なんてオーバーキルの魔法使ったらだめじゃない!!」


「だってあんなに雑魚多いんじゃちまちま倒すの面倒じゃん!!」



 なんの職業かは分からないがやたらと色っぽいナイスバデーの青髪の凄い美人キャラと、清楚系を売りにした感じのかわいこちゃん風な大賢者風の二人が言い争いながら冒険者ギルドに入って来て受付のカウンターに行く。



「だからってせっかくお試しで個人ギルドに入って来た人達もろとも魔法で吹っ飛ばす?」


「そ、それは学校行き初めて実生活がきつくて寝不足なうえに寝ている間にマジカリングワールドやってるからぼうっとしてたんだって!!」



 なおも言い争いながらカウンターでアイテムボックスを開きアイテムの買取をしてもらうようだった。



「まったく、個人ギルドの運営費だってバカにならないんだからポンポン昔みたいにアイテム買わないでよ!!」


「だって錬金術師のスキルでレアアイテム作るには沢山の素材が必要なんだもん! いちいち自分で集めに行ったら時間がいくらあっても足らないわよ!!」


「あんた【空間移動】魔法使えるんだからいくらでも時間短縮できるじゃないの!」



 彼女たちはまだまだ言い争いを続けながら買取のアイテムを並べていく。

 それを中級冒険者たちは見ていて首をかしげる。


「なあ、あの買取してもらおうとしているアイテムって何だ? 見た事無いぞ??」


「分からん。俺たちがまだ探索していないエリアとかでモンスター倒してドロップでもしたか? それとも迷宮で見つけてきたか……」


 そう中級冒険者の彼らが言っているとNPCの受付嬢が決まり文句を言ってアイテムの買取をする。

 そして表示される金額を見て中級冒険者の二人は唖然とする。



「785660ゴールド!?」


「おい、見間違えじゃないのか? ゼロが一つ多いんじゃないか??」


「いや、間違いないぞ! 所有ゴールドって上限が999999ゴールドだろ? 今見ていたこのクエストだって成功で1000ゴールドだぞ? 一体どんなアイテムの買取させてるんだあの二人!?」



 彼ら中級冒険者が見守る中、その二人組の女性たちはまだ言い争いをしながら冒険者ギルドを出て行くのだった。



 * * * * *



「くっそぉ~、無理しすぎたか? おい、残りのMPは?」


「だめだ、もうほとんどない。ポーションは?」


「こっちももうないぞ! このクエスト難しすぎるんだよ!!」


「あ~っ! せっかく個人ギルドでパーティー人数上限解除なのになんでこんない強いモンスターだらけなんだよ!!」


「言ってる暇あったら防御して! 私が回復魔法もう一回かけるから、それでおしまいよ!!」


「だぁ~っ! リーダー何とかしろぉっ!!」



 北の超上級者エリアで個人ギルドが開設が出来たとばかりに上級冒険者たちのギルドパーティーはホワイトドラゴンの群れ討伐のクエストを受けていた。


 個人ギルドのシステムが解禁したおかげで個人ギルドに登録した冒険者はパーティーを組む時の上限人数を解除できる。

 普通は冒険者ギルドでのパーティー登録は最大四人まで。

 その代わりその冒険者ギルドを拠点にする限り維持費がかからない。

 しかし個人ギルドは登録した人数分維持費が毎月かかるシステムなので、必ず何かの仕事をしていないとギルド解散通知が来てしまう。


 これは個人ギルド乱立と登録した冒険者プレーヤーが放置したままにするのを防止する為のモノだった。


 双方メリットデメリットはあるが、大きなイベントの時には個人ギルドの方が断然有利である。

 なのでこうやった個人ギルドを立ち上げるも、かかる費用捻出のために冒険者プレーヤーは日々なんらかのクエストを受けている。



「とは言え、これで全滅したら所持金半分で再スタートだぞ!? 何とかここから逃げ出さないと!!」


 この個人ギルドのリーダーにて創始者は内心すごく焦っていた。

 仲間が増えるはいいが、その分維持費がかかる。

 簡単なクエストを分散してやっていてはなかなかレベルも上がらないし台所事情が良くもならない。

 なので個人ギルド全員で大きな仕事を受けて一気にレベルもあげて収入も増やそうと北の大地までやって来たはいいが、予想以上にそのクエストの難易度が高かった。



「駄目だリーダー、このままじゃ全滅しちまう!!」



 仲間の誰かがそう叫んだその時だった。



「お手伝いしましょうか?」


「こっちの取り分はドロップアイテムとゴールド七割と言う事で」



 いきなり聞こえて来たその声に振り返ると二人の女性冒険者がいた。

 

 一人はナイスバデーの露出の高い青髪の凄い美人。

 一人は清楚可憐系の可愛らしい少女。


 青髪の美人は一体何の職業かは分からないが清楚可憐の方は大賢者のようだった。



「た、助かる! その条件で手伝ってくれ!!」



 リーダーの彼はそう言いながらある噂を思い出していた。

 しかし今はそれを思い出している暇はない。



「商談成立」



 ―― 契約が成立しました。先ほどの条件でこのクエストの取り分が決まりました。戦闘に突入します ――


 ナビの宣言が全員に通達されて戦闘中のフィールドにこの二人も加算される。



「じゃ、ドラゴンはお願いね。私はこの人たち守るから、【防御壁】!!」


 彼女たちはそう言いながら十数体のホワイトドラゴンと戦っている仲間たちに防御壁魔法をかける。

 すると、あのホワイトブレスが完全に無効化された。



「なんだこれはっ!?」


「リーダー、この人たちは!?」



 戦闘中にいきなりの超高度の守りの魔法。

 仲間たちが驚いているその姿を見ながら彼はその噂を思いだしていた。




「しまったぁ! ツインデビルだぁ!!」




「「誰がツインデビルよっ! ツインラブリーでしょ!!」」

 


 防壁を展開しながらその二人は声を合わせてそう言う。

 しかしそれを聞いた他の仲間たちも凍り付く。



「な、なんだってツインデビルだと!?」


「マジかよ、窮地に陥っていると無茶な要求出して来てごっそりと報酬巻きあげて行くって言うあの二人組か!?」


「なんでこんな所に!!」


「くそ、これじゃぁ全滅して所持金半分になった方がましだぁ!!」



 個人ギルドの面々はその場で膝をつきおののく。



「まったく、あたしはそこまで非道じゃないってのに。特別スキル深淵なる者発動! 一気に行くわよ、いでよ『異界の門』!!」


 青髪の美女がそう言いながらホワイトドラゴンに手を向け、呪文らしき事を唱えると途端にドラゴンたちの後ろに大きな禍々しい扉が現れる。

 そしてその扉が開くと同時に無数の黒い手が伸び出して来てドラゴンたちを捕らえる。


 

『ぎゃお、ぎゃおぎゃおぉおおおおぉぉっ!!』 



 捕らえられたホワイトドラゴンたちはそのまま扉の中に引きづられて行く。

 そして扉が閉まる。



 ぎぃいいぃぃぃいいいぃぃぃ

 ばたん!



 ごがっ!

 ばきっ!

 どがっ!

 ぼごっ!!



 閉じられた扉の向こうから嫌な音が連続で聞こえてくる。

 しかも悲鳴は一切聞こえないでボコられる音だけ。


 それを聞いた個人ギルドの冒険者たちは抱き合ってガタガタと震え出す。

 永遠と思われたその嫌な音は何時しか聞こえなくなって、再び扉が開く。



 ぎぃいいいいぃぃぃぃ~


 ぺいっ!


 どさどさどさっ!!



 パーンッ!!



 吐き出されたホワイトドラゴンたちはその場に放り出され、地面に倒れると同時に破裂して奇麗に粉々になって来てていった。

 

 途端に個人冒険者たちに経験値とゴールド三割が入って来る。

 同時に消えてなくなったドラゴンたちがいた場所に色々とアイテムドロップが現れる。



「う~ん、ドロップアイテムはこんなモノか? お、カーバンクルがあるじゃん、らっきー!」


「まあこんなモノかしら? あら?」



 ―― 経験値が一定の数値に達しました。大賢者から上級職「悟る者」にジョブチェンジできます。上級職にジョブチェンジしますか? ――


 

 どうやら大賢者だった清楚可憐系の彼女はさらにその上にジョブチェンジできるようだ。

 それを聞いて個人ギルドのリーダーたちは目を見張る。



「職業『悟る者』だって!? それは魔法系の最高職じゃないか!!」


「お、おい本当かよ? 何百時間やってもなかなか到達できないあの上級職かよ!?」


「ほんとになれるんだ、その職業……」



 彼らがそんな事言っている目の前で大賢者の彼女は上級職にジョブチェンジを始める。

 足元に光り輝く魔法陣が現れて光のカーテンががって行く。

 そして彼女を全て覆い隠すとその光はパーンとはじけて消えてなくなる。

 残されたそこには純白の洋服に身を包んだ神々しい彼女が立っていた。



「ん~、外観はそれほど変わらないんだ?」


「でも使える魔法は系統無視しで全部だし、特別スキルを取得しているはずだよ?」



 彼女たちはそう言ってドロップ合いアテムをすべて回収してから「じゃ!」とか言ってそのまま向こうへ行ってしまった。

 途中見える範疇で襲ってきたイエティを瞬殺していたりもしたが、残された個人ギルドの面々は顔を見合わせ震える。



「や、やっぱ地道にレベル上げしよう……砂の街に戻ろうか……」



 リーダーがそう言うと他のメンバーは首が外れるのではないかと言う位ぶんぶんと首を縦に振るのだった。



 * * * * *   



「ん~、とりあえずこれで資材は手に入った。さあ、レアアイテムコンプリートの為に錬金をするわよ!!」


「いいけど、個人ギルドの仲間募集どうするのよ? 全然うちに来てくれる人がいないじゃないの?」


「それはそれ、いきなり来られてもあたしが困る。まずはお友達から始めてもらわないと。あたし奥手だから」


「だからってさっき見たいにお助けで上前ばかりはねているとまた変な名前つけられるわよ?」


「だからそれに対抗して掲示板の書き込みにあたしたち二人の通り名を『ツインラブリー』って書いてるじゃん!」


「誰もそう呼んでくれないじゃないの…… はぁ、来月も維持費稼ぐのどうしよう? いっそどこかのダンジョン攻略してこようか?」


「お、それ良いね! 景気よく全部ぶっぱなしちゃおうか!?」


「やめなさいって、また変な呼び名で呼ばれるわよ?」



 わいわいキャイキャイとそんな話をしている彼女たちは心底楽しそうだった。

 




 そしてまた彼女たちはあり得ない伝説を作る存在になるのであった。 


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