第52話・5 王宮(2)

 王宮に呼ばれたマーヤ一行。

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 傭兵ギルドを出ると黒い馬車が待って居た。


 黒色に塗られていて、金色の王冠が描かれている。誰が見ても王様の馬車だと一目で分かる。

 ダルトさんがこっそり教えてくれた。


 「ミンストネル王家の紋章はありません、王冠の金箔は本物ですが、宝玉はガラスですね。」

 「王家御用の馬車ではありますが、侍女か従者が王家の使いで使うための物だと思います。」


 馬車は大きくて私たち6人とドノバン衛兵長さんともう一人の8人が座れるほど大きかった。

 ドノバン衛兵長さんに付き添っていた一人は護衛役だったようで、皆を乗せると御者の横に乗り込んでいた。

 前の席に私、ポリィー、ダルトさんが座り、向かい合わせの席にカー爺、ドノバン衛兵長さん、アントさんの順に座った。

 付き添いの一人と、ケンドルさんはカー爺たちの後ろに在る従者席に座った。

 ケンドルさんは自分から後ろの席にさっさと乗ったので、付き添いの人が困った顔をしながら同席している。


 馬車が動き出すと、私の前に座っているカー爺が早速ドノバン衛兵長さんに話しかけた。


 「馬車に乗った以上は、王宮まで時間が少しは在るじゃろ。」

 「今回の急な召喚の訳をお聞かせ願えるかな?」


 カー爺の詰問するような言葉に、ドノバン衛兵長さんも身に覚えが在るだけに仕方が無いと教えてくれる様だ。


 「カー殿たちには申し訳なく思う。」

 「実は、陛下へ今回の結果は昨夜の内に報告したと聞いている。」

 「その時、カー殿の提案も同時にお知らせしたそうだ。」


 そう言って、ちらりとポリィーと私を見た。


 「陛下は、魔物を一掃した魔女の魔法の話を御聞きになり大層驚きに成られて。」

 「お若い陛下には魔女殿の活躍はお気に召したようでな。」

 「魔女と話したいと仰るので、迎えに参上した次第でござる。」


 「国王陛下のお呼びは魔女についてだけですか?」


 「さよう、提案は今重臣が集まって検討している最中でありましてな、結論は未だ出ておりません。」


 「そうでしたか、今回は国王陛下のお話相手に成れば良いと言う事ですかな?」


 「さようでござる。」

 「近衛隊長レイモンド伯爵から魔女殿お二人にお相手願うように頼まれております。」


 何でしょうか? カー爺が不機嫌な顔をしてます。

 何か隠れた意図がある様な気がします。


 「ドノバン衛兵長殿、誤解が在ると一大事となりますから話しますが、魔女は全て子を産んでいる女性ですじゃ。」

 「独身の魔女は寡婦しかおりません事を前提に話をさせていただく。」


 「魔女は名を秘密にして、他人には魔女としか名乗りません。」

 「今回話し相手になられるミンストネル国国王様でも、それは変わりません。」

 「そしてエルフの子に化けている魔女っ子もそれは同じだと言う事を御理解ください。」


 微妙に嘘を混ぜて誤解するようにカー爺が話してます。

 私は魔女ですが、結婚も子も産んでいません。唯一の例外ですがそれは秘密です。

 カー爺は例外の私の事は抜きにして、魔女についてオウミでは一般的な知識を話しています。

 あたかもエルフの子に化けた私もポリィーと同じ魔女だと言ってる様に聞こえます。


 「なっなっなんと!」

 「魔女にはそのような誓約が在ったとは!」

 「では、お二人共既に結婚されているのですか?」


 信じられないと言った顔で私を見るドノバン衛兵長さん。

 それはそうでしょう。見た目7歳の子供ですから、これで結婚どころか出産しているなんて信じられないですよね。


 「魔女なら、当たり前の事です。」カー爺が澄まして答えます。


 「いったいどんな方法で子供に化けているのか、魔女とは恐ろしいな。」


 そんなことありませんよ。いくら魔女でも、7歳の子供に化けれるはずがないのです。

 でも、澄まして返事します。


 「魔女の秘密ですよ」とドノバン衛兵長さんにウインクは失敗しそうなので、頷くだけにします。


 ドノバン衛兵長さんが黙り込んでしまった。色々考える事が出来たのかもしれませんね。


 馬車はしばらく町中を走った後、丘へと坂を上り始めた。

 丘の中腹にお城への門がある。


 門に近づくと、馬車はゆっくりと進むようになった。でも止まらずに門へと近づく。

 近づく馬車に対して、門の方が開いて行く。

 馬車に描かれた王冠が通行を邪魔するな! と言っているのだろう。


 第一の門を過ぎ更に丘の上へと登って行く。

 やがて第2の門も通り過ぎ、第3の門が見えて来た。

 流石第3の門では馬車は止まる様で、門番が馬車の中を確認するように覗き込んで来た。


 「ご苦労、陛下の御用でダンジョン城塞衛兵長のドノバン子爵が客人をお連れする。」


 ドノバン衛兵長さんが門番に向かって、話すと、門番の人たちが一斉に道を開けて頭を下げた。

 衛兵長の位が高いのか、子爵の爵位が高いのか分からないけど、ドノバン衛兵長さんが偉い人なのは分かった。


 馬車は第3の門を通り過ぎ、丘の頂上に立つ大きな建物へと最後の坂を上って行った。

 エントランスは大きく雨除けが張り出した作りになっている。

 玄関の前に馬車が留まると、ドノバン衛兵長さんが先に降りた。


 「どうぞ皆さん降りて貰えますか。」と降りた後、振り返って馬車内に声を掛けた。


 ダルトさんを先頭に、カー爺、私、ポリィー、アントさん、最後に従者席のケンドルさんが降り立った。

 王宮の玄関には、ドノバン衛兵長さん以外に侍従と侍女の姿をした人たちが待って居た。


 「控えの間へご案内します。」と侍従の恰好をした一人が進み出て来た。


 案内されながら、王宮の配置を覚えようとキョロキョロしていた。


 「魔女の娘さんは王宮が珍しいですかな?」とドノバン衛兵長さんから見咎められてしまった。


 別に興味が在る訳では無いけど、逃げ出す時に迷子になりそうだから、帰り路を覚えようとしていただけだ。

 城塞に建てられた城館は、イガジャ侯爵の城館しか知らないけど、それに比べればここは狭いし、古びていると思う。

 出来立ての新品の城館と数百年の歴史が在る城館を比べてしまうのは仕方ないよね。


 「私が知っている城館に比べれば歴史が在ると思っていました」と繕って言っておきます。


 「はっはっはっ! 確かに古めかしいですな。」


 私の意図など笑って吹き飛ばしたドノバン衛兵長さんが面白い事を言うと思ったのか更に話しかけて来た。


 「この砦が作られてから300年が経ってますからな、だいぶ手を入れて住みやすく変えて来たのですが、不便で暮らしにくい城なんですよ。」


 見ただけである程度は分かるけど、実際住んで実感した事がありそうだ。


――――――――――――――――――――――――

 次回は、王様とのお茶会です。

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