第30話 宇宙で一番の宝物

 「クレーンゲームみたいなもんだな」

 「クレーンゲーム?」

 宇宙観察センターの一室。いつも通り、無数の探査機から送られてくる数限りない情報を分析しているとふと、同僚がそんな呟きをもらした。

 「クレーンゲームってアレだろ? ずいぶん、昔にはやったゲーム。確か、オモチャのクレーンを操って景品をゲットするっていう……」

 「ああ。一時はかなりはやったらしい。みんな、夢中だったそうだ」

 「へえ。で、それがどうした?」

 「おれたちのやっていることもクレーンゲームと一緒だなって話」

 「クレーンゲームと?」

 「そうさ。おれたちのやっていることを考えてみろよ。新しい惑星を見つけては探査機を打ち込み、送られてくる情報を分析する。おれたちの求めるもの、『宇宙で一番の宝物』を探してな。おれたちはいままさに、宇宙規模でのクレーンゲームをやっているのさ」

 「いやいや。さすがに、そんなゲームと一緒にするのはマズいだろう。巨額の予算がかかった一大プロジェクトなんだぜ?」

 「それで、一度でも成果があったか? 景品をゲットできたか?」

 「……いや。一度もないな。残念ながら」

 「だろう? なのに、おれたちは探査機を打ち込みつづける。巨額の予算を使いながら。

 その金を民生にまわせば人々の暮らしをもっと良くすることもできる。なのに、金を使い捨てにしながら探索をつづけているんだ」

 「で、でも、おれたちの探しているものが存在しないなんて、そんな保証もないじゃないか。いつかきっと、そうさ、いつかはきっと見つかるはずだ。おれたちにとってかけがえのない価値をもつ宝、『宇宙で一番の宝物』が……」

 「昔のゲーマーたちもそうやって金を注ぎ込んだらしいぜ。何度、失敗しても『今度はとれる、今度はとれる』って言って結局、金を無駄にしてきた。おれたちがやっているのはまさにそれと同じ。だから、宇宙規模のクレーンゲームだって言うのさ」

 「うっ……」

 同僚の言葉には口ごもるしかなかった。

 たしかに、この仕事をしているといつも思う。

 ――こんなことをしていても無駄なんじゃないか。『宇宙で一番の宝物』なんてどこにも存在しないんじゃないか。いつまでも夢を見てないでいい加減、あきらめた方がいいんじゃないか、と。

 同僚がなにやら悟ったような口調で言った。

 「かくいうおれも、どうしてもあきらめられない。今度こそ、今度こそ。失敗するたびにそう思って再挑戦し、気がつけば何十年もの間、この仕事をつづけている。お前だってそうなんだろう?」

 「……ああ。無駄とは思いつつやっぱり、あきらめきれない。それだけ、人類にとって魅力的なお宝なのさ。『宇宙で一番の宝物』ってのはな」

 「それが人のさがさ。仕方ないよな」

 「ああ、その通りだ。ゲームだっていうならゲームでいいじゃないか。ゲームなら成果とか、効率とか、そんなものは気にしなくていい。ただ、楽しければ良いんだ。おれたちは結局、『宇宙で一番の宝物』探しが楽しいんだ。今度こそ。今度こそ。そんな期待にワクワクできる。だから、やっている。そうだろう?」

 「ああ。その通りだ」

 「だったら、つづけようじゃないか。お前の言う『宇宙規模でのクレーンゲーム』ってやつをさ。ゲームってのは、つづけている限り負けはない。希望をもちつづけることはできる。『金を捨てている』って言うなら、それができるだけの金を稼ぎつづければいいんだ。そうだろう?」

 「ああ。その通りだ。じゃあ、せいぜい、ふんばってゲームをつづけるとしようか。『宇宙で一番の宝物』を手に入れる、そのときまで」

 「ああ」


 そんな会話からどれだけの月日がたったろうか。

 無数の探査機から送られつづける数限りない情報。終わることのない分析作業のなかでついに、人類は見つけ出した。

 『宇宙で一番の宝物』を。

 そう。人類は巨額の予算を無駄にしながらついに、クレーンゲームに勝利した。

 求めつづけた景品をゲットしたのだ。

 探査機から送られてきた情報。

 そのなかにはまちがえようのない確かさで人工物の存在が示されていた。知的生命とその産物である文明の証拠が。

 宇宙の片隅で孤独に生きてきた人類はついに見つけ出した。

 『宇宙で一番の宝物』

 友だち、を。

                   完

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