俺が勇者で妹が魔王ってなんだこれ

亜未田久志

第1話 妹、参上。


 魔王の城、その剣呑さに誰もが恐れおののく。

「フフフ、待っていたよお兄ちゃん」

 その謁見の間の扉をぶち破る者が一人。

「来たぞ魔王! 今日こそお前の首を獲りに!」

「待ちわびたよお兄ちゃん、さあ、思い出すんだ、今日までの旅路を」

「お兄ちゃん……? 何を言って、俺の妹が魔王なわけ、俺の妹は病弱で……? あれ、俺に妹……?」

 頭を抱え蹲る勇者、魔王はそっと歩み寄るとその頭に触れた。

「さあ思い出して、あの朝の事……」


 ※


 扉が乱雑にノックされたかと思ったらぶち破られる。

「グッモーニン! お兄ちゃん!」

「う、うるせぇ……」

「さあ学校行くよ!」

「うあー……」

 いそいそと学生服に身を包み、トーストをくわえて玄関を開ける二人。

「いってきまあああああああああ!?」

 天地がひっくり返った。


 ※


 地面に背中から思い切り叩きつけられる感覚。

「いってぇ……ってうごぉ!?」

 さらにお腹が圧迫された。

 何かにのしかかられている。

 そう気づくと、そいつを押しのける。

 角の生えた、妹。

「ん?」

「いたたたた、大丈夫お兄ちゃん?」

「いや……お前こそ大丈夫か頭」

「あん?」

 いや喧嘩を売ってるわけではなく。

 とにかく身振り手振りで角を示した。

 すると妹は。

「ああ、これ、こっち来てから生えたの」

「へぇ……こっちって?」

 辺りは森にしか見えなかった。

「異世界、オリュンピア」

「……はいはいはい、なるほどな? そういう設定なのね?」

「お兄ちゃん、現実逃避はやめて」

「いやどう考えても夢だろ」

 思い切り頬をつねったら痛かった。

「じゃああれだ、今流行りの拡張現実!」

「それでもないし、どれでもない。此処は異世界、私達は転移してきたの」

「証拠は!?」

「今から見せてあげるよ、あっち向いて」

 すると向こうには巨大な狼がいた。

 体長にして六メートルはあろうか。

 その巨躯をこちらに向ける。

「SSS級ヒーラーの力見せてあげる」

「えっ、その風体でヒーラーなのお前」

全てを消し飛ばす白き光オーバー・ザ・リライト

 狼が消し飛んだ。跡形も無く。

 妹の力、魔法によって。

「フッ」

「え?」

「フハハハハハ! これぞ魔王ハデス・イン・ザ・ギャラクシーの力よ!」

「ダッッッッッッッッッサ!?」

 いやそれより。

 魔王?

「おいどういうことだ。魔王って?」

「宿命だよお兄ちゃん」

「宿命?」

「私達、兄妹は殺し合う運命、勇者と魔王なんだから」

 魔王ハデス・イン・ザ・ギャラクシーと勇者こと俺の宿命。

 俺はそれを一笑に付すと森を見渡して。

「とりあえず、森から出るか……さっきみたいた狼出たらあぶねぇし……」

「スルー!? まさかのスルーなのお兄ちゃん!?」

 無敵超人と化した妹をガン無視して森を突き進む。

 幸い、モンスターに出くわす事もなく、森から出る事が出来た。

 そこに広がるのは――


 巨大な亀の上にある都市、城塞都市、黒雲立ち込める城、都市、都市、都市の群れ、海、草原、巨峰、世界の景色が所狭しに詰め込まれていた。

 風が頬を撫でる。

「これがオリュンピア……異世界……」

「信じた? お兄ちゃん?」

「……まだわっかんねぇけど、ちょっとワクワクしてる」

「そうこなくっちゃ」

 こうして兄妹二人の冒険が始まった。

 チート魔王の妹と最弱勇者の兄。

 凸凹コンビの織りなす英雄譚が。

「私達の冒険は此処からだー!!」

「ちょっおま」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る