第51話:月明かりの下で。
マッサージのお礼に飲み物を買いに出る。
自販機で飲み物を買って戻る途中、境内に人影を見た。
「あの人影は……」
◇◆◇◆◇◆◇◆
「ちゃこ先輩!」
先輩が驚いた顔でこちらへ振り向く。
「佐伯君……」
「どうしたんです? 元気ないですよ?」
「あーうん……」
いつも元気な先輩らしからぬ、落ち込んだ顔をしている。
「そうですね、一杯付き合って下さいよ」
そう言って自販機で買ってきたオレンジジュースを取り出す。
「びっくりした~お酒かと思った」
「あはは~流石にお酒は無いですよ」
「そうだね、佐伯君はそんな子じゃ無いもんね」
そうやってケラケラ笑う先輩。
「それで、こんな私に声を掛けるなんて~襲われちゃうかなぁ~?」
「そんな事はしませんよ、気落ちした女性にそんなことしませんよ」
「あはは~流石イケメン」
「なんですかそれ、俺はそんなにイケメンじゃ無いですよ」
そう言うと何言ってるんだコイツみたいな顔をされる。
「何言ってるのこの子は……」
「何で皆、その言葉を口に出すんですか……」
「あはは~」
そう笑う先輩の視線は俺の左腕に注がれている。
(やっぱり気にしてるんだろうな……)
「先輩、気にしないで下さい」
「え?」
「だって、ずっと腕の事気にしてますよね?」
「うっ……それは……」
「ウチの母さんに言わせれば『可愛い女の子を守れた勲章なんだから誇りなさい』って言うんですから」
なんかちょっと違うけどまぁそんなこと言ってたし良いか。
「でも……佐伯君は……」
「いやいや、俺もそんな風に思ってますよ? 先輩だけじゃない真白や檸檬、蕾に藍那、それに弓場さんや雨音にも被害が出なかったとは言えないですから。友達を守れて俺は嬉しいですよ!」
「そっか……」
「あ、でも可愛い女の子のが守り甲斐あるよなぁ……雨音には自力で頑張って貰おう!」
「あはは~可愛い女の子ねぇ~、同級生ににいっぱい居て良いねぇ~」
「え? 先輩も可愛いですけど?」
「ぴょ!?」
「ぴょ?」
振り返ると先輩が顔を赤くして固まっていた。
「どうしたんですか?」
「いや、今可愛いって……」
「いやいや、すごく可愛いじゃないですか」
「ちょちょちょ! なにいってるのさ!」
「え? 先輩、滅茶苦茶美人で可愛いじゃないですか、自覚無かったんですか?」
何でこの人真っ赤になってるんだろう? 言われた事無いのかな?
「言われた事無いよ!? 」
「え~食事とか誘われた事無いんですか?」
そう言うと先輩は少し考えて手をポンっと打った。
「あ~バイト始めた位にあったね~」
「あ、あったんですか……」
「うん、でもその時高校生だったからね~流石にスルーしちゃったよ」
思い出したのか苦笑いする先輩、しかも若干嫌そうな雰囲気だ。
「何かあったんですか?」
「あぁ~うん。少ししつこい先輩がいてね、その先輩が辞めるまで結構迷惑かけちゃったからさ……それ以降誘われなくなったよ」
「あーすみません……いやな事思い出させちゃて……」
「あー良いの良いの! もう過ぎた事だし、そうだ! 怪我させちゃったし、今度ご飯に行こう。先輩が奢っちゃる!」
『良い事思いついた!』みたいな顔をしている先輩、確かにこれ以上互いに気にするのも嫌だし丁度いいかも。
「じゃあ、今回のこの怪我分と言う事で、楽しみにしています!」
そう言うと先輩は立ち上がる。
「さぁ、そろそろ寝ないと。明日は警察に行くんでしょ?」
「そうですね」
「じゃあ、おやすみ!」
「はい、おやすみなさい!」
(あれ? いつの間にか先輩とご飯に行く予定になってる? まぁいいか)
部屋に戻るといつの間にか雨音が帰って来て早々、『皆とお楽しみでしたね~』とか言ったので蹴りを一発入れといた。
◇◆◇◆◇◆◇◆
そして翌日警察に行って調書作りなどをして諸々手続きを終えた。
「ただいまー」
自宅に帰りリビングの扉を開けると
「お兄ぃ、だいじょうぶだった!?」
「誰!?」
「俺の知ってる妹はここなら笑ってるぞ!?」
「あーひっどい! 流石に大怪我した家族を笑う訳無いじゃん!」
「どの口が言うか! お前春に骨折した時爆笑してたじゃないか!」
あの合格発表の日俺が骨折した時、お見舞いに来た由愛が大爆笑したのは忘れて無いぞ。
「あの時はほら、原因が馬鹿みたいだったから……でも今回は、頭のおかしい人に襲われたんでしょ?」
「まぁ、そうだけど……って馬鹿な原因って何だよ!馬鹿な原因って!」
「だってぇ~逃げる間もなく足踏まれて骨折でしょ? しかも逃げれなくて警察に泣きついたみたいだし」
「うっ……まぁ確かにそうだけど……」
本当は違うけど。でも本当の事を言うと、どこから漏れるかわかんないからなぁ。
「まぁ、そういう訳だし。お兄ぃの事くらいは心配するよ!」
「そうか、疑って悪かったな」
「むふふ~、じゃあお土産は?」
「おまえなぁ……」
呆れつつもお土産コーナーで買った温泉饅頭を渡すのであった。
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作者です!
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次回からは夏休み編に入ります!
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