第69話 対キメナ戦?!(3)

 いや、速い!


 今度は目では追えないほどの速さだ。

 気配を頼りに、なんとか防いでいるがそれもいつまで持つかわからない。


【朧月夜】

 これは相手に気付かれることなく斬りつけることができる剣技だ。

 僕はその一撃で決めるつもりだった。

 しかし、またしてもその一撃が届くことは無かった。


 結局、その後しばらく打ち合ったのだが、僕の攻撃は一度もキメナさんに当たることなく終わった。


「タイチ殿」

「はい」

「私の負けだ」


「え? でも攻撃は当たりませんでしたよ?」


「そうだな。だが攻撃を当てることだけが戦いではない。お前の攻撃には殺気が籠っていなかった。手加減をしていたのだろう?」


「いえ、そんなことは」


「隠さなくてよい。それにな、あの時、私がわざと攻撃を受けたこともわかっていたはずだ。だからこそ、もう終わりにしようと思ったのではないか? 違うか?」


「それは」

 確かに、僕はこれ以上続けても意味がないと思って、攻撃を止めようとした。

 だけど、それが見抜かれていたなんて。


「ははは。そこまで落ち込むことは無いぞ。むしろ誇って良いことだ。それだけの実力を持ちながら、なおも向上心を忘れない。素晴らしいことではないか」


「ありがとうございます。でも、まだまだですよ。キメナさんは強かったです。全然歯が立ちませんもん」


「いや、私は本気で戦ったつもりだ。それでも勝てなかった。ならば、タイチ殿の方が強かったということであろう?」


 するとキメナさんは片膝を突き、僕に向かって頭を下げてきた。

 その行動の意味が分からず困惑していると、彼女は口を開いた。



「我が剣、そして誇りは、全てあなた様のものとなりました。何なりとお申し付けくださいませ」

 それを見ていた騎士団一同もタイチに礼を尽くす。


「ありがとうございます。今後とも、この地域の発展のために力を貸してください」

「喜んで! ご覧ください。皆、喜んでおりますぞ」

 キメナさんがそう言うと、騎士団のメンバーたちは一斉に歓声をあげた。


 こうして無事、山賊に身をやつしていた騎士団を正常化させることができた。


 ゴンバ団とジャブガ団たちは土魔法で穴を掘り、そこに壁を作り逃げられないようにしておく。

 この後、騎士団の人たちが聴取を行い、一人ずつ処分を決定していくそうだ。

 僕としては今回の水害で仕方なく山賊になってしまった者たちにはできるだけ寛大な処置をお願いしたいところだけど、この世界はそんなに甘くはないらしい。

 なので処分についてはキメナさんに一任した。


 彼女なら悪いようにはしないと信じている。

 そうして僕たちは、ようやく次の目的地であるイナム村へと向かうのだった。

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