第44話 日本人には有名な話?

 カシャムの村では次の生贄にするための仔モーホーンを準備している。


「本当にこんなので大丈夫なのか?」

「心配いりませんよ、ロイさん。昔から虎と言えばってやつです」


「昔からってお前こないだこっちの世界に来たばっかりじゃねえか」

「まあまあ、ダメだったらそのまま逃げればいいんですから」


「逃げるってお前、村の人たちの一年分の酒だぞ? これでだめだったらお前が酒飲みに殺されるぞ?」


「そうですねえ。ま、きっと大丈夫かと思います。さ、準備できましたね。それでは出発します!」

 そう、虎と言えばお酒でしょ。野生の魔獣がお酒を飲んだことがあるのかどうかはわかんないけど。


 今回ルークが出してくれた本は地球の民間伝承や民話にも登場する酔虎のお話しだった。

 まあこれが本当に有効かどうかはやってみなければわからないけど、ロイさんによると今までこんな方法でティグリス討伐を試みたという話はないそうだ。

 少し心配なので今回はアリアさんは同行させないことにした。相当粘られたがここは譲れない。


 そしてついに生贄を置く祭壇? に到着する。まずはいつものように仔モーホーンを捧げ、今回はその横に村の一年分のお酒を置いておく。

 これにもまあひと悶着あったのだがダガン村長がみんなを説得してくれたおかげでこれだけの量を確保できた。


 さて、村の人には帰ってもらい少し離れた風下でロイさんと二人、ティグリスを待つことにする。


「ティグリスが酒を飲むなんて聞いたことないけどな。そもそもあの巨体だろ? 普通の人間よりずっとアルコールに強いと思うぞ」


「でも他に方法がないじゃないですか。きっと虎だってお酒好きは多いんですよ?」

「なんでわかるんだよ。っと、来たみたいだぜ」


 森の奥の方からズシンと足音が聞こえてきた。

 どうやらかなり近くまで来ているようだ。

 音の大きさからしてかなりの大物っぽい。

 さらにしばらくすると木々の間から大きな影が現れ祭壇の方へとまっすぐに向かっていく。


 そしてしばらくして突然大きな音が響き渡る。


 ドーーーーン!


「おい!なんか様子がおかしいぞ!」

「はい、わかってます。ちょっと近づいてみましょう」

「ああ」

 近づくにつれその姿の全貌が見えてくる。


 そこには巨大な四足の獣の姿があった。

「これが、ティグリス?」


 酒樽を頭被り気持ちよさそうに眠りこけている虎の姿がそこにあった。


「こいつが寝てる間に、ってことだよな?」

「はい、僕たちだけでなんとかなりそうな気がしますし」

「よし、じゃあすぐに」

 ロイさんはすでに腰の剣を抜き臨戦態勢をとっている。


「ちょ、ちょっと待ってください。これってもしかしていけるかも?」

「なにがだ? おい、タイチ。早くしねえと起きちまったら大変だぞ!」


「ああ、えーっと。ちょっとだけ時間ください」


 急いで基礎魔法Ⅰを取り出し読み返す。

 確かこのあたりにっと。


 あった、これだ!


「アニマリス・ドミナス!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る