第12話

依那よなを仰向けに寝かせ喉の奥当たりにつくくらいまで舌を入れていくとそれに答えるかのように依那は僕の舌を交互に絡めていく。


彼女の腕を押さえつけて手を絡めて繋ぎ強く握りしめて、脇の下のところから唇で触れて胸と腹にかけてなぞるように音を立てながら舐めていき、身体を起こして彼女の足の指先を掴んでは一本ずつ愛撫するとくすぐったそうに笑っていた。

僕も細い眼をして弧を描くように微笑むと目を閉じて彼女の肌を確かめるように咥えて感じていた。太ももから股間にかけて舐めていき陰部に舌を入れようとしたら、今度は僕の陰茎を舐めたいから体勢を変えて欲しいと言ってきたので、彼女の頭を両手で掴んで手前に引いて顔を僕の股間に近づけさせた。


依那は陰茎を頬で摩り始めて口の中に含んだ後上下に動かして肉棒を食べるかのようにしゃぶりだした。食いつき方そのものに女のあでやかさを感じ取り導線が体内にしびれていくのが快感になる。

その間その背中や尻を眺めては部屋に漂う二人だけの色欲に身体を染めていき、硬くなってきたよと彼女が告げると身体を押し倒して蛇行する蛇のようにくねらせながら彼女の全身を弄り出した。


やがて熱くなった陰部にコンドームを装着させた陰茎を挿入していくと僕の二の腕を掴みながらいきむように胸を反らしていたので力を抜いて僕を見て欲しいと伝えると彼女がこちらに視線を送り微笑み合いながら、身体を突いていった。背中に滲んだ汗が流れていき、依那の恥骨の辺りまでとゆっくりと前後に腰を振り続けてキスを交えながら調子を打っていくのがやけに心地よい。

彼女がああっと、かすれ声を出してきて片腕で目の辺りを覆い先にイきそうだと発してきたので、四つん這いの体勢にさせて強く振動をかけていくと、更に彼女が喘ぎ声をあげて僕も恥じらいを捨てて激しく揺らしていった。


依那は絶頂に満たすとビクリと感電したかのように身体を反り、ぐったりと倒れてうつ伏せになり荒くなった呼吸を整えるように枕を抱えて息をゆっくり吸っていた。


「倉木さん……イけた?」

「うん……身体がピリピリする……」


僕も彼女の隣に横たわり乱れた息を整える。まるで千メートルの長距離走を三分を切って激走したみたいに心肺や脈拍が音を荒立てているようで視界も朧げに霞んでいる。

静まり返る部屋の中、枕元のランプが優しく二人を照らしていく。数分ほど経つと依那が僕の腕を伸ばして腕枕にして寄りかかってきた。


「この前より激しくて勇ましく感じたよ。ここまでして私のことが欲しいのがわかった気がする」

「そう歓迎してくれているのが堪らなく嬉しい。倉木さんに嘘がないからその心の中に入りたいって気持ちが強くなる」


彼女が仰向けになり天井に向けて片腕を伸ばすと僕はその手を握りしめ彼女がもう片方の手で僕の腕を指でなぞってきた。目を見つめ合いながら何にも変えることのできない両想いになる瞬間をお互いに読み取っていった。


「Va où tu peux, meurs où tu dois.(ヴァウテュプー、ムールウテュドワ。自分の行けるところまで行き、そして死ぬべき所で死になさい)」


「何かの言葉?」

「フランスのことわざ。人間はいつ死ぬかわからないから今の自分を思いのまま精いっぱい生きろっていう意味。新人研修の時に当時のマネージャーが教えてくれたんです。やるべき義務を果たすならどこで燃え尽きて死んでも良い。ただその代わりに顧客としてくる人には誠心誠意を持って尽くしていきなさいって話していた言葉が忘れられないんです」

「やり尽くしたら死ぬべき場所はどこで死んでも自分の決めた事か……」

「浅利さんもいつか死が見えた時に、その時の自分ってどう在りたい?」

「未来ってどう変化していくかわからないから、難しい課題になるな。けど、できれば誰かのために尽くした事が自分にも返ってきて受け入れるのなら、僕はその人生に謳歌して楽しかったんだ、それで悔いがないんだと思えれるのなら本望かもしれないな」

「一つのもろくて細長い舟に、海へ向かって漕いで行く時、私も連れていけるなら、浅利さんが先立って舵を取っていけそう?」

「できるなら、一緒に漕いでいきたい。もしどちらかがそこから落ちて助ける事ができても、二人で一緒にまた舟に乗るんだ。いくら何かに落とされてもその海原を渡っていきたいな……」

「私が朽ちても連れて行ってくれる?」

「凪悠が……もう僕を必要としなくなったら、そうしてもいいのかもしれない」

「凪悠さん、もしかして付き合っている人でもいるの?」

「いるみたいだ。真相はこれから聞き出す。事実なら僕は一人になる事を考え出すと思う」

「……次は誰と一緒になりたいですか?」

「倉木さんが嫌じゃなければ、僕と一緒に傍にいてほしい。考えてくれるか?」


依那は起き上がり下着を身につけてベッドの脇に座り込んで僕を眺めていた。僕も起きては頭を垂れてしばらく考えこんでいた。バッグからスマートフォンを取り出して転送した凪悠のメールを彼女に見せて、その文面からは凪悠の解脱げだつしたい心情も伺えると言い、自分が同じようなことをしたのなら、隠さずに話すよと告げてまずは凪悠から聞き出すべきだと助言してきた。


「ひと晩泊まっていきたい。居ても良い?」

「凪悠さんここにいる事は話している?」

「向こうも今晩は家に帰らないって言っていた」

「……じゃあ私と一緒にいてください」


依那の感情の中に眠っていたたおやかさの一端に触れた。何をするのも中途半端な僕はこの時から一意専心に彼女を守りたいと思うようになっていった。

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