第9話

僕の求めている情慾じょうよく依那よなが拒否すると考えていたが彼女は躊躇ためらわずに許すと返答し、好きでもない男から抱かれるのをなぜ嫌がらないのか尋ねた。

彼女は僕が自身に対して選別する相手を見極める視点を持っていて、会えない時間の間に自分の事を思いやりながらも特別視してくれている純朴な姿勢が好転となったからだという。


ただ僕はずっと彼女を淫らな目で追うように見ていたのに、純朴などと告げられて脳内は雑然としてまともではいられなくなったと話すと、それも正直で魅力的だと返答した。


「好きになった女性には男は皆そのような目で見ているんだよ?」

「分かってる。でも浅利さんはずっとこらえてきたんでしょう?」

「まあ……自分を抑えていたよ」

「遠慮しなくていい。今脱ぐから待っていて」


依那は僕に背中を向いてブラウスを脱ぎ始め、ピンク色のレース柄のブラジャーのフックに手をかけて外した。それと同時に胸の谷間が揺れるのが覗かれると両腕で乳房を隠してこちらを振り向いた。僕は両手をそっと握りしめて数秒ほど彼女を見つめた後に唇を重ねてキスをした。


「奥さん以外って結婚してから初めて?」

「ああ。……どう、したらいいかな……どこから触っていっていい?」

「首からが良い。その後、胸にかけて下まで脱がせていっていいですよ」


僕は生唾なまつばを飲み、言われた通りに彼女の首筋から唇でなぞるように舐め始めた。

両腕の手首を握るとブラジャーが床に落ちて、Dカップより大きい乳房があらわになると僕は左手で揉み始め右側の乳首をゆっくり音を立てながら舐めていく。

依那はその刺激に反応したのか吐息を出しながら僕の頭を撫でて片手を肩に掴みかかっていく。その間にスカートを下ろして下着の中に手を入れて尻を触るともっと攻めるように抱いて欲しいと言ってきた。


僕は膝を崩して下着を下ろし溢れるように濡れている陰部に中指で弄っていき、身体を引き寄せて彼女の尻を齧りながら舐めていくと、お互いに気持ちよさに浸り始めていき、彼女をソファの上に寝かせて僕も衣服を脱いでいった。

唇を何度も重ねては舌を入れて彼女の両耳を手で塞いでは膜の中で舌の交わす音に気持ちが高鳴り、ますます盛り上がりたくなる身を味わいたくなった。


「そうだ、コンドーム……」

「生理前だから大丈夫よ。そのまま挿れてきて……」


彼女の両脚を開いて胸の辺りに織り崩し、僕は勃起した陰茎を彼女の分泌物に塗りたくり、ゆっくりと膣の中に挿れて腰をつき始めていく。


「このまま……続けていいかい?」

「うん。外で出してね……」

「ああ」


二人の混じり合う吐息が愛おしく感じている。

彼女は僕を眺めながら時々微笑んでくれて、首をそりながら喘ぎ声を上げて溺れていくように演技をせずに本当に喜びに満ちていた。


まだ離れたくない。


僕はなかなかイかない自分に焦りを感じていたが、彼女は両手で僕の首に回して時間をかけてでもいいから最後までしてくれと言ってくれた。

少し腰の動きの速度を落として、彼女の身体を起こしては僕の上にまたがらせて再び身体を上下に突いていく。


幾度かのキスに肌を滑らせる舌の程よいざらつき加減。ゆったりとした彼女の色白くしなやかな身体つきに見惚みとれていく。


僕は次第に彼女を堕としていきたいと考えているとそろそろイッてほしいと耳元で囁いてきた。再び身体を仰向けに倒して突いていき、お互いの身体はソファから床に落ちてはみ出しながら振動を加えて動かしていく。

僕は絶頂になろうという瞬間に彼女を強く突いていき、そしてやっとの思いで達した時に僕は自然に涙が溢れてひと粒依那の頬にこぼれ落ちると、彼女は微笑んで手で拭ってくれた。


「どうだった?痛かったよね……?」

「浅利さんの方が気持ち良さそうだったよ。凄く良かった。……やったじゃん……!」


彼女は励ますように僕を抱きしめて身体を撫でてくれた。日の浅いうちに僕は彼女の究極的な肌を手に入れた気分になり、男としての自覚を改めて取り戻した。

依那が下着を身につけて台所へ行き冷蔵庫からペットボトルに入ったミネラルウォーターを差し出してくれて、二、三口飲み喉を潤すと、彼女はクスクスと笑っていた。


「何?」

「浅利さん、している時の顔ってすっごく真剣。遊びじゃないんだってわかって嬉しかった」

「こうしてもてあそぶのなら最初から倉木さんを抱かない」

「真面目。でも私は好きだよ。私が上に乗っている時の浅利さんの目が綺麗でドキドキしながら感じていた」

「痛かったでしょ?なんか最後辛そうな顔していたし……」

「あああれか。動くたびに床に落ちてテーブルの角に当たりそうだったし。ただね、その顔するのって私の昔からの癖みたい。デリヘルやっていた時も言われた事ある」

「義務じゃないよな?」

「ええ違いますよ。本命の人としているみたいに思っていたよ」

「……良かった」

「いちいち真面目に聞かなくてもいいですよ。ふふっ」

「また、ここに来てもいい?」

「さすがには……」

「やっぱり今日限りか」

「嘘。……いいですよ。次はどんな顔が見れるかな……?」

「揶揄ってるし。女優みたいで怖い」

「世の中の女優って言われている人がそうなら、一緒にしないで」

「嘘だよ。倉木さんも引っかかった」


しばらく僕らは雑談を交わし二時間の嘘のない鍾愛に浸りながら、帰り際にキスをして彼女に見送られて僕は家をあとにした。

日が沈みかけていく三原色の空の風が心地よく、足取りが軽くて地に着いた自分の身体が愛おしくてたまらなかった。

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