第5話

三週間が経った土曜日の夕方、依那と朔也が僕の家に訪れてきて、来る途中に立ち寄ったという店で買ってきてくれたオードブルを持ち込んできた。

あらかじめ僕と凪悠も調理して用意していた鶏のレモングリルや牛肉とトマトソースで煮込んだエストファドを出すと二人とも喜んでくれた。グラスを出しワインを注いで早速乾杯し、お互いの仕事について会話が始まった。


「しばらくは日本にいることになったんだ。母親も安心しているし」

「商社マンだとあちこち出向かないといけないから大変そうだな」

「まあいろんな人に会えるし楽しいと言えば楽しいよ。やっと自分の英語も伝わるようになってさ。先輩から発音とか叩き込まれたしそれまで本当に大変だったよ」

「私も大学時代海外で旅行に行った時、スペインだったかな?現地の人に英語で話してもなかなか通じなくてさ。悔しくて帰国してから語学教室の先生と特訓受けてもらっているうちにその人と仲良くなって今だに会っているよ」

「ああ、フリアさんか。あの人時々面白い日本語話してくるからな。なんだ、まだ会っていたのか。今度また会いたいな」

「なんか皆さん盛り上がっているね。」

「ああごめん。依那さんブランドコスメの店頭で働いているんでしょう?立ち仕事キツくない?」

「だいぶ慣れました。凪悠さん普段メイクってナチュラル系ですか?」

「うん。もう少しアクセントの欲しいアイシャドウが何かないかなってさ……」

「ピンクベージュ系統も似合いそう。せっかく今の時期なんだしうちの店でテスティングしてみません?」

「そうだな……海人はどう思う?」

「いいんじゃない?しばらくコスメとか買っていないだろうしさ、依那さんに見てもらえばいいじゃん」

「新作も入ってきているから良いの勧めますよ」

「ホントうまいよね。聞いているうちに惹きこまれた感じで行きたくなってきた。今度案内して。私達も連絡先交換しようよ」

「いいですよ」


女性同士の会話はとにかくよく弾み枝分かれするかのように違う内容の会話が進んでいく。二人とも姉妹のように楽し気にいて僕としても安心していた。やがて帰る時間が来て後片付けが終わろうとしている時朔也が僕ら夫婦にともう一本ビンテージワインを渡してくれた。


「高かっただろう?」

「気になくていいよ。記念日に開けて二人で飲んでよ」

「わざわざありがとうな」

「また来たい。今度は俺ら兄妹で何か作ってもてなすよ」

「分かった。楽しみにしている」

「また待っているね」

「はい」


依那と朔也が帰った後僕は凪悠とワインを飲みながら二人の印象について話をしてまた自宅に招きたいと言い僕は良い気分に浸りながら彼女の横顔を眺めて肩に手をまわして頭を撫でた。


「だいぶ酔っているよ?」

「なあ、今日一緒のベッドで寝ないか?」

「いいよ」


僕はグラスをテーブルに置いて彼女の太ももの上に横になると急に甘えてきたことに驚いていたが、僕の肩に触れてくるとお互いに手を握り合った。

その後寝室のベッドに入り彼女の胸元に抱きついてブラジャーのフックを外し上半身の服を脱がせて顔をうずめて唇で身体を愛撫していった。彼女はくすぐったそうに僕の頭を撫でては身体を横向きになり、下半身の陰部に手を入れてまさぐると濡れた下着を下ろしてそこを舐めてきてほしいと言った。


両足を開いて太ももを舐めていき大きく溜め息をこぼしては奥まで舌で舐めてくれといってきたので、膣の中に舌で回しながら愛撫してくと彼女は首を反り性感帯を感じていた。

僕も服を脱ぎ下着を下ろして陰茎を彼女の分泌物に濡らしながらゆっくりと挿入していき、腰を突きながら彼女の恥じらう表情を伺っては自分なりにこのまま堕としていきたいという気持ちで満ちていた。

すると途中で凪悠が痛がる素振りを見せていたので一旦身体を止めると止めないで最後までしてくれと言い、再び全身で突いていき彼女が絶頂に達していくのを見届けながらその刺激に駆られて僕も中で出しそうになっていた。


凪悠の身体はどこか安心感を浸っていて僕とセックスした快楽を噛みしめながら身体に抱きついてはそのひと時を心に留めてずっと我慢していた気持ちを解放させたかったと耳元で囁いていた。

だが僕は凪悠の思いとは別にもう一人の女性との面影を映し出しながら情に満たそうとしていた。そう、依那だ。僕はいつの間にか彼女の方に気持ちが揺らいでいて、凪悠をこのベッドの上で抱いたという意識はなく依那を手に入れたいと野望を持ち始めていたのである。


凪悠は義務で行為を遂行したようなものだ。離婚までは考えていないが、結婚当初から子どもは欲しくないと言ってきたのは彼女の方からだった。初めはそれに反発して別居も考えたくらい彼女の事を嫌悪しそうになったことも事実だ。

しかし、家族という点においては精神面も経済的にもいないと困るくらい頼りたいという僕自身の一方的な我儘わがままがある。

この数年で時間をかけてお互いの尊重心を深めてきたつもりだ。感謝している念も常に身を置いて彼女と向き合ってきている。


だが肝心の凪悠個人は僕の存在がどのくらい必要性があるのか腹を割って聞きたいくらいなのだ。そこに至るまで僕は微塵の渦の中で埋もれながら一人頭を抱えてきている。いわゆる臆病者だ。いち真人間として面構えはよくしてきているものの仮面の裏では心の隅で膝を抱えながら泣いているようなものなのだ。

どのタイミングで打ち明けようかと朧げな海霧の中を彷徨って一本綱の上をふらつきながら渡り歩くように身を潜めてきている者なのだ。


猛者もさでいるためには一隻の細長く脆もろい舟をどう漕いで行けばいいのかと考えては、執筆というもう一つの観念に籍を置いているようなものなのだ。

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