第2話

僕の仕事はシステムエンジニアでウェブデザインをメインとして担っている。一年のほとんどは会社に出社しない代わりに自宅の書斎が社内がわりになり約八時間ほどパソコンに向かって業務に当たっている。

この生活は五年くらい続いており正直体型もほぼ中肉中背に近い感じになってきている。合間に筋トレをしているがお腹周りの肉のつき方に異変を感じては自分の責任だと腹を両手で引っ張りながら自分を疑わしく思うのだ。


昼休憩をはさみ再びパソコンに打ち込んでいく。気がつけば夕方になり十八時の終業時刻が来ると、テレビ電話でその日の報告をして業務が終わる、というパターン化のようになっているのだ。

席から立ち上がろうとした時スマートフォンが鳴ったので出てみると大学時代の同期生から電話が来ていた。


来月辺りに同窓会を開きたいと検討しているらしく幹事を一緒にお願いしたいと話してきた。名簿が分からないので画像を送ってほしいと告げると電話を切った後に早速送信してきて、一覧を眺めていると懐かしい名前の人たちが目に入ってきた。凪悠なゆがまだ帰宅してきていないので、その間に何名かの同期生に連絡を入れ出欠を取り元気かと雑談を交わしては皆が会えるのが楽しみだと話してくれた。


ひと通り連絡を入れた後台所へ行き夕飯の用意にかかろうとした時にちょうど彼女が帰ってきた。食事時に同窓会の話をすると彼女も懐かしそうにしていた。凪悠とは大学の後輩でその頃から友人として長く付き合い他の友人から一緒になった方がいいと勧めてきた縁があり三十歳の時に籍を入れた。

彼女との付き合いはどちらかと言えば親友のような感覚で、気兼ねなく寄り添っていられる存在だ。皆はそれがうらやましいと話してくれているが、子どもがいない分最近になり距離の間隔が生じてきているのも本音である。


書斎へ入り先程の名簿を眺めているとある一人の同期生に電話をしそびれたことに気がついて連絡をしてみたがなかなか出てくれなかった。リビングへテレビを見ようとしていると着信が鳴ったので出てみるとその彼からだった。インドネシアに赴任していることもあり帰国できるかどうかが分からないと話していたので、また近くなったら連絡してくれるようにと伝えておいた。凪悠にもその件を伝えたが当日仕事の遅番があるので僕一人で行ってくれと告げてきた。


翌月、日本橋の複合施設のなかにある創作居酒屋店を数時間貸し切りにして同窓会が開かれた。三十名ほど集まってくれて皆が顔を合わせると一気に高揚していた。席を立ち別のところに顔を出すと海外に赴任していた同期生の倉木 朔也さくやが紹介したい人物がいると声をかけてきてその隣に座っている一人の女性が軽く会釈をしてきた。


「浅利。俺の妹なんだ。」

「はじめまして、倉木 依那よなといいます」


依那という女性は歳が離れており二十五歳だと言い、デパートのブランドコスメの売り場で勤務しているという。外見からは百七十センチ近くある長身に顔立ちの良いキリっとした目元や口角の上がった口元が印象的で、タイトな服装からふくよかな胸元や綺麗なカーブを描くような尻の形がどこかで男心をくすぐられてしまうようで自然に目線がそこへといってしまう。

物怖じしない様もあり、まさに若さの象徴ともいえるようなオーラも纏っていて周囲の人たちも彼女が話すと興味深そうに耳を傾けていた。


「マジで?彼氏いないの?」

「はい。いないのって不思議ですか?」

「いやそうじゃないけど、独りだと寂しくない?」

「今はそうでもないです。仕事の方が楽しいし、やりがいもあるから。友達もそこそこいるんで寂しいと思う事はないですよ」

「いる雰囲気がガッチリあるって感じだよな。依那は何やってもかっこいいよなぁ……」


彼氏がいないというおなじみの攻めが皆から入っても堂々としている様子がこちらとしても男受けする感じで聞いているだけでも面白いと思った。彼女は異性と付き合うと長く居座れる方で友達のような感覚を持った人との方が楽で付き合いやすいとも話していた。

サバサバしているようでどことなく見えないところで甘えたい様子もかもし出しそうな性格を見せている。これはおそらくだがこれまでの男性遍歴は数はかなりありそうな予感だ。

手ごたえだって知っているようで男を動かしたり底上げしたりと何かと持ち上げ上手な感じも垣間見れたようだった。


「浅利さんでしたっけ?」

「何?」

「結婚されているんですか?」

「ああ。妻がいるよ。」

「へぇ、なんか独身って感じがする。生活感とか見えないですよね。」


身体の内臓を一気にえぐり出すように今まで他人から言われたことのない言葉が突き刺さる。僕自身も愚かで気の弱い人間だなと感じたが、この人は年の割には随分と割り切って話をする人だなとも思った。


その場の雰囲気に圧迫されてしまったのかあまり長居はしたくなくなり、嘘をついてでも途中で抜けて帰ろうかと考えていると、カウンター席にいた同期生の男性がこちらに来て依那の隣に座った。

彼は泥酔に近い状態でグラスを片手に持っては彼女の肩に腕を回してきて口説き始めていた。


「この後さ、別の店で飲み直さない?」

「ごめんなさい。そろそろ帰らないといけなくて……」

「帰る?……ふっ、何でだよ?男付き合い慣れているくせに断るなんて可愛いところ見せたもんだな」

「おい、その辺にしておけって。嫌がっているだろう?」

「てか、皆さん知らないんですか?」

「あまりデカい声出すなよ。お前は俺らと一緒に帰るぞ」

「この子ね、一発でもいいからヤらせてくれるって。昔デリヘル嬢だったんでしょう?」

「お前何言ってんだよ?やめろ、誰がそんな事信じるか……」


「本当だよ」


周囲が騒然とするなかで依那は言い放ち、波が引くように皆の言葉が失った。朔也が近づいて謝るように告げたが、機嫌を損ねた彼女は席を立ちバッグとコートを取り出してその場から出て行った。


「さっきの、本当なの?」

「違うよ、依那のやつ適当に言っただけだ。」

「じゃあ帰ることもないじゃん。……デリヘルやってたってマジ?」

「信じないでくれ。そう揶揄からかわれて嫌になって帰っただけだ。家に帰ったら聞いておくから。……俺らもそろそろ解散しよう」

「そうだな。じゃあ今日はこれで上がろう。」


終始濁るような空間の中で会計を済ませた後に店頭で集合写真を撮ってから、一斉に外に出た。僕は数名の人達に声をかけて雑談を交わしながら駅までの道を歩いていき、交差点に差し掛かる手前の連絡口を降りていき、また一人二人と別の改札口へと散っていくと、帰り道である改札口に入り電車を待ち、やがてホームに入ってきた車両に乗り込み帰路へ向かった。

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